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4章 三国鼎立

間話① 槃李杏と魏延

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 ここに1人の少年が居る。数ある蛮夷の頂点に立つと言われる槃瓠族に産まれた槃李杏の幼馴染として、守り手を担っていた男の名は魏延という。黄巾が滅び董卓が亡くなり、董卓軍の残党がちょっかいをかけに来ていた。それらを今日も今日とて追い払う先頭の女の子。髪の毛がピンク色で、一本に束ねている。お目目がクリッとしていて、愛らしい見た目だが家族以外の命を奪うことに全く躊躇いのないその剣技の前では、董卓軍といえどその命はない。この女性こそが魏延が守り手を担う一族の長であり、5つに別れた蛮夷の頂点に立つ槃瓠を祖とする正統後継者の槃李杏である。

 董卓軍残党兵士A「おい見ろよ。あのガキ、上玉だ。捕まえて売り捌くぞ」

 董卓軍残党兵士B「董越トウエツ様、売った金であの憎き裏切り者呂布を討ちましょうぞ」

 董越「叔父上を殺した呂布のことは絶対に許さん。必ずこの手に都を取り戻す。そのためならやむおえん。許可する。劉囂リュウゴウは右から宣璠センハンは左からまわり込め、俺が中央から女は殺すなよ」

 劉囂「やれやれ皇室に連なる身でありながら略奪に協力するとはのぅ。しかし、これも生きるためじゃ仕方あるまいて」

 宣璠「董越様が都を取り戻すまでの辛抱だ。行くぞ!」

 董越の指揮に素早く展開できるあたり練度が低いわけではない。彼らが呂布が反乱を起こした時に都にいたら何か変わったかもしれないぐらいには。しかし、その上を行くのが槃李杏の武であり、それはまさに神の領域である。それを補佐する面々も4人を除いて、皆子供である。だが槃瓠の一族の強さはその結束力と狐顔の女性と狸顔の男性の2人の知謀に槃李杏の圧倒的武が組み合わさった時、攻めていた側が途端に狩られる側になるのである。

 狸老「そろそろ、姫様の率いる部隊に食い付いたかのぅ」

 猿鴎「相変わらず爺さんの策は、完璧であるな」

 狐娘「あら、猿鴎ちゃんは私のことは褒めてくれないのかしら?」

 猿鴎「狐バ!?ゴホン、狐姐さん」

 狐娘「あらあら、猿鴎ちゃん、言い直す前はなんて言おうとしたのかしら?良いのよ。後で殺すから」

 猿鴎「申し訳ありません、許してください」

 鯨胡「相変わらずじゃのぅ。姐さんにそんなこと言えんのは、猿ぐらいじゃて」

 猿鴎「鯨に弄らられ言われはないのだがな」

 狸老「やれやれ、姫様の武で事足りるのじゃが逃げた輩は野盗となりて、近隣の村を襲うかもしれんからのぅ。ワシらは隠れ住むために人里には極力関わらん方針じゃ。ゆえに迷惑もかけられん。猿鴎と鯨胡は包囲殲滅じゃ」

 狐娘「えぇそうね。姫様の周りは、兎臥・牛齕・羊潜・鶏欒・牙狼・魏延に任せておけば良いでしょうから。あの子たちも皆化け物級ですから」

 狸老「全く、敵さんに同情もするわい」

 槃李杏を上玉だと捕えるために突っ込んできた兵士たちを槃李杏は躊躇なく首を刎ねる。殺すなら一撃でそれが槃李杏の信念であり、迷いは守るべきものを失う危険に繋がるからである。だがそうすると怯えるのが敵である。体格差もあるのに首を刎ねられるのだ。捕えろとの命令ゆえ殺すという判断ができない董卓軍の残党にとって、それは目の前に迫る死を意識させるのに時間はかからなかった。怯えて逃げ出す中央軍は崩壊。その背を牙狼の弓、兎臥の速度を活かした短剣での暗殺、羊潜・牛齕・鶏欒による追い立て、槃李杏の側で矛・槍・戟を持ち替えながら叩きつけていく魏延、その強さは子供の領域を軽々と超えていた。

 董卓軍残党兵士A「へへへ。逃げずに向かってきたのは、良い心がけだぜ」

 董卓軍残党兵士B「ガキを捕まえるのは簡単で良いよな。へへっ」

 しかし、彼らが喋ることは2度とない。捕まえようと手を伸ばした瞬間、首を刎ねたからである。

 槃李杏「あら、権力者の兵士の力もこんなもんなんだ。私を捕えたいならもっとかかってきなさいよ」

 魏延「姫様、そんなに突出したら」

 槃李杏「突出する私を守るのが、ぎ、ぎ、魏延の仕事だもん」

 魏延「もうわかりましたよ。姫様の御身を守るのが俺の仕事ですから。あぁ、ったくなんで、こんなに強いのにあの時、助けちゃったかな。まぁ、可愛かったし仕方ない。うん」

 董越「ふざけるなぁぁぁぁぁぁ。こんなガキ共に俺の俺の精鋭が殺されるわけがねぇ。逃げるなお前ら何逃げてやがる!」

 槃李杏「あーあ、もっと楽しみたかったのに、まっ良いや。おじちゃん、死んでくれる?」

 董越「ふざけるなガキ!」

 董越の怒りのままの槍捌きを身のこなしだけで交わすと近付いて、首を狩る。首狩り姫。槃李杏の二つ名である。

 槃李杏「汚れちゃったよぉ。魏延、綺麗綺麗しなさい!命令だよ」

 魏延「わかりましたよ。これも惚れた弱みかな」

 槃李杏「何か言った?」

 魏延「いえ、何も」

 その頃、包囲殲滅により逃げた奴らも全員殺され、猿鴎の前では劉囂が鯨胡の前では宣璠がその身を八つ裂きにされ、打ち捨てられていた。どんなに修練を積んでいようがコイツら相手に互角に渡り合えるものは少ない。誰にも仕えない代わりに住んでいる森を脅かすものには死を賜る。それが槃瓠族である。彼らは誰にも屈しない。そう思っていたが数十年の時を超え、魏延と槃李杏の婚姻をきっかけに、劉備軍とだけは関わるようになった。だが彼らの信念は変わらないとそう思われていた。だが槃李杏は結婚をきっかけに武器を置く、でもどんな形で愛する旦那である魏延のことを助けたい。そんな彼らに与えられたのは、それぞれの動物の顔を模した面である。これを作ったのは董白であり、槃李杏の想いを他人事と思わなかったのである。そんな中、隊長の槃李杏が付けるのは、鬼女の面である。彼らはこれを付け、諜報活動だけを行うことに協力した。荀彧の抱えるお抱え諜報集団の暗部、跋扈ばっこの誕生であった。彼らの役目は、反乱を起こしそうなもののリストアップから他国の情勢である。その際、戦闘になることだけは禁じられている。だが彼らが見つかることはない。森で住む民、音の消し方など皆が皆、心得ているのだ。そんな彼らがもたらした情報が北の情勢を大きく動かすことになろうとは。
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