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5章 天下統一

包囲を突破する孫翊

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 孫翊の元に各地の戦況が届けられる。

 伝令A「董襲様、苦戦しつつも何とか持ち堪えています」

 孫翊「うむ。流石、兄上が認めた武の者だ。そのまま惹きつけつつ、後退を始めるように伝えよ」

 伝令A「はっ」

 伝令Aと入れ替わる形で伝令Bが報告する。

 伝令B「周善様、お討ち死に。高順がこちらに向かっております」

 孫翊「そちらは無理なことはわかっていた。報告御苦労、できる限りバラバラに逃げて、高順隊をばらけさせよ」

 伝令B「生き残ることを優先した周善様の兵は、もう既にバラバラに逃げて、その背を高順隊が追っています」

 孫翊「良し。勝手な真似ではあるが。功は奏したな。高順が来るまでの時間は作れた。お前もゆっくり休め。といってもこの窮地を抜けなければ、休めんがな」

 伝令B「この命は、呉王のために。お供致します」

 孫翊「うむ。頼りにしている」

 伝令Bとの話が終わると伝令Cが報告した。

 伝令C「蒋欽様、苦戦。張燕隊の勢い凄まじく。壊滅間近」

 孫翊「ここで蒋欽を失うわけには行かないな。左咸《サカン》、俺のために死んでくれるか?」

 左咸は、厳格な武人で、孫翊の傅役を任されている人物でもあった。そんな男に孫翊は、死んでくれと頼んだのだ。

 左咸「心得ました。蒋欽殿と代わり、その場に留まりましょうぞ」

 孫翊「すまぬ」

 左咸「構いませぬ。呉王よ。必ず生きて、この敗戦を活かすのですぞ」

 孫翊「わかっている。あまりにも犠牲の多い戦いとなるだろうが、俺が生きていれば、再起は可能だ」

 左咸「その言葉を聞き、安心しましたぞ」

 左咸が一軍を率いて、蒋欽のところに援軍に向かう。伝令Cの報告が終わると伝令Dが報告する。

 伝令D「賈華様、お討ち死に。兵は離散。その背を追い呂布隊が離れ、その場には敵軍の軍師のみが残ったとのこと」

 孫翊「賈華よ。お前の命令無視が好機を生み出すとはな。全軍一本の槍となれ。蜂矢の陣を敷くのだ。油断した敵軍の軍師を討ち取り、包囲を抜けるぞ」

 孫翊はスムーズに蜂矢の陣を敷く。

 孫翊「活路は後ろにあらず前にある。全軍、一本の槍となり、正面を突破する。誰が倒れようとも気にせず前だけを目指せ!これは命令だ。倒れる者、付いてこれないものを俺はここに置いていく!必ずやこの包囲を突破し、再起を図るため、皆の力を俺に貸すのだ」

 うおおおおおおおおと一際大きな雄叫びと危機迫る気迫に追い込んでいるはずの呂布軍が怯むほどだった。そして、その隙を見逃す孫翊ではない。

 孫翊「全軍突撃」

 孫翊を先頭に、先程まで呂布がいたところに向かって、一点突破を敢行したのである。その姿は、まさに獅子と呼べる勇ましい姿で、孤立した高順の兵と呂布の兵がその勢いに飲まれて粉砕されていく。

 高順の兵「大将首、自ら来てくれるとはな。その首、グハッ」

 呂布の兵「た、大将首!呂布様に報告せよ!ガハッ」

 孫翊の動きに気づいた成廉隊と魏越隊が側面を突きにくるが孫翊は、これに対し気にせず前しか見ていない。それに疲れで付いていけなくなった兵たちが自然とそれを食い止めるように動き、孫翊のために時間を作る。

 成廉「クソッ。鬱陶しい奴らだ」

 呉の兵「孫翊様は討たせねぇ」

 薛蘭「コイツら斬っても斬っても立ち上がってきます」

 李封「浅い攻撃は意味がない!確実にその命を狩るのだ!」

 曹性「ぐっ。昔の古傷が痛む。片手では押し返すのは、厳しいか」

 文字通り死兵と化した呉の兵を相手に、成廉隊は完全に動きを封じられた。同じことが魏越隊でも起こっていた。

 魏越「兄貴、今本陣は手薄なんだよな?」

 魏続「先程、呂布様が追撃していくのが見えた。本陣にいるのは荀攸軍師と少数の兵だろう」

 侯成「張燕殿は?」

 宗憲「高順殿と左右を挟撃して、敵将の1人を追い詰めていたが入れ替わるような形で新手の相手をしている」

 侯成「全てが孫翊有利に動いている。まさか、これを待っていた?」

 魏越「だとしたら荀攸軍師が危ねぇぞ」

 宗憲「でもコイツらがまとわりついてきて、身動きが取れねぇ」

 呉の兵「孫翊様の元には絶対に行かせねぇ」

 死を諸共しない死兵とは恐ろしいのだ。それは、呂布軍の武を司る3番手である魏越と4番手である成廉と言えども例外ではない。ただの兵と侮ることなかれ、一人一人が死を恐れぬこの戦で命を燃やし尽くすと決めた猛将なのである。

 孫翊「アイツら。すまぬ。その忠義、感謝する」

 孫翊は追って来ていた呂布軍の隊の2つが止まったことに感謝しながらも後ろは向かない。それは、彼らへの忠節への侮蔑だと思ったからである。そして、目の前に呂布の本陣を捉える。

 孫翊「通りすがりに呂布軍の軍師を討ち取るぞ。全軍、正面に突っ込め!」

 荀攸「馬鹿な!?あの包囲を突破したというのか」

 呂布の兵「荀攸軍師はお逃げください。ここは我らに」

 荀攸「フッ。馬鹿を言うな。お前たちも劉備様の大事な民だ。それを守らずに逃げ出すなどできようか」

 覚悟を決めた荀攸は少数の兵を周りに固め、迎え撃つ。

 孫翊「勝利を確信し、手負と侮ったのが間違いだったな」

 荀攸「あぁ、それは認めよう。呂布殿が正しかったとな。だがそれも、お前を討てば、終わることだ」

 孫翊「今や兵数は逆転した。だが、俺は油断はせん。アイツらの想いに報いるためにもお前だけでも討ち取らせてもらうぞ!」

 孫翊は突撃ざまに荀攸を斬る。しかし手応えが無い。

 ???「無茶をするな荀攸」

 荀攸「呂布殿、どうして、ここに?」

 呂布「戦で最も大事なのは、触覚だ。肌にひしひしと強者の気配を感じたのでな。急いで戻ってきた。無事で何よりだ荀攸」

 荀攸「はぁ。まぁ感謝しますよ。これで形勢は」

 呂布「俺1人で変えられるほど良い状況ではない。敵は死兵。ここはこちらの負けだな。油断したな荀攸」

 荀攸「まぁ。そうですね。早期決着を焦りましたよ」

 そこには赤兎馬の背に荀攸を乗せる呂布が居た。

 呂布「先頭を走って、勇猛果敢な見事な正面突破であった孫翊よ」

 孫翊「鬼神に褒められるとは光栄だ。軍師の1人は討ち取っておきたかったが、この場は仕方ない。勝負は預けるぞ呂布」

 互いに名前を名乗っていないが目の前にいる相手が孫翊と呂布だと2人にはわかっていた。

 呂布「こちらは現状不利な側、逃げてくれるならこれほど有難いことはない。行かれるが良い」

 孫翊「感謝する。このようなことを頼むのは失礼だとわかっているがこの戦いで死んだ我が軍の者を丁重に弔ってもらいたい」

 呂布「承知した」

 こうして、孫翊の揚州北部への奇襲は失敗に終わり、呂布も少なからずの犠牲を出し、特に追撃を敢行した呂布隊と高順隊の死者は、数千人にも及んだ。対する、孫翊側の兵の死者は、数万を超える。こうして、この場では、一応の決着とはなった。
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