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5章 天下統一

曹丕の動揺

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 洛陽に向かっていた曹丕の元に長安の守備隊が走ってくる。

 長安の守備隊「ハァハァハァ、良かった曹丕様、こちらに戻られていたのですね。大変です。長安が蜀漢に落とされました!俺は、何とか逃げ出すことに成功して、急いでこのことを知らせようと漢中に向かうところでした。ハァハァハァ」

 曹丕「何だと!?それは真か。一体どこから長安を?漢中を任せた曹仁の奴が息子可愛さに密かに蜀漢と通じていたのか?そうなら漢中も蜀漢に取られたか。洛陽を取り返すのを止めて」

 賈詡「なりませんぞ。長安が落ちた今、洛陽まで失うのは、防ぐべきこと。このまま全軍で向かい洛陽を取り返すべきだ」

 逢紀「それに何の意味があるのですかな?曹丕様も言っているように漢中の曹仁は密かに蜀漢と通じていたのです。洛陽を攻めたところを漢中と長安の兵で挟撃する腹積りなのは明らか。ここは、一度、陳留に退くのが良いかと」

 賈詡「曹仁殿は、そのようなことをなさる人では無い。与えられた役目を全うなされる方だ。長安が落ちたことを知らないはず。今ならまだ洛陽の陥落は防げるのだ。何卒、何卒、洛陽の奪還を」

 審配「そんなことをして、万が一、囲まれでもしたら終わりますぞ。速やかに陳留へ後退して、立て直すのが良いだろう」

 郭図「洛陽の奪還は簡単かと。こちらには献帝がいる。献帝を殺すと脅せば、伏寿は降伏せざるおえないかと。ヒヒヒ」

 曹丕「成程、その手が。良し、全軍洛陽を目指す」

 賈詡は胸を撫で下ろした。
 ふぅ。
 これで、何とか最悪の結果は、免れよう。
 献帝を殺せば大義を失う。
 脅しとはいえ、そうならんように細心の注意は払わねばならんが。
 しかし、蜀漢はどうやって長安へ?
 漢中も涼州もこちらの勢力地域。
 抜け道など存在せん。
 情報が無いのもおかしい。
 待て、長安が落ちたとして、ここまで徹底的な情報統制を敷いてる蜀漢が守備兵が逃げるのを見逃すだろうか?
 まさか、洛陽に向かうように仕向けている。
 いや、だとしてもだ。
 ここで洛陽を失えば、立て直しは難しくなる
 正解のはずだ。
 何か、引っかかる。

 賈詡「先程、知らせに来た兵はいるか?」

 辛評「その者なら漢中に知らせに行くと」

 賈詡「漢中に?」

 辛評「何か問題でも?」

 賈詡「いや」

 俺の考えすぎか?
 曹仁殿のこと、蜀漢と通じていることはないだろう。
 だが、先程の兵がこちらを洛陽に向かわせるように仕向ける役割とともに漢中の曹仁殿へ人質の解放を知らせる使者だったとしたらどうだ?
 曹仁殿のこと。
 すぐに降伏は選ばないとしても、情報の確認のため漢中を放棄することは考えられよう。
 まさか、俺がここまで簡単に掌で転がされるとは、蜀漢には、謀略に優れる化け物がいるのか。
 洛陽で何も起きなければ良いが。

 曹丕「何故!?洛陽に蜀漢の旗が」

 関羽「曹丕よ。よく来たな。その首、この関雲長が貰い受けようぞ」

 張飛「燕人張飛、推参ってな。おぅおぅ、この城は俺たちが貰っちまったぜ曹丕さんよぉ」

 徐庶「魏王、献帝様を速やかにこちらにお渡しくださるなら陳留に退くのを見逃し」

 逢紀「上から目線で、物を言うとは、こちらの方が兵は多いのだ。攻め滅ぼせるのだぞ。そちらこそ、速やかに洛陽を渡すのだ」

 曹丕「逢紀のいう通り。そうであったな」

 賈詡「兵たちはそうではありませんが」

 魏兵「か、か、か、関羽。軍神と恐れられし関羽にここまで侵攻されてるなんて、もうおしまいだぁぁぁぁぁぁぁ」

 曹丕「待て、お前たち何をして」

 1人の魏兵が献帝と曹憲・曹節・曹華の3人を連れて、見逃して欲しさに前に出ていたのだ。

 魏兵「曹丕様は、献帝様と奥方様をそちらに引き渡します。だから何卒、何卒、我らが陳留へ退くことをお許しください」

 賈詡「そいつを止めるのだ。敵の間者だ」

 魏兵?「へぇ?よくわかったじゃねぇか感心感心。でも少し気付くのが遅いんじゃねぇか?」

 曹憲「やめてください。曹丕お兄様、助けて」

 曹丕「うぐぐ。やめよ。こうなっては仕方なし。陳留に退く」

 曹節「そんな、お兄様は私たちを見捨てるのね」

 曹丕「我が身の方が大事に決まっているだろう!」

 曹華「そんな。うっうぅ。私たちは蜀漢の慰み者になるのですわ」

 曹丕「だから、どうした。関羽とやら、これで見逃すのだな?」

 関羽「あっあぁ。ゴホン。見逃すのは今回だけと心得るのだな」

 張飛「兄者、良いのかよ」

 関羽「仕方なかろう」

 こうして、曹丕は陳留へと退いた。
 しかし、勿論ここに関羽や張飛がいるわけがない。

 張飛?「徐庶殿、これで良いのですか?」

 徐庶「上出来かな。声だけはお父さんそっくりなのが役に立ったね張紹チョウショウ殿」

 張紹「肝が冷えましたよ。台本があると言っても緊張で声が震えないか」

 徐庶「まぁ、良い緊張感だったんじゃいかな。伏皇后様、献帝様の奪還に成功しました」

 伏寿「ありがとう。ありがとう。蜀漢の軍師、徐元直殿」

 徐庶「いえ、これで霊帝様もお喜びになられますので」

 関羽?「あの俺は俺はどうでしたか徐庶殿」

 徐庶「えぇ、途中危ない箇所が見受けられましたが、上出来だったかな関索殿」

 関索「お役に立てたなら良かったですよ」

 そう、徐庶以外は張飛と関羽の子供、しかも兵は全くのハリボテ。
 魏兵のフリをしていたのは。

 魏兵?「ったく。危ないことは俺かよ。荀彧軍師もこんなこと頼むなんてよ」

 徐庶「翔殿、任務御苦労様です」

 曹憲たちが伏寿に抱き付く。

 曹憲・曹節・曹華「伏寿様~」

 伏寿「貴方たちもよく任務を果たしてくれました。曹丕の冷たさを目の当たりによく演技しましたね。良い子たちですよ」

 曹憲・曹節・曹華「エヘヘ。伏寿様の手、あったかい」

 母を幼い頃に亡くした3人は曹操によって献帝の妃として、送り込まれたのである。
 伏寿は、そんな3人を排除するのではなく母のような優しさで包み込んだのである。
 その結果、3人とも本当の母のように伏寿を慕い、任務を全うしたのである。
 未だ目を覚さない献帝の側には、董貴人が付いていた。

 董瑶「皇后様、私の父のせいで」

 伏寿「大丈夫ですよ。貴方も無事で良かった」

 洛陽をも失った曹丕に、動揺が走っていた。
 分断された涼州・漢中も落ちるのは時間の問題である事。
 惨めに陳留へと敗走する事となったこと。
 そして絶望はまだ始まったばかりであるということに。
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