上 下
13 / 99
1章 第六天魔王、異世界に降り立つ

13話 書斎にて

しおりを挟む
 書斎に籠ったサブローは1人で、考えていた。

 ふむぅ、あのマジカル王国の使者、名をメルセンと言ったか、使者として、数々の修羅場を潜ってきていると見たのだが、な。

 今川義元に仕えていた太原雪斎タイゲンセッサイみたいな奴はなかなかおらんということか。

 奴は、外交手腕に秀でていただけでなく兵を率いても強かった。

 ワシが人質として可愛がっておった竹千代タケチヨの奴を奪い返されたからな。

 武田・北条ホウジョウ・今川の三国同盟の立役者でもあるしな。

 ワシが田楽狭間でんがくはざまで、義元を討てたのは本当に運が良かった。

 太原雪斎の奴が生きていたら負けていたのはワシの方であったやも知れぬ。

 そんな尋常ならぬ感じをあのマジカル王国の使者は漂わせていたのだが、蓋を開けてみればワシのことをただのガキと侮る、凡愚であった。

 しかし、早期にワシに接触を図ろうと考えていた奴のことは侮れぬ。

 どんな思惑か知らぬが父を暗殺し、アイランド公国に楔を打ち込もうとしたということは、間違いあるまい。

 概ね、父によって虐げられている奴隷を利用して、反乱を起こそうとしたのだろうが奴隷たちを見て諦めたのだろう。

 ヤスの奴にしっかりと手綱を握らせていたのが幸いであったな。

 困ったあの使者は、手ぶらで帰るわけにもいかずワシを取り込もうと考えたというのがワシの推測じゃ。

 まぁ、ワシを見極めて欲しいと言われていたとしたら、ちとまずいことになったやも知れぬな。

 まぁ、侮れる相手であることは間違いあるまい。

 ハゲネズミに仕えた天才軍師を思い出すぐらいには、な。

 ハゲネズミとは、信長が農民でありながら柔軟な頭に有能だと判断し、仕えることを許した木下藤吉郎キノシタトウキチロウ、後の豊臣秀吉トヨトミヒデヨシの事である。

 あの当時は、よく奴の正妻であるおねに相談されたものじゃ。

 浮気性の旦那をなんとかしてくれ、とな。

 おねの奴を慰めるつもりで藤吉郎の奴を殊更酷く言うためにハゲネズミと渾名したのだったな。

 全く、良い思い出じゃ。

 ハゲネズミは、女が絡むと人一倍醜悪じゃからな。

 天下人になったら絢爛豪華けんらんごうかに女を囲って、好き勝手するのだろうな。

 気持ち悪いな。

 まぁ、信忠が生きている限り、藤吉郎の奴も従うじゃろう。

 向こうの世界のことは、信忠に任せれば良い。

 ワシは、こっちの世界で第二の人生を歩んであるのじゃからな。

 しかし、どこの世界も人の争いは尽きることが無いのだな。

 この世界でも天下布武を掲げる事になるとは、な。

 時代はいつだって風雲児ふううんじを求めておるのかも知れぬな。

 しかし、事は簡単ではあるまい。

 タルカ郡は、オダ郡の2倍の兵力を有し、ナバル郡は、オダ郡の4倍の兵力を有している。

 この2つが手を取り、オダ郡を切り取ろうとしているのだ。

 我が軍が現在動員できる兵力は、ここに残った500の兵と無事に戻ったヤスの率いる奴隷たちとタンザクの騎兵を合わせて、せいぜい600程じゃ。

 とてもじゃないが正攻法で打ち倒すのは厳しいであろう。

 目を瞑ったサブローの目に、侵攻軍が映った。

 これは!?

 あの時と同じ、どうやらこの世界の神から不思議な力を賜ったようじゃが、これは良い。

 タルカ郡の兵は1000、ナバル郡の兵は2000、合わせて3000か。

 絶望する兵数ではない。

 さらにこの地形、全く、田楽狭間そっくりではないか。

 義元、改めて感謝する。

 うぬは、尾張一刻であったワシを天下人に近い存在へと押し上げるきっかけとなってくれた。

 その夢は志半ばであったがな。

 全く、今頃酒を飲み交わしてあの頃のことを話して、心穏やかに楽しんでいたはずなのだが、な。

 つくづく、お天道様は、第六天魔王だいろくてんまおうと称されるワシが嫌いのようじゃ。

 さて、奇襲が1番じゃな。

 考えを纏めたサブローに扉をノックする音が聞こえる。

「ん?誰じゃ?」

「若様、マリーです。1人の邪魔をして申し訳ありません。お話ししたいことが」

「構わん。ちょうどまとめ終わったところじゃ」

「では、失礼します」

 入ってきたマリーの姿は、髪は金髪で、目は碧眼、肌の色を真っ白で、金平糖を食べてふっくらとしていたお腹周りも細く、耳が長く尖っていた。

「美しい」

 ワシとしたことがここまで見惚れるとは、思わなかった。

「この姿を見ても、若様は変わらないのですね。私は、人間ではありません」

「ん?人間ではないじゃと?」

「はい。私は、エルフと呼ばれる亜人族なのです。高い魔力を持ち、弓の扱いに長けています」

「であるか。それの何が問題かワシにはわからぬ。このような言葉を交わすことができるのであれば、血の通った人であろう」

「フフフ。やはり若様は不思議な御方です。森でエルフにあったら生きては帰れないと言われているほど恐れられている種族ですのに、全く態度を変えることはありません。だからこそ、私も若様に手を貸したくなりました」

「それは心強い。その魔力というのが魔法を使うのに必要なのであろう?」

「全く、若様は本当に聡い御方ですね。その通りです。ですが私たちに精霊石は必要ありませんよ。私たちエルフは精霊と契約していますから。流石に連続で撃ち続ければ、魔力切れとなって、回復に時間を要しますが」

「要は、人間で言うところの体力切れというものか?」

「そう思って、いただいて構いません。手を貸すに当たって、一つだけお願いがあるのですが、それはこの戦いに無事に勝ってからに致しましょう。若様、作戦とやらを教えてくださいますか?」

 ワシは、マリーに作戦を打ち明けた。

「成程、それなら皆様が居ない方が良いですね。巻き添えを喰らっては堪らないでしょうから」

 そう言ったマリーは、皆の元に一度報告に向かうとワシを抱え上げて、風のように去ったのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

異世界列島

黒酢
ファンタジー
 【速報】日本列島、異世界へ!資源・食糧・法律etc……何もかもが足りない非常事態に、現代文明崩壊のタイムリミットは約1年!?そんな詰んじゃった状態の列島に差した一筋の光明―――新大陸の発見。だが……異世界の大陸には厄介な生物。有り難くない〝宗教〟に〝覇権主義国〟と、問題の火種がハーレム状態。手足を縛られた(憲法の話)日本は、この覇権主義の世界に平和と安寧をもたらすことができるのか!?今ここに……日本国民及び在留外国人―――総勢1億3000万人―――を乗せた列島の奮闘が始まる…… 始まってしまった!! ■【毎日投稿】2019.2.27~3.1 毎日投稿ができず申し訳ありません。今日から三日間、大量投稿を致します。 今後の予定(3日間で計14話投稿予定) 2.27 20時、21時、22時、23時 2.28 7時、8時、12時、16時、21時、23時 3.1  7時、12時、16時、21時 ■なろう版とサブタイトルが異なる話もありますが、その内容は同じです。なお、一部修正をしております。また、改稿が前後しており、修正ができていない話も含まれております。ご了承ください。

【転生先が四天王の中でも最弱!の息子とか聞いてない】ハズレ転生先かと思いきや世界で唯一の氷魔法使いだった俺・・・いっちょ頑張ってみますか

他仲 波瑠都
ファンタジー
古の大戦で連合軍を勝利に導いた四人の英雄《導勝の四英傑》の末裔の息子に転生した天道明道改めマルス・エルバイス しかし彼の転生先はなんと”四天王の中でも最弱!!”と名高いエルバイス家であった。 異世界に来てまで馬鹿にされ続ける人生はまっぴらだ、とマルスは転生特典《絶剣・グランデル》を駆使して最強を目指そうと意気込むが、そんな彼を他所にどうやら様々な思惑が入り乱れ世界は終末へと向かっているようで・・・。 絶剣の刃が煌めく時、天は哭き、地は震える。悠久の時を経て遂に解かれる悪神らの封印、世界が向かうのは新たな時代かそれとも終焉か──── ぜひ読んでみてください!

幼馴染達にフラれた俺は、それに耐えられず他の学園へと転校する

あおアンドあお
ファンタジー
俺には二人の幼馴染がいた。 俺の幼馴染達は所謂エリートと呼ばれる人種だが、俺はそんな才能なんて まるでない、凡愚で普通の人種だった。 そんな幼馴染達に並び立つべく、努力もしたし、特訓もした。 だがどう頑張っても、どうあがいてもエリート達には才能の無いこの俺が 勝てる訳も道理もなく、いつの日か二人を追い駆けるのを諦めた。 自尊心が砕ける前に幼馴染達から離れる事も考えたけど、しかし結局、ぬるま湯の 関係から抜け出せず、別れずくっつかずの関係を続けていたが、そんな俺の下に 衝撃な展開が舞い込んできた。 そう...幼馴染の二人に彼氏ができたらしい。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

処理中です...