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5章 天下統一

董祀の反政府運動

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 司馬懿が鄴で司馬昭の裏切りによって、その身を隠す少し前のこと。
 董祀は、熱心に司馬懿批判運動をしていたが立ち止まってくれる人はおろか民衆の反応は、司馬懿を絶対的に信じていた。

 董祀「司馬懿は皆を誑かしているのだ。霊帝様が董卓であると偽報を流すように私に強要してきた。騙されてはならない。董卓の血を受け継ぐ私が断言する。霊帝様は董卓などではない。司馬懿の諫言に騙されてはならん民衆たちよ」

 民男「はぁ。また言ってら。ここ兗州は、曹操に嫌気がさして、呂布に寝返った後、司馬懿様のお陰で、ここまで立て直したんだっての。司馬懿様の言うことが真実。誰もお前の話なんて、聞かねぇよ」

 董祀「どうか。どうか聞いてほしい。司馬懿のことを絶対に信じてはならん。あの男は、曹操様の暗殺を謀ったのだ。曹丕様には人質を取るように進言するなど人道にもとる行為を繰り返してきた。皆、司馬懿の面の顔に騙されているのだ。どうか心ある者よ。私の言葉を聞いてほしい」

 民女「何、アイツ。泣いてんの。まじウケる。泣いたら聞いてくれると思ってんの」

 董祀「司馬懿は、国の簒奪を謀る悪しき男なのだ。皆、どうか私の言葉を信じてほしい」

 民老「なんじゃ。なんじゃ。また嘘つき坊主の戯言かの。司馬懿様を貶める悪ガキじゃな」

 董祀「司馬懿は、己の手を汚さず蜀漢と呉も呪術などという怪しきな術で、内部崩壊を謀った。このような外道の所業を皆は許すというのか。いや、心ある者には私の言葉がきっと届くと信じている。どうか。どうか。私の話を信じてほしい」

 老婆「蜀漢も呉も司馬懿様に仇を為す敵じゃ。何の問題があると言うんじゃ。呪術、大いに結構じゃ」

 董祀「どうか。どうか。ゴフッ」

 厳つい男「テメェ。さっきからでっかい声でウルセェんだよ!商売の邪魔だろうが。とっとと失せな。司馬懿様を悪く言う反体制論者が。俺たちがこうして生活を立て直せてんのは、司馬懿様のお陰なんだ。テメェのような戯言を垂れ流す奴の言うことなんざ誰も信じねぇよ。証拠でもあれば別だがな」

 董祀「しょ、証拠などない。だが、これは全て、私が聞いたことだ」

 厳つい男「証拠がなければ、何の意味もねぇよ。さっさと帰ってくれ。これ以上、商売の邪魔をするってなら。その身を削ぎ落として肉にしてやろうか」

 董祀「ヒッ」

 この厳つい男の職業は、肉屋であり、名を劉安リュウアンという。
 元々は、許昌近くで猟師として、動物の皮を売って、生計を立てていたのだが、仕留めた動物の肉を調理して売れば、さらに生計を立てられると考え、妻と年老いた母と3人で、ここに売りにきていた。

 劉安「(まだこの地にあんな男が居たんだな。この地は、異様だ。皆が太守の司馬懿を神のように崇めている。だからこそ、お前のような男は危なっかしい。暗殺されなければ良いが。さて、俺は俺の仕事をするとしよう)いらっしゃい。いらっしゃい。取り立ての鹿の肉はどうだい?干して燻製にした鹿の肉は戦場でのお供に最適だよ?一つ、30元だ。安いよ。安いよ」

 兵士A「旦那、10個買わせてくれ!」

 兵士B「お前、そんなに買うのかよ。俺は、あの硬い干し芋で十分だけどな」

 兵士A「何言ってんだ。旦那の作る鹿の燻製肉の旨さは絶品だ。戦場での食事事情の世界が変わるぞ。お前も試してみろって」

 兵士B「そこまで言うなら。俺も1つ貰おうかな」

 劉安「毎度ありがとうございます。いや、そこまで褒められると嬉しいものです。あぁ、貴方は、前も買ってくださいましたね。確か、曹丕との戦で、北方の備えに向かうとかで」

 兵士A「おぅ。そうだ。旦那に覚えられてた。嬉しいぜ。その時に一つだけしか買わなくてよ後悔してたんだ。また売りに来てくれて嬉しいぜ。普段は何処でやってんだ?」

 劉安「家が許昌の近くの山の中にありまして、こうして取れたものを売りに出稼ぎに来ているのです」

 兵士A「許昌か。旦那が司馬懿様の曹操暗殺に巻き込まれなくて本当に良かったぜ」

 兵士B「お前、何ペラペラ喋ってんだよ」

 兵士A「大丈夫だって、こういう店は客から聞いた事情を他で話したりしねぇんだよ」

 兵士B「でもな。万が一ってのがあるだろ」

 劉安「大丈夫ですよ。聞いた話を他言するような事はしませんから」

 兵士A「ほらな」

 兵士B「ほらなじゃねぇよ。本当にお願いしますよ」

 劉安「えぇ。ところで急いでおられるようですがまた何かありましたか?」

 兵士A「おぅ。そうなんだよ。何でも曹操が生きてたらしくてよ。司馬懿様を殺しに来るってんで、迎え撃つ準備してんだよ。今度は南の方の野営地に駐屯だ」

 兵士B「お前なぁ」

 劉安「そうでしたか。それじゃ、これはそんな大事な話をしてくれた御礼にオマケさせてもらいます」

 兵士A「オマケって、こんなに増えてんじゃねぇか。これは流石に貰えねぇよ」

 兵士B「俺のも。か、金を払いますよ」

 劉安「良いんですよ(彼らはきっと生き残る事はできないだろう。それなら最後ぐらい味のしない戦場食よりも良い食事をしてもらいたい。命とは万人に平等なのだから)」

 兵士A「ありがとよ。また旦那の鹿の肉、買わせてもらいにくるからよ」

 劉安「いつでもお待ちしております」

 兵士B「ほら、もう行くぞ」

 兵士A「あ、あぁ」

 劉安は、燻製にした肉を売り捌くと陳留を後にした。
 間も無く戦場となる所で、巻き込まれないためである。
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