えっ俺が憧れの劉備玄徳の実の弟!兄上に天下を取らせるため尽力します。

揚惇命

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5章 天下統一

羊祜、司馬家に行く

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 羊祜は、蔡文姫に命じられ、空の小瓶を司馬家に届けに向かった。

 羊祜「司馬懿殿は御在宅でしょうか?」

 門兵A「何のようだ。貴様のようなガキに構っている程、司馬懿様はお暇ではござらん。帰られるが良い」

 門兵B「そうだそうだガキは家に帰ってママのおっぱいでも吸ってな。ケケケ」

 羊祜「そうですか。通してくれないんですね。すぅ。痛い痛い痛いよ~。誰か助けて~。門兵のおじさんたちがか弱い僕を虐めるよ~」

 民男「なんだなんだ。坊主、大丈夫か?」

 民女「アンタたち。こんな年端も行かない子供に何したのよ。それでも司馬懿様の兵なのかしら」

 老婆「この少年を殴るように司馬懿様に命じられたのかえ?」

 門兵B「いえ。その」

 門兵A「何か行き違いがあったのだろう。コイツは昨日から配属された新人ゆえ、不手際があったのなら謝ろう。我らの主、司馬懿様はいつでも誰の訪問でも受け付けている。通られるが良い」

 民男「良かったな坊主。しっかり話を聞いてもらえよ」

 羊祜「はい。ありがとうございます。本当に怖かったです」

 民女「次、泣いてるの見かけたら司馬懿様に陳情して、アンタたちの首、飛ばしてもらうから覚悟しなさい」

 門兵B「ケケッ。どの口が」

 門兵A「口を慎め馬鹿者!よーく言って聞かせるゆえ、陳情は御容赦願いたい」

 民老「陳情を出されるようなことを司馬懿様の家を預かる兵がしてしまったかも知れんことが問題なのじゃ。頼みましたぞ」

 門兵A「はっ」

 2人の視線は羊祜にやってくれたなと怒りのようなものを向けている。
 こうして中に入った羊祜を迎えたのは、司馬家の現当主である司馬懿の父、司馬防であった。

 司馬防「門兵には、懿がしばらく留守をするゆえ誰も入れるなと厳命しておいたのだが。童よ。この司馬の家に何用だ?」

 何かを探るような司馬防の目を見つめ返し、返答する羊祜。

 羊祜「司馬懿様にこれを」

 羊祜は懐から取り出した空の小瓶を司馬防に渡す。

 司馬防「これは、何だ?」

 羊祜「私の叔母である蔡文姫様の元に届けられた毒薬です」

 司馬防「毒薬?それをワシに渡すということは、これを届けたのが司馬の家の者。しいては懿の仕業だと。そう言いたいのだな。馬鹿馬鹿しい。そのようなことをして、我が家に何の利がある。蔡文姫のことは残念だ。親友の蔡邕から預かり、大切に育てていたのだが。蛮族などに連れ去られ、やっと連れ戻したと思ったら毒薬で服毒自殺するとは」

 羊祜「叔母様は、僕をおいて服毒自殺なんかしない!これは、叔母様のことを邪魔に思った誰かの陰謀なんだ。それを調べて欲しくて僕は。僕は、藁にもすがる思いでこれを届けに来たのに。何で、何で疑われなきゃいけないの。うっ。ぐすっ」

 いきなり泣き出した羊祜にたじろぐ司馬防。

 司馬防「待て、なぜそれを先に言わなかった。何も言わずにこれを差し出すから。こちらを犯人だと決めつけているのかとそう思っただけのこと」

 羊祜「ごめんなさい。気が動転していて」

 司馬防「それは仕方なかろう。だが、見たところこのような毒を仕入れられる者など限られていよう。それこそ、最近よく耳にする希望商会など。そちらを当たるのが良かろう。さぁ、話が済んだのならこの空の小瓶を持って、立ち去るが良い。ワシも暇ではないのだ」

 羊祜「そんな!?調べてくれないんですか?」

 司馬防「そんな空の小瓶1つで調べられることなど少ない。生憎、陳情が立て込んでいてな。確証もないことに付き合っていられる時間はないのだ。さぁ、帰りたまえ」

 こうして追い出された羊祜は、司馬の家先でどうしようかとウロウロとしていた。
 そこに都合よく通りかかる司馬朗。

 司馬朗「家先に子供がいるとは、珍しいこともあったものだ。どうされた?」

 羊祜「これを渡しに来たんですけど追い出されちゃって、途方に暮れてました」

 懐から取り出された空の小瓶を見て、司馬朗は動揺する。

 司馬朗「ど、ど、ど、どうしてこれを?」

 羊祜「あれれ。その反応は、おかしいなぁ?まるで何かを知ってるみたいに見えますよ」

 司馬朗「知らん。こんなもの知らん。とっとと帰るが良い」

 空の小瓶を羊祜に突き返して、その場を急いで後にしようとする司馬朗に羊祜は言う。

 羊祜「両親だけでなく叔母様まで、殺したこと絶対に許しません。例えどこに隠れていようと地獄の果てだろうと見つけ出すので、お覚悟してください。これは、その決意表明です。司馬懿にきちんと渡してください。貴方のせいで蔡文姫叔母様が亡くなったとね」

 司馬朗「ぐっ。わかったから大きな声を出すな。これは、懿の奴にきちんと渡してやる。それで良いのだろう?」

 羊祜は先程までの怖いのと違い子供らしく無邪気に言う。

 羊祜「えぇ。お願いにします。司馬朗様」

 司馬朗「!?どうして名前を」

 そう聞き返す司馬朗だったがその場に既に羊祜は居なかった。

 司馬防「そうか。曹丕も存外使えなかったか。報告御苦労だったな朗よ。それにしても顔が青ざめているぞ。疲れたのではないか?ゆっくりと休んで、懿と共に暫く隠れておけ。こちらのことは、ワシがしておいてやるゆえな」

 司馬朗「父上にお気遣いをさせてしまい、申し訳ございません。後はお任せいたします」

 司馬朗が去った後、ため息を吐く司馬防。

 司馬防「やれやれ。あの童は厄介なようだ。それにしても童に良いようにしてやられるとは。朗よ。頭が鈍っているのではないか。この先が少し心配になるわい。まぁ、ワシの命の灯火はもう僅か。心配してやっても。もはや、何もできんがな。ゴホッ。自由に動かぬ我が身が口惜しい。この命、最期まで司馬のために。ゴフッ」

 この数ヶ月後、華北を統一した曹操により、司馬防の死体が発見される。
 その傍には、遺書のようなものが置いてあった。
『曹丕様を誑かし、曹操様を隠居に追いやるように行動を起こすように命じたのは、全てワシの差金。
 ワシの命を持って罪を償わせていただくので、何卒、息子たちには寛大な御処置を』
 勿論、このようなものを間に受ける曹操ではなかったが。
 司馬家の者たちの捜索をさせても一向に誰1人として、見つかることはなかったので、この遺書を持って、華北の統一とするしかなかったのだった。
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