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4章 三国鼎立

程昱と満寵の離間の計の行方

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 これは華北を制覇する少し前の話である。曹操は劉備の力を削ぐために狙いやすい徐庶と徐晃の引き抜きにかかることとした。徐庶、本名を単福と言い。許昌にて政治家を多数輩出した単家出身である。親友の仇討ちをして、指名手配される熱い男でもある。そんな徐庶は幼い時に父を亡くし、女手1人で育ててくれた母に親孝行がしたかった。そこを程昱に突かれることとなる。そして、徐庶に与えられた部屋へとやってくる程昱とのやり取りから始まる。
 程昱「徐庶殿、居られますか?曹操軍の幕僚の1人、程昱です。徐庶殿、宛の手紙が紛れておりまして、受け取ってもらえますか?」
 徐庶「これは程昱殿、失礼しました。俺宛の手紙?誰からでしょう?」
 程昱「中身は見ておりませんので何とも」
 徐庶「そうですね。失礼しました。どうぞ」
 徐庶に促されて部屋へと入ってきた程昱が手紙を渡す。
 程昱「それでは」
 徐庶「いえ、せっかく持ってきてくださったのです。御礼をしたいので、お茶でも飲んでお待ちください」
 程昱「そういうことならお言葉に甘えて(向こうから引き留めてくれるとは好都合だ)」
 徐庶が手紙に目を通すと暗い表情となる。その表情を見て、尋ねる程昱。
 程昱「何か良くないことでも書かれておりましたかな?」
 徐庶「いや、長いこと家を空けていた母からなのだが。劉備殿に仕えた俺のことを怒っているようだ。育て方を間違えたなどと散々書かれている。いやはや、これはどうしたものか」
 程昱「徐庶殿の御母堂はどちらに居られるのですかな?」
 徐庶「許昌ですよ」
 程昱「なら何も問題はありますまい。このまま劉備殿の元に戻らず曹操殿にお仕えすれば、御母堂とも近くなり親孝行もできるのではありませんかな?」
 徐庶「成程、それは盲点でした。だが、それは遠慮させてもらいましょう」
 程昱「それは何故です?こんなに良い話はないでしょう?」
 徐庶「それは、この手紙が真っ赤な偽物だからですよ程昱殿。ここまで母の字を真似るとは全く大したものです。ですが母が俺が劉備殿に仕えて、怒るわけが無いのですよ。母は劉備殿を推していましたから。そんな内々の話まではわからなかったようですね。そもそも、俺宛の手紙が紛れ込むこと事体が怪しいのですよ。手紙に関しては徹底していましたから」
 程昱「ぐぬぬ」
 徐庶「その表情でよーく分かりましたよ。この手紙を書いたのが目の前にいる程昱殿だとね。俺は人間観察だけは得意なんですよ。この件のことをこれ以上ほじくり返すつもりはありませんよ。このままお帰りいただけるのならね」
 程昱「フン。曹操様に仕えなかったことを何れ後悔することとなろう」
 徐庶「俺にとっては母の想いを踏み躙る方がきっと後悔しますよ」
 程昱はその言葉を背中で受けながら足早に部屋を後にする。
 徐庶「(やれやれ、本当に母の字にそっくりだ。ハッタリかましてよかったよ。孔明、出発前に俺に策を授けてくれた君のお陰だよ)」
 程昱「(どうしてバレたのだ。徐庶の母親の元を尋ねて、一通りの文字を書かせ、完璧に文字を真似たというのに、あの母親が劉備の信奉者であったとは、徐庶を通じてこちらの情報がバレないとも限らん。始末しておくこととしよう)」
 一方同じ頃、満寵も徐晃を引き抜くため徐晃に与えられている部屋へとやってきた。
 満寵「徐晃殿、満寵だ。失礼するよ」
 徐晃「満寵殿か。あぁ構わんぞ」
 満寵「どうして君ほどの男が楊奉などに仕えて、呂布に仕え、劉備に?」
 徐晃「楊奉などではない。確かに楊奉様は褒められたことをしてこられなかった御方だ。だが呂布様に仕えて、立派にその務めを果たして、最期を遂げられた。俺は楊奉様から呂布様を託されたと考えていた。このまま飼い殺しにされる運命だとな」
 満寵「そうさ。このままだと君の武勇は飼い殺しされる。曹操様に仕えるのが良いんだ。どうだい?」
 徐晃「少し前の俺ならその申し出を快く引き受けていただろうな」
 満寵「今からでも遅くはない」
 徐晃「全く、相変わらずスパッと言う男だなお前は。関羽様を超える武人が居ようか?義理堅く。義侠の心に溢れ、軍神と呼ばれている」
 満寵「だが、君も見ただろう。そんな男が華北での戦いではどうだった?終わりにさも当然かのように手柄の横取りをしてきたのだぞ!」
 徐晃「手柄の横取りか。確かにそう見えたかもしれんな。なら言わせてもらおう。そちらとて宛城の手柄を横取りしたであろう?」
 満寵「何を言ってるんだい?横取りをしたのは劉備の方だろう」
 徐晃「いや違う。横取りをしたのはそちらだ。宛城では確かに反乱が起こっていたのだからな。反曹操への反乱がそれを鎮めたのは、元城主の甥であった張繍殿だ。そもそも城主に対する忠誠心の高い宛城の兵たちを屈服させることなどできなかったのだ張繍殿を得られなかった時点でな。それをお前たちは餌に使ったのだ。我らをこの戦いに参加させる駒としてな」
 満寵「うぐっ」
 徐晃「拙者も侮られたものだ。武ばかりで馬鹿だとそう思われていたということか。満寵よ。貴殿との友情もこれまで。これ以上、癪に障る前に戻られるが良い。まぁ失敗した時点で、次の策は我らの背を討つことであろうが果たしてできるか?お手並み拝見としよう」
 満寵「その言葉、後悔することになるよ。曹操様に仕えなかったことをね」
 徐晃「お互い信ずるもののためその命を燃やすとしよう。拙者は関羽殿のため。貴殿は曹操殿のために」
 満寵「邪魔したね」
 満寵はそう言って部屋を出て行った。
 徐晃「(満寵よ。お前は謝ってくれなかったな。捨て駒として利用しようとしたことを。関羽殿は、それに巻き込んだ拙者に謝ってくださったよ。頭を下げてな)」
 満寵「(徐晃があんなに頑固になってるとは、作戦失敗じゃないか。こうなったら最終手段を行うしかない。殿は嫌がるけどここで彼らを無事に劉備の元へ返すのは危険だからね。関羽に恨みのある夏侯惇殿なら乗ってきてくれるはずだよ)」
 程昱と満寵の強硬策が関羽軍を襲うこととなる。
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