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4章 三国鼎立

武断派と文治派

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 孫権を捕虜にされるという失態の責任の全てが顧雍にあると蒋欽が責め立てていた。

 蒋欽「江夏海戦の全ての責任は、コイツらが武も弁えずにしゃしゃり出てきたせいだ!大船団の影如きに怯えやがって!その結果何孫権様が捕まっただと。俺はこれ以降、この馬鹿どもが口を挟まないことを要求する!」

 闞沢「それは言い過ぎであろう!顧雍殿は最後まで焼け落ちる船に残り孫権様を逃がそうとしたのですぞ。真っ先に逃げたお主にこそ非があろう」

 董襲「テメェ、俺らが悪いって言ってんのか!舐めてんじゃねぇぞ。戦の役に立たない害虫どもが!」

 吾粲「それは聞き捨てなりませんぞ!そちらこそ、戦の兵糧の捻出、金の管理などできない。戦馬鹿ではないか!」

 周善「それだけをやるのがテメェらの仕事だろうが!戦に口出すんじゃねぇって言ってんだよ!」

 賀斉「どちらも歩み寄るということはできないのですかな?」

 朱桓「それよりも今は劉備軍に対してどうするかだろう?」

 朱拠「向こうからは今現在、何の連絡もありません」

 武断派でもなく文治派でもない賀斉・朱桓が頭を抱える。その間も言い争いは続いていた。

 董襲「それよりも孫策様は、こんな時に何やってんだ!」

 孫翊「孫策兄上は、戦場にて、血を吐き倒れられました。今は絶対安静のため誰にもお会いになられません。孫権兄上も居ない今、当主代理をさせていただく」

 蒋欽「孫翊様が当主代理なら問題ねぇ」

 顧雍「な、なりませんぞ。勝手に当主代理などと。孫策様は亡くなったわけではないのですぞ」

 周善「伏せっている孫策様に意見を仰げってか。それこそ、孫策様に失礼だろうが!」

 吾粲「こういう時は、周瑜様が代行なされるべきだ」

 孫匡「周瑜様は、大喬義姉さんと共に孫策兄上の看病をしておられます。私は孫翊兄上を支える所存。顧雍殿たちにもそうしていただきたい」

 呂蒙「兎にも角にもすぐに兵をまとめて、孫権様をお救いせねば」

 闞沢「こちらから下手に出るのは如何なものか。向こうから交渉に来るのを待つべきであろう」

 凌統「そんな悠長なことを言っている間にも孫権様に拷問が行われている可能性もあるんだぞ!」

 闞沢「助けたいのはこちらも同じ。しかし、荊州攻略に失敗し、武威が失墜したこの状況で、強大な劉備を相手に交渉など厳しい」

 そこに張紘に肩を抱えられた状態で張昭が入ってくる。

 張昭「ゴホッゴホッ。このような姿で申し訳ない。かつて劉備殿とお会いしたことのあるワシが思うに、劉備殿はそういうことを気になされる器の小さい御方ではない。ゴホッゴホッ」

 張紘「張昭殿は、風邪で寝込んでいたのですが皆様の声が聞こえて、こちらへ。どうかお聞きくだされ」

 張昭「ゴホッゴホッ。直ぐに劉備殿に使者を送り、捕虜となっている孫権様を返していただかなければ取り返しのつかぬことになりますぞ。ゴホッゴホッ」

 孫翊「張昭よ。取り返しのつかぬこととは何だ?」

 張昭「ゴホッ。劉備殿が孫権様を取り込むでしょう。孫堅様がそうなったように。ゴホッゴホッ」

 董襲「それは好都合じゃねぇか。もう、この揚州の次は孫翊様って事だよな。そもそも、孫策様の後が孫権様ってのは気に食わなかったんだ」

 顧雍「やはりそれが本音だったか董襲!貴様も孫権様を心の中では政治畑と馬鹿にしていたのであろう!」

 蒋欽「男に産まれたからには戦してなんぼだろうが!話し合い?内政?そんなことテメェらで勝手にやってろってんだ!」

 孫翊「張昭よ。お前の言、正しいのであろうが。俺もどちらかというと蒋欽と同じ気持ちだ。それに孫策兄上の意思を継ぐつもりである俺にとって、劉備に下手に出ることなどあり得ん。向こうから交渉してくるのなら別だがな」

 張昭「ゴホッゴホッ。後悔することになりますぞ」

 孫翊「そんなことにはならんさ。劉備から荊州も徐州も奪えば良いのだからな」

 張昭「もう良い。張紘殿、帰るとしよう。どうやらワシらにできることはもうないようじゃ。ゴホッゴホッ」

 張紘「しかし、張昭殿。いえ、わかりました」

 2人は姓が同じということもあり、兄弟のように仲が良かった。孫策からは信頼され、内政は張昭にと言われるほどであった。その張昭が内政ではなく外交に口を出してきたのが孫翊には腹立たしかったのである。

 張昭「これで孫家は、終わりじゃ。うーむ、仕えるべき主君を間違えたのやもしれぬな。ゴホッゴホッ」

 張紘「張昭殿、今はゆっくり身体をお休めくだされ」

 張昭「今は寝る。張紘、孫翊には何も進言する必要はない。近いうちに、揚州は劉備殿の手に落ちるであろうから、な。スースー」

 張紘「承知しました」

 孫翊は、この負けで失った兵を取り戻すべく徴兵を繰り返した。これは、民の反発を強めるだけでなく、顧雍たち文治派の離脱を招いてしまう。

 孫翊「こんな兵数で足りると思っているのか!もっと集めろ!存亡の危機なのだぞ!わかっているのか!」

 顧雍「やってられませんな。このように徴兵を繰り返せば、近いうちに民に反旗を翻されるでしょう!」

 孫翊「だったらその民に金を配って黙らせてやればいい」

 吾粲「そんな簡単ではありませんぞ」

 孫翊「煩い、やれと言ったらやればいい。できないのであれば出て行け!」

 この言葉が決め手となり、文治派の者たちは、こぞって民に身を落とす事となった。
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