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4章 三国鼎立

曹植の熱き想い

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 曹植は鄴にて、曹丕に側室だと紹介され、一目見た時から甄姫に恋焦がれていた。その立ち居振る舞いがとても綺麗だったのもあるが1番は甄姫の芯の強さと何かを決意した女性の強さに惹かれていたのだろう。だが結論から言うと曹植は浮気の類はしていない。詳しくいうとそういうフリをした。曹植は甄姫の全てを知っても尚、その気高き心に敬愛し、力を貸したのである。曹植が反乱を起こしたのは、曹丕の目を自分に向け、甄姫が逃げる時間を稼ぐため。そのため父である曹操に相談までしたのだ。曹操はこの話を聞き、大層御立腹であった。それもそのはず、曹操が側室に迎えようと思っていた甄姫が僅か一年で捨てられただけでなくその命が狙われていると聞かされたのだ。しかも母親から子供を取り上げると脅して、曹操は妻たちに政治に関わらせない一方で、子供の教育方針に対して、口を出すことはしないし母と子を離すということはしない。

 曹操「植よ。その話、真なのだな?」

 曹植「はい。父上、僕は甄姫義姉さんに幸せでいて欲しいと思ってます。それが袁煕といることだと言うのなら叶えてやりたいのです。このようなこと馬鹿げているのはわかっています。甘いことも重々承知です。でも、こんな仕打ちはあんまりです。甄姫義姉さんがあまりにも可哀想です。父上に保護してもらおうとも考えましたが、1番安全なのは、今も尚、我らから逃げ切れている袁煕の元だと思うのです」

 曹操「確かにな。だが逃げ切れているは少し違う。手を出さないところに行ったのだ。劉備から徐州を預かっている呂布の元にな。呂布が本初の元に身を寄せていた時に恐らく知己となったのであろう。だが、この状況で誰が安全かは一目瞭然であるな」

 郭嘉「では、曹植様の反乱を模擬戦ということにして、曹丕様が殺すという選択を安易に取れないようにしつつ、甄姫様にはその隙に逃げてもらうのが良いかと。それに模擬戦ですから、皆付きたい方に付くように言えば多くの者が向かい隙も産まれやすいでしょう」

 曹植「郭嘉軍師!ありがとうございます!このご恩は、一生忘れません!」

 郭嘉「殿も私も曹植様の考えに同意しただけのことです」

 曹操「植よ。頑張るのは、あくまでお前自身だ。手助けしてやれるのはここまで。いや、俺と奉孝は病に倒れたことにして、これが後継者を決める擬似戦という風に思わせればより多くの者たちが参戦しよう。劉備と呂布に手紙も書くとしよう」

 曹植「感謝します父上」

 曹植が去ると郭嘉と話し合う曹操。

 郭嘉「確かに劉備のこと人命を優先するでしょう。それに、今は益州のことで」

 曹操「涼州の馬超が急に動き出して劉璋側で参戦したことだな。司馬懿の奴が暗躍しているのは間違いないであろう。ワシは、ここまできたら北と南の覇権をかけて最後は劉備と思う存分やり合いたかったのだが叶わぬかもしれんな。司馬懿の奴は、あくまで裏から手を回して潰していくようだな。そうすると邪魔になるのはこの俺であろう。丕には過ぎた男だな。そのうち持て余して消されるのは目に見えておる」

 郭嘉「ですが今や曹丕様を次期後継者に推す声は日増しに増え、曹昂様を推すのは」

 曹操「元譲と妙才だけだと言いたいのだろう?子考や子廉、子丹に文烈まで、丕を推すとは俺も想像できていなかったが。俺が死ねば家中が分裂するのは免れんな」

 郭嘉「だとすれば、これを好機と捉えて、殿の暗殺を」

 曹操「そうなれば、天下は癪だがもう1人の英雄殿に託すとしよう。奉孝、その時は昂や植のことを頼む。今の丕は、邪魔になる者なら親兄弟でも容赦なく殺す危険性がある。劉備を頼れ、悪いようにはしないだろう」

 郭嘉「英雄は同じ時代に2人は存在しないです、か」

 曹操「天がどちらを選ぶかその時が来ただけのことよ」

 曹植は、甄姫に手紙をしたためる。

 親愛なる甄姫義姉様へ
 こちらの準備は整いました。父からも了承いただき、全面的に協力させていただきます。模擬戦が始まったら速やかに南へとお逃げください。後継者を決める代理戦となるため多くの者がこちらに気を取られ手薄となるでしょう。無事に、貴方様の大事な人に出会えることをお祈りしております。あの日のことは忘れません。良い思い出をありがとうございました。
 義弟曹植より

 甄姫「曹植。あの日のことって、私が呼び出したにも関わらず、外にいる人の気配を察して、演技をしてくれたことでしょ。それに感謝するのは私の方よ。曹丕のことは大嫌いだけど貴方のことは弟として気に入ってるのよ。だから、お別れは言わないわ。また会えると信じているもの。ありがとう」

 間も無く模擬戦が始まり、劉備が治める地方で問題が起こったこと曹操が病に倒れたという情報が多くの人間の模擬戦参加を促し、甄姫は袁譚と朱霊の護衛の元、無事に徐州へと辿り着くのだがそれはまた別の話である。

 曹植「これが模擬戦の規模か」

 曹植の眼前には、文官たちの私兵、その数10万が対する曹丕の元には、武官や将軍、軍師合わせて30万が集まった。

 曹植「その差は3倍か。国境の守備こそ動かなかったとはいえ、やはり兄上の人気は凄まじいものだ」

 曹丕「反乱を組織しておいて、あの程度しか集められんとはな。仲達、一思いに沈めてやれ」

 司馬懿「御意」

 こうして始まった模擬戦だが、将の質も兵の質も圧倒的な曹丕によって、終始押し込まれ、曹植は時間稼ぎのため早々に籠城戦へと切り替えたことで、数ヶ月持たせはしたがこうして捕えられたのである。

 曹植「いやぁ。やっぱり兄上には敵わないや。金輪際、兄上には逆らいません。兄上のためになるように文才でお力添え致します」

 曹丕「それは殊勝なことだな。俺も血を分けた弟を殺すつもりはない。これから俺のため働け」

 曹植「かしこまりました」

 鼻から勝てるなんて思い上がるほど曹植は馬鹿ではない。数ヶ月も時間を稼げたことが凄いのである。曹植の熱い想いが身を結び、甄姫は無事に逃げ切れたのだから。
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