えっ俺が憧れの劉備玄徳の実の弟！兄上に天下を取らせるため尽力します。

5章 天下統一

猪武者孫翊

　司馬懿から秘密裏の使者が孫翊の元を訪れていた。

　司馬郎「呉王に拝謁が叶いまして、恐悦至極に存じます。司馬伯達シバハクタツと申します」

　孫翊「思っても無い挨拶など不要だ。要件だけを話せ」

　司馬郎「やれやれ。父君である孫堅殿は劉備に仕え、兄君である孫権殿は劉備の養女と婚姻し義理の息子となった。孫策殿は依然行方不明の体たらく。かといって、呉王が動くこともない。ひょっとして、呉王は劉備に従属されましたかな？」

　孫翊「安い挑発だな。その程度で、腹を立てると」

　司馬郎「腹を立てないことが証拠なのでは？」

　孫翊「ガタガタ抜かすな！お前らは、何やってたんだ？劉備が霊帝を隠していたことも知らず。兄上が荊州を攻めた時も支援を約束しておきながら動かない。お前らのような奴を何というか知っているか？臆病者だ。此度、こうして俺の元に来たのは、国内で何かしようとしているのだろう？そう何回も踊らされると思うなよ。とっとと帰るが良い」

　司馬郎「いやはや。これはこれは大変重症ですな。武の名門孫家も落ちたものだ。霊帝は死んだのです。劉備が担いでいるアレは真っ赤な偽物。逆賊を討つのは、当然のことだと思いますが。前回支援できなかったのは、貴方方が荊州の南側を攻めたからです。徐州を攻めてくれれば、支援できたのですが」

　孫翊「荊州は父祖伝来の土地。劉備なんぞに抑えられているのは我慢ならん」

　司馬郎「やれやれ、その劉備に貴方の父君は仕えているのですぞ。取り返したのと同義ではないか。それよりも徐州を取ることができれば、父君もお認めになって、劉備からの離反を決めるやもしれませんな。そうすれば荊州・交州・徐州・揚州を治める大王だ」

　孫翊「俺が4州を統べる大王に。素晴らしい。司馬郎とやら帰って、司馬懿に伝えるが良い。呉王自ら徐州を攻めてやるからしっかりと援護せよとな」

　司馬郎「感謝しますぞ大王」

　孫翊「良い良い。もっと言うがよい」

　孫翊は、こうして簡単に乗せられて徐州へと侵攻を開始するのだった。今回も魏からの支援など皆無だというのに。司馬郎は、弟である司馬懿から頼まれたように孫翊を焚き付けることに成功し、意気揚々と戻って行った。

　司馬郎「簡単に乗せられてくれる猪でよかった。懿よ。お前の言う通りだとすれば、これで曹操様の逃げ道は無くなったと言えよう。それにしても徐州が逃げてきたものたちを匿う場所とは、考えたものだな劉備も」

　司馬郎が帰りの道すがらこんな事を考えながら戻っている時、孫翊は主だった家臣たちを集め徐州攻めを行うことを宣言していた。

　孫翊「董襲・蒋欽・周泰・朱然・呂蒙・賀斉・周善・朱拠・朱桓・凌統、良くぞ来てくれた。先の兄上の戦いの失敗は、荊州に固執したことである。俺は考えを改め荊州を捨て置き、徐州。いや揚州北部を落とし、分断することにした」

　董襲「英断ですぞ呉王」

　孫翊「そうだろうそうだろう。フハハハハ」

　蒋欽「戦の匂いがすれば、孫策様もきっと戻ってきますぞ」

　孫翊「そうかそうか兄上も帰ってくるか。良いことづくめだな」

　周泰「、、、、孫権様」

　孫翊「劉備に尻尾を降った兄のことは知らん！いつまでも嘆くなと言っただろう周泰」

　凌統「それにしても孫翊様、徐州はかつて反董卓連合の際に名だたる猛将を返り討ちにした名将の呂布が治めているんですよ。孫翊様にもしもの事があったらどうするので？」

　呂蒙「そうならないように我らが守るしかあるまい」

　孫翊「それにあれ以来目立った動きもない男をいつまでも恐れる必要などない」

　周善「その通りだ。殺しちまえば良い」

　賀斉「楽観視していると足元を掬われる」

　朱桓「半分以上の人材がここを去りましたからな」

　朱拠「慎重に行くのが良いかと」

　孫翊「父上も孫権兄上もこの地を捨て、あろう事か劉備に尻尾を振った。孫策兄上は、病に蝕まれて、人知れずどこかへと去った。弱っていく姿を見せたくはなかったのだ。孫策兄上が制覇したこの揚州南部を劉備にも曹丕にもやらん。慎重に行くのは終わりだ。全軍、狙うは揚州北部に居を構える憎き袁術の息子、袁燿。その首を取って、劉備に送り付けてやるのだ！」

　孫翊が出陣した報告を聞き、急いで荊州の奥地から止めるために向かっていた男。

　？？？「伯符、病み上がりなのに済まない」

　？？？「公瑾、気にするな。身体中から毒気が抜けて久々に清々しい気持ちだ。命を救ってくれる助言をしたのが劉丁なら恩を返さねばならないだけだ。翊は良くも悪くも純粋だ。俺の意思を継ごうとしているのだろう。一刻も早く止めてやらねば。しかし、アイツは俺に似て、言って聞く人間ではないからな。一度痛い目に」

　？？？「伯符、今回孫翊様が攻めようとしているのは袁燿殿だ。万が一、討ち取られたら義理の息子を討たれ激昂した呂布殿に蹂躙される未来しか見えないのだが。最悪、我らが袁燿殿に加勢して、止めねばならない」

　？？？「袁燿か。袁術の息子として産まれ、劉備の養子となり、呂布の娘と婚姻するか。アイツも数奇な運命だよな。まぁ急ぐか。それにしても大喬は、身重で、俺の治療をするためにあんな山奥を歩くとか何考えてんだっていてぇな。殴ることねぇだろ殴ること」

　？？？「伯符が気配りできていないからだ！全く、どれだけ義姉上が心配したと思っているんだ。傷も治ったんだからせいぜい働け」

　？？？「へいへい。こんな風にお前とふざけ合えるのも久しぶりだな公瑾」

　？？？「フッ。そうだな伯符。家族で争うのはもうやめだ。孫翊様を説得し、揚州の自治を劉備殿に認めてもらおう」

　？？？「あんだけ争ってたのが嘘みたいに今なら受け入れられるぜ」

　？？？「于吉の呪いが少なからず悪さをしていたのかも知れないな。気付かなくてすまなかった伯符」

　？？？「お前のせいじゃねぇよ公瑾。俺を支えてくれてありがとよ。さて、行くか」

　？？？「あぁ」

　兄弟のようなやり取りをして、駆け出したこの2人の名は、孫策と周瑜である。