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1章 第六天魔王、異世界に降り立つ
17話 砦建設
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サブローの言葉に目を丸くするマリーに再び尋ねる。
「マリーよ。もう一度聞くが魔法で即席の砦を作ることはできるか?」
「言葉の意味がわかりかねます。砦とは何ですか?」
ん?
砦が何かだと?
いや、待て。まさかこの国では砦を築くことは無いのであろうか?
確かに国境に接しているのに、関所らしいものも見当たらぬが。
これが普通であったのか。父よ。すまぬ。無能と罵ったことは謝ろう。
しかし、マリーについて一つわかったことがある。この反応、恐らくマリーたちエルフの住む村・街・国のいずれかは、このアイランド公国の近くにある。
心躍るではないか。弓の扱いに長け、魔法の扱いに長け、近接戦闘にも長ける。得て不得手があろうとそのような者たちを味方にできれば、どれ程の戦力となろうか。楽しみが増えた、な。
「砦とは、防衛拠点のことじゃ」
「防衛拠点?街ではダメなのですか?」
成程、マリーのこの反応で、この国について、また一つわかったことがある。どうやら、この国では、街があるところ以外に砦などの防衛施設を作らないということだ。
「街まで侵入を許して、領民を不安にさせるなど為政者のすることではない。領民を守るため国境近くや立地の良い場所に砦を作り街までの間に迎撃して、領民を安心させるのが為政者というものだ」
「兵を分散させるのは得策では無いのではありませんか?街で受ければ、全ての兵力を動員できますよ?」
「それは間違いでは無いがあくまで最終手段だな。ワシは、領民を悪戯に戦に巻き込むつもりなどない。策を用いて迎撃できるのなら少数だろうが打って出て、敵将を葬る」
「成程、若様のお考えはわかりました。どのような防衛拠点にするつもりでしょうか?」
サブローは、紙を取り出すとスラスラスラと書き込んでいく。山のような小高い丘をジグザグに迷路のように道を作り、馬による移動に制限をかける。さらに丘の上の方には、大きな石を用意しておく。落石攻撃である。それだけでなく弓櫓を作り、弓による攻撃で、頂上に到達するまでに兵士を減らす工夫をした。
「これが砦なのですか?」
「うむ。どうじゃ。マリーの戦闘における魔法もみたいがワシはな。ワシを追いかけて来てくれるであろう家臣たちにもな。自身という手柄を立てさせてやりたいのだ。ヤスもタンザクも負け戦を経験した。皆で勝つ喜びを教えてやりたいのだ」
「若様は、ヤス様とタンダザーク様のケアの事も考えていたのですね。わかりました。このような簡単なもので良いのなら3日もあれば完璧に仕上げられますね」
マリーが自信満々で言うのを聞いて、サブローは嬉々として頷く。
「では、頼む」
結論として、マリーの魔法は鮮やかだった。風魔法で小高い丘を削り歩きやすい道を作り、ところどころで迷わせるような分かれ道を多数用意し、その片方は必ず窪みに行き着くようにした。
なぜ窪みにするか?
それは、魔法と弓を当てやすくするためである。丸い広場みたいになっている窪みで、行き止まりとわかって、引き返そうとしたところに弓や魔法が飛んでくるのである。敵にとってこれ程恐ろしいことはないだろう。
そして、正解の道を進んだからといって、大丈夫かといわれると、その頭上には、土魔法によって作られた大きな丸い岩の塊がある。落石である。手すりや柵などないところに岩が降ってくるのだ。当たれば、たちまち真っ逆さまに落下し、生き残ることは不可能だろう。
「このような感じで如何ですか?」
「期待以上の働きよな」
「お褒めくださり光栄にございます若様」
「にしても魔法とはこのようなことまで可能なのか」
「えぇ。まぁこんな事に魔法を使うのは若様ぐらいでしょうが」
「であるか」
サブローは、ニヤリと笑みを浮かべ眼下を見る。そこは、先程まで何も無かった山のような小高い丘ではなく、罠を張り巡らせ、攻め寄せた敵を葬る防衛拠点なのである。
しかし、この山のような小高い丘を越えなければ、オダ郡にたどり着けないわけではない。だが、そこにオダ郡を治める領主がいたとしたらどうだろうか?
ナバル郡もタルカ郡も狙いはオダ郡を併合し、郡を大きくすることである。そのために領主という存在は邪魔なのである。それが街まで行かずとも殺せて目的が成し遂げられる可能性があったとしたら?
答えは簡単だ。無理をしてでも小高い山を登り、領主であるサブロー・ハインリッヒを討つ。
かつて日の本で織田信長が対峙した今川義元はその上をいく。その戦力差は織田軍2千と今川軍2万5千。約12倍である。だが、これは全体で見たときであり、実際に対峙したのは、織田軍2千と今川軍6千程であり、3倍の差なのだ。それも打てる策を全て使って勝ち得た勝利なのである。
此度は、オダ郡6百とナバル郡とタルカ郡の連合軍3千。5倍の差に見えるが実際こちらの兵数はもっと少ないだろうとサブローは考えていた。
「ククク。最大で10倍の差か。策の見せ所よな」
「若様、楽しそうなところ申し訳ありませんがロー様たちが来たようですよ」
「であるか」
ローたちが到着したのは、3日目。そして、マリーに作らせた砦の完成も3日目。眼下には未だナバル郡とタルカ郡の兵は現れない。さらに勝ちを手繰り寄せるためサブローは集まった皆に追い返す作戦を指示する。
「マリーよ。もう一度聞くが魔法で即席の砦を作ることはできるか?」
「言葉の意味がわかりかねます。砦とは何ですか?」
ん?
砦が何かだと?
いや、待て。まさかこの国では砦を築くことは無いのであろうか?
確かに国境に接しているのに、関所らしいものも見当たらぬが。
これが普通であったのか。父よ。すまぬ。無能と罵ったことは謝ろう。
しかし、マリーについて一つわかったことがある。この反応、恐らくマリーたちエルフの住む村・街・国のいずれかは、このアイランド公国の近くにある。
心躍るではないか。弓の扱いに長け、魔法の扱いに長け、近接戦闘にも長ける。得て不得手があろうとそのような者たちを味方にできれば、どれ程の戦力となろうか。楽しみが増えた、な。
「砦とは、防衛拠点のことじゃ」
「防衛拠点?街ではダメなのですか?」
成程、マリーのこの反応で、この国について、また一つわかったことがある。どうやら、この国では、街があるところ以外に砦などの防衛施設を作らないということだ。
「街まで侵入を許して、領民を不安にさせるなど為政者のすることではない。領民を守るため国境近くや立地の良い場所に砦を作り街までの間に迎撃して、領民を安心させるのが為政者というものだ」
「兵を分散させるのは得策では無いのではありませんか?街で受ければ、全ての兵力を動員できますよ?」
「それは間違いでは無いがあくまで最終手段だな。ワシは、領民を悪戯に戦に巻き込むつもりなどない。策を用いて迎撃できるのなら少数だろうが打って出て、敵将を葬る」
「成程、若様のお考えはわかりました。どのような防衛拠点にするつもりでしょうか?」
サブローは、紙を取り出すとスラスラスラと書き込んでいく。山のような小高い丘をジグザグに迷路のように道を作り、馬による移動に制限をかける。さらに丘の上の方には、大きな石を用意しておく。落石攻撃である。それだけでなく弓櫓を作り、弓による攻撃で、頂上に到達するまでに兵士を減らす工夫をした。
「これが砦なのですか?」
「うむ。どうじゃ。マリーの戦闘における魔法もみたいがワシはな。ワシを追いかけて来てくれるであろう家臣たちにもな。自身という手柄を立てさせてやりたいのだ。ヤスもタンザクも負け戦を経験した。皆で勝つ喜びを教えてやりたいのだ」
「若様は、ヤス様とタンダザーク様のケアの事も考えていたのですね。わかりました。このような簡単なもので良いのなら3日もあれば完璧に仕上げられますね」
マリーが自信満々で言うのを聞いて、サブローは嬉々として頷く。
「では、頼む」
結論として、マリーの魔法は鮮やかだった。風魔法で小高い丘を削り歩きやすい道を作り、ところどころで迷わせるような分かれ道を多数用意し、その片方は必ず窪みに行き着くようにした。
なぜ窪みにするか?
それは、魔法と弓を当てやすくするためである。丸い広場みたいになっている窪みで、行き止まりとわかって、引き返そうとしたところに弓や魔法が飛んでくるのである。敵にとってこれ程恐ろしいことはないだろう。
そして、正解の道を進んだからといって、大丈夫かといわれると、その頭上には、土魔法によって作られた大きな丸い岩の塊がある。落石である。手すりや柵などないところに岩が降ってくるのだ。当たれば、たちまち真っ逆さまに落下し、生き残ることは不可能だろう。
「このような感じで如何ですか?」
「期待以上の働きよな」
「お褒めくださり光栄にございます若様」
「にしても魔法とはこのようなことまで可能なのか」
「えぇ。まぁこんな事に魔法を使うのは若様ぐらいでしょうが」
「であるか」
サブローは、ニヤリと笑みを浮かべ眼下を見る。そこは、先程まで何も無かった山のような小高い丘ではなく、罠を張り巡らせ、攻め寄せた敵を葬る防衛拠点なのである。
しかし、この山のような小高い丘を越えなければ、オダ郡にたどり着けないわけではない。だが、そこにオダ郡を治める領主がいたとしたらどうだろうか?
ナバル郡もタルカ郡も狙いはオダ郡を併合し、郡を大きくすることである。そのために領主という存在は邪魔なのである。それが街まで行かずとも殺せて目的が成し遂げられる可能性があったとしたら?
答えは簡単だ。無理をしてでも小高い山を登り、領主であるサブロー・ハインリッヒを討つ。
かつて日の本で織田信長が対峙した今川義元はその上をいく。その戦力差は織田軍2千と今川軍2万5千。約12倍である。だが、これは全体で見たときであり、実際に対峙したのは、織田軍2千と今川軍6千程であり、3倍の差なのだ。それも打てる策を全て使って勝ち得た勝利なのである。
此度は、オダ郡6百とナバル郡とタルカ郡の連合軍3千。5倍の差に見えるが実際こちらの兵数はもっと少ないだろうとサブローは考えていた。
「ククク。最大で10倍の差か。策の見せ所よな」
「若様、楽しそうなところ申し訳ありませんがロー様たちが来たようですよ」
「であるか」
ローたちが到着したのは、3日目。そして、マリーに作らせた砦の完成も3日目。眼下には未だナバル郡とタルカ郡の兵は現れない。さらに勝ちを手繰り寄せるためサブローは集まった皆に追い返す作戦を指示する。
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