上 下
537 / 589
5章 天下統一

曹丕と司馬懿の仲違い

しおりを挟む
 許昌から戦況不利と判断した司馬懿。
 洛陽にて、敵の策略とは言え献帝と妹たちを引き渡すことで見逃してもらった曹丕。
 どちらも撤退した先は同じく陳留であった。
 しかし、陳留に先に入っていたのは、司馬懿だった。

 司馬懿「やれやれ、曹丕様。この体たらく、どう責任を取られるおつもりですかな?」

 曹丕「それを言うなら仲達。貴様とて同じことであろう。父を殺すことはおろか蜀漢に強奪されるなど。父と霊帝が接近したらどうなると思っている。我が国の磐石な支配体制が揺らぐのだぞ!」

 司馬懿「貴方様は、この期に及んでまだ立場を理解しておられないのか。嘆かわしいものだ。人質を奪還され、献帝を渡し大義を失わせたのは誰か?貴方様ではありませんかな」

 曹丕「そこまで言うのなら貴様との蜜月関係もここまでだ!俺は、鄴に帰る。せいぜい蜀漢の侵攻をここ陳留で防ぐのだな仲達!」

 司馬懿「蜀漢とは先程、話が付きましたよ」

 曹丕「なんだと!?仲達、貴様ーーーー!!!我が国を蜀漢に譲り渡すと言うのか!この売国奴めが!」

 司馬懿「そのようなこと致しませんよ。ただ蜀漢としても我々が争ってくれるのは好都合ということです。お互いの利害関係が一致したので、こちら側の決着まで手を出さないという約束をしたのです。まぁ、中立を決め込んだ青州に関しては、その類ではありませんがな」

 曹丕「貴様、鮑信を売ったか!それならこちらとて、蜀漢と同盟を結んで、貴様を滅ぼすことの利点を説くまでのことだ!」

 司馬懿「ククク。果たしてそのような利点、蜀漢にありますかな。我々が争えば得をするのは蜀漢だけだというのに」

 曹丕「ぐぬぬ。だからこそ挟み撃ちで切り取りを提案すれば乗ってこよう。貴様だけは絶対に許さん」

 司馬懿「まぁ、せいぜい頑張りなさいませ。蜀漢はテコでも動かないと思いますがね」

 曹丕「やってみなければわからんであろう。貴様の顔など見たくもない!とっとと去れ」

 司馬懿「去るのは貴方様ではありませんかな。ここ陳留から」

 曹丕「フン!」

 スタスタスタとその場を後にする曹丕。
 話は変わるがこの少し前のこと司馬懿と劉義賢との間で、ここ武都にて。
 とある密約が交わされていた。

 義賢「蜀漢、益州侵攻軍総大将の劉義賢である。お初にお目にかかる司馬仲達殿」

 司馬懿「丁寧な挨拶痛み入ります。まさか、ここまでの鮮やかな侵攻を見せ付けられるとは思いませんでしたよ。主要都市5ヶ所の同時侵攻などを考えるとは」

 義賢「驚いてくれたのなら何よりだ。それにしても貴殿も下手を打ちましたな。人質を取って、無理やり従わせるなど多くの弊害が出る策を用いるなど」

 司馬懿「蜀漢の拡大が思いの外早かったのでね。なりふり構っていられなかったんですよ」

 義賢「隠す気はなく認めるということか?」

 司馬懿「今更、隠してどうなりましょう。こちらはこの状況を変えるべくお願いする立場でありますからな」

 義賢「ほぉ。司馬仲達殿は、この盤面でもまだ諦めないと。これは面白い。必勝の策とやらをお聞きしましょうか」

 司馬懿「なーに。劉義賢殿にとっても実りのある話ですよ。曹丕様のこと全ての責任を私になすりつけてくるのは、目に見えています。そこで、新たな華北の統治者が決まるまでの間、蜀漢の手出しは遠慮願いたい」

 義賢「ほぉ。大きく出たものだ。しかし、それはこちらに何の実りがあるというのですかな?このまま攻め滅ぼせる兵力を蜀漢は有しているのですぞ」

 司馬懿「それなら青州は如何ですかな?曹操様と曹丕様の権力闘争以降、中立を決め込んでおられます。説得次第で蜀漢に靡くのではありませんかな?最強の切り札も手に入れられたのですから」

 義賢「成程、だがそれは同時に領土を減らすということ。貴殿は兗州と華北だけで、蜀漢に抗えると?随分と強気なものだ」

 司馬懿「蜀漢にも弱点はあるということですよ」

 義賢「ほぉ。それは興味深いが教えてはくれないのであろう?」

 司馬懿「当然、こちらの切り札ですからな」

 義賢「良かろう。貴様との停戦協定、我が兄に相談するとしよう。こちらも攻め取った領土の安定を図りたいのでな。停戦は望むところだ」

 司馬懿「賢いお方で感謝しますぞ劉義賢殿」

 義賢「どうやって、この盤面をひっくり返すのか見せてもらうとしようか司馬仲達殿」

 司馬懿はこの時、劉義賢の顔色ばかりを窺っていた。
 そして、ある結論に達した。

 司馬懿「ククク。顔に死相が漂っていた。劉義賢の寿命はそう長くあるまい。できるだけ華北の戦線を引き延ばせば、勝手に死んでくれよう。我が策を看破するあやつさえ死ねば蜀漢など恐るるに足らん」

 同時に劉義賢も司馬懿の顔色を窺って、一つの結論に達した。

 義賢「貴様の必勝の策とは、おおよそ想像がつく。この俺が死ぬことであろう。だが、残念だったな。例え何度死の淵に立たされようとも兄上の天下のため、我が命は尽きぬ。引き延ばせられると思うなよ。俺が何の手立ても打っていないとでも。ハッハッハッハ。我が子への愛とは切っても切れぬものなのだ。参戦するであろう曹操殿を相手に挟み撃ちでどこまで耐えられるか見ものだな。司馬仲達よ。某漫画の決め台詞で締めてやろう。お前は、もう詰んでいる。いや死んでいるだったか?歳は取りたくないものだ」

 こうして仲違いを始める曹丕と司馬懿を尻目に劉義賢は、青州を手に入れるべく行動を開始する。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

えっ俺が憧れの劉備玄徳の実の弟!兄上に天下を取らせるため尽力します。補足説明と登場人物の設定資料

揚惇命
SF
『えっ俺が憧れの劉備玄徳の実の弟!兄上に天下を取らせるため尽力します。』という作品の世界観の説明補足と各勢力の登場人物の設定資料となります。 本編のネタバレを含むため本編を読んでからお読みください。 ※小説家になろう様・カクヨム様でも掲載しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

日本が危機に?第二次日露戦争

歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。 なろう、カクヨムでも連載しています。

【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部

山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。 これからどうかよろしくお願い致します! ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。

処理中です...