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4章 三国鼎立

間話④ 呪いを完全に消し去る

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 張宝が示した先に大喬と小喬を手招きして優しそうな笑みを浮かべている張角とその隣で助手を務めている鏑に何かを言っている華佗。

 張角「大喬に小喬や。元気じゃったか?こんなにやつれて、そうか劉丁殿の言う通りになってしまったんじゃな?苦労したんじゃな」

 大喬と小喬の頭を撫でる張角。

 大喬「張角様。うっ。孫策様をどうか助けてください」

 張角「勿論じゃ。大事な孫娘を泣かしたんじゃ。しっかりと説教せんと気が済まんわい」

 小喬「張角様、私も撫でて、撫でて」

 張角「相変わらず甘え上手じゃな小喬。皆も憧れの、張宝、こういう時はなんと言うんじゃったか?」

 張宝「確かアイドル?と義賢様が言っていたかと」

 張角「そうじゃそうじゃ。皆のアイドルが帰ってきて、嬉しいじゃろうて」

 周瑜「張角殿、本当に生きていたのだな。頼む、伯符を伯符を助けてくれ!」

 張角「久しいの。于吉の時以来かな周瑜殿」

 周瑜「お会いしたことが?」

 張角「そうかこの姿ではわからんか」

 張角はそう言うと黄色のフードのついた道士服を着て、手に杖を持って出てきた。

 周瑜「その姿は!左慈方士と于吉討伐に手を貸してくださった太平道士!」

 張角「ホッホッホ、思い出してくれたみたいじゃの。といっても挨拶はしてないが」

 周瑜「あの後、左慈方士からお節介焼きの太平道士とだけ」

 張角「良い渾名じゃ。これ以降そう名乗るのも良かろうて。于吉が消滅すれば呪いは消えると考えていたが、劉丁殿の懸念の通りとなろうとは。あれは、いつじゃったか?」

 張宝「義賢様が董白様を連れ戻しに来た日の帰り際に耳元でコッソリと于吉が消えたら受けた呪いは全て消えるのかと」

 張角「そうじゃった。そうじゃった。いやぁ、最近物忘れが酷くていかんわい。医療の腕は衰えないが身の回りのことはよく忘れてしまうでな」

 張宝「兄が周りに身の回りのことを何でもかんでもやってもらうからでしょ。たまには自分でしなさいな」

 張角「こりゃ手厳しいわい。子供を5人も産んで、立派なママさんじゃて。ガハハ」

 張宝「そういう言葉は覚えているんですね」

 周瑜「これは呪いのせいだと?」

 張角「うむ。ワシにかけられたのよりも強力な術のようじゃ。じわじわと生命力を奪い続け、やがて死に至らしめるという、な。全く、あの御仁の先見の明には敵わん。こうして孫策殿が訪ねてくる可能性を考えていたのじゃからな」

 周瑜「なんだか勝てる気がしません」

 張角「なんじゃ。何度も戦った口ぶりじゃな。ワシは、会った日に、こりゃ敵わんと白旗上げたわい。ガハハ」

 張宝「私は、義賢様と出会えたことがこうして幸せな生活を送ることができたと感謝しています」

 波才「俺は、張宝様を弓矢で狙ってきたことだけは許しませんが」

 張宝「当たってないから良いじゃない。それに義賢様の弓の腕前なら本気だったら私はこうして立ってないでしょ。あれは、私と接触をする方法で仕方なくよ。恐らくね」

 波才「まぁ、あの時は怒りの方が勝っていましたが今は信頼もしていますから御心配なく」

 張宝「あら~だったらその言い方はずるいわね」

 波才「申し訳」

 周瑜「フッ。いや、こうして救われた命の広がりがあの御仁の強さなのやもしれないと」

 張角「そうかもしれんのぅ。ちょっとした無茶程度は聞いてやりたくなるからの」

 張宝「えぇ」

 梟が柊を連れて戻ってきた。

 梟「張角様、申し訳なく」

 張角「構わぬ。それに恨みを捨てる必要など無かろうて、人は少なからず恨み恨まれるものよ。恨みの深さならワシらの右に出るものは居なかろうて」

 柊「そんなこと。張角様は、こうして今は1人でも多くの民を病からお救いしています。私が復讐心に囚われずに居られるのも皆様のお陰です。ですが孫策に周瑜のことは絶対に許さない!」

 張角「ガハハ。それで良い。周瑜殿も良いな?」

 周瑜「あぁ、それだけのことをした。だが、あの選択が間違えていたとも思っていない。そう思ってもらえるように努力したいと思っている」

 柊「そうしてください。そうでなければ、曹操に書状1つ書いただけで首を刎ねられた許貢様が浮かばれませんから」

 梟「この目は、お前たちが過ちを起こした時、その命狩る獣となることを知れ」

 周瑜「肝に銘じよう。許貢の食客たちよ」

 このやり取りで遠くで華佗に止められていた助手も頷く。

 華佗「鏑よ。許す必要はない。じゃが、その手で患者を殺そうとだけはするなよ。愛弟子」

 鏑「!?はい。師匠、御迷惑をおかけしやした。もう大丈夫でやす。呪いの治療の前に受けた傷の方から見ないとでやすね」

 華佗「あぁ。偉いぞ鏑。一歩、前に進めたではないか」

 鏑「へへっ。だってアッシは、天下一の外科医、華佗の一番弟子でやすから」

 張角の隣に華佗が来て、長椅子に寝かされている孫策を見る。

 華佗「張角よ。呪いを消す前に傷を治してやらねば、体力が持たんのではないか」

 張角「うむ。華佗様、お願いできるかのぉ?」

 華佗「うむ。任せよ。周瑜殿、我が一番弟子は、貴殿らに恨みがあるが治療を任せてもらえるだろうか?」

 周瑜「こちらは頼む側だ。断ることなどできようはずもない。この場は医者としての念持を信じるとしよう」

 華佗「その言葉で十分だ。準備せよ鏑」

 鏑「ヘイ」

 こうして呪いの治療の前に受けた傷を治すために傷薬を塗って、布を巻く。

 華佗「縫合する必要のある怪我は取り敢えずは見当たらん。しかし、拷問の跡であろう。ところどころにある傷が痛々しい、それらを塞ぐ傷薬を塗って、綺麗な布で巻いた。1週間もすれば、完全に傷口は塞がるだろう」

 周瑜「感謝する」

 1週間後、張角が孫策の呪いを消し去るとずっと苦しそうにしていた表情が穏やかな寝息となる。

 張角「ふぅ。久々に疲れたわい。これでもう大丈夫じゃよ大喬」

 大喬「ありがとう。ありがとう。張角お爺様」

 張角「気を張って泣けんかったのじゃろう。今ぐらいは大きく泣くと良い。ワシしかおらんでな」

 大喬「うっうわーーーーーーん。孫策様が無事で本当に良かった」

 これを外で聞いていた周瑜は決意する。

 周瑜「そうか伯符は助かったのだな。こっからが厄介だが、説得は骨が折れるだろう。だが、成し遂げる。もうこんな気持ちは勘弁だからな。伯符、夢を諦めるのは、辛いだろうが私はお前を止めるため鬼となるぞ」

 小喬「周瑜様、難しいことは私よくわかんないけど。1人じゃないよ。私も一緒に止めてあげるからね」

 周瑜「フッ。ありがとう、我が愛しい妻よ」

 小喬「きゅ、きゅ、急にど、ど、ど、どうしちゃったの周瑜様!?」

 周瑜「フッ。たまには良いだろう」

 この時、周瑜は孫堅を追い出す決意をした孫策を止められず孫家を守るためにその肩に重くのしかかっていた重圧から解放されたのである。

 そんな周瑜がとある御仁に恩を返すのは、まだ先の話である。
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