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4章 三国鼎立

蒼梧の戦い(起)

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 進軍ルート上での急な待ち伏せからの奇襲により、2000もの命が失われた。そのうち、部隊の指揮を取れるもの20人程。簡単にいうと100人の部隊を指揮できる隊長を20人失ったということだ。
 虎熊「殿、すまねぇ。俺が外れまできちんと警戒してりゃこんなことには」
 劉備「いや、お前は猛獣たちと共に寝ずの番をしてくれたのだ。誰が責められよう」
 諸葛亮「それだけではありません。被害が最小限に済んだのも虎熊殿のお陰です」
 劉備「そういうことだ」
 虎熊「俺にはもったいねぇ言葉だ。持て囃されて、気緩んでたのは事実なんだ。こんな経験なかったからよぉ」
 魏延「それが人として認められて嬉しいという感情だ。人に近づいたんだよ。良いことだ」
 虎熊「兄貴~、慰めてくれてんのか?あんがとよ」
 劉備「それにしても進軍先を良いように相手に操られていたとはな」
 諸葛亮「えぇ。この私がまんまと嵌ってしまいました」
 程普「こればかりは仕方なかろう。度重なる虐殺行為を目の当たりにして、気も落ちていたのだ。注意力が散漫になっていたのは、諸葛亮殿だけではあるまい」
 黄蓋「ガハハ。程普よ。慰めておるのか?」
 程普「馬鹿を言うな!我らも気を引き締めなければならんと言ってるのだ!」
 韓当「まぁ、精神をとことん折にきた士祇って奴が一枚上手だっただけのことだと思うけどなぁ」
 張飛「大兄者、死んでいった奴らの遺体は、丁重に積み終わったぜ」
 劉備「翼徳、辛いことを任せてすまない」
 張飛「大兄者、よしてくれよ。義兄弟なんだから共に背負うのはあたりめぇさ」
 田豫「玄徳。ゴホン。殿、ではこの者たちを連れて、一度襄陽へと戻ります」
 劉備「国譲、殿はやめてくれ。昔馴染みなのだ玄徳で構わない。皆のこと、頼む」
 田豫「あぁ、了解だ」
 田豫が亡くなったものたちを乗せた荷台を馬に引かせて、襄陽へと戻っていく。この戦乱の時代において、遺体があるのはまだマシな方だ。打ち捨てられたまま朽ちて、土に帰っていくのが当たり前の世界なのだから。その頃、蒼梧城には、桓発たちが到着した。
 桓発「桓鄰叔父上、士祇は、士徽様のように我らも切り捨てるとつもりなのではありませんか?」
 桓鄰「滅多なことをいうものではない桓発よ。それに士徽様は、立派に劉備軍と戦い討ち死になされたのだ。この交州のため立派にな」
 桓治「桓鄰、俺は腑に落ちねぇとは思っている」
 桓鄰「兄上、どういうことです?」
 桓治「士徽が立派に戦うと思うか?いつもわれらに面倒ごとを押し付けていたではないか。それに、お前も一度死にかけたであろう。俺はあれ以降、心では士家のことをよく思っては居ない」
 桓鄰「兄上、そのようなことを言っては、誰に聞かれているかわかりませんぞ」
 桓治「ここまで劣勢なのだ。今更気にすることもなかろう。我らがここに送り込まれたのは、桓発のいう通り、時間稼ぎの捨て駒だろう。士祇は交州を守るつもりなどないと考えた方が良かろう」
 桓発「父上、では我らも危ないのでは?」
 桓治「士燮は孫堅を引き込み交州を混乱させた馬鹿者だ。そして士祇は目的のためなら弟ですら駒に使うクズだ。そんな奴らに付いた我らも相当な大馬鹿者よ。なら最後まで大馬鹿者らしく振る舞うしかなかろう」
 士幹「何をくっちゃべってんのさ。それで何?士祇にぃさんはなんて言ってんの?」
 桓治「申し訳ございません。この場は我らに任せて、士幹様には南海に戻られるようにとのことです」
 士幹「えっ士祇にぃさんが僕に戻ってきて欲しいって?しょうがないなぁ士祇にぃさんったら。あっ何見てんだよ。お前らここ死んでも堅守しろよ」
 桓治「了解しました」
 士幹は嬉しそうにその場を後にした。
 桓治「兄弟で気持ち悪い奴だ」
 桓鄰「兄上、そのようなことを申されますな。誰に聞かれるか」
 桓治「構わぬ。もう、この交州に未来など無いのだからな。一年半で亡くなった人間の数を知っているか?」
 桓鄰「鬱林郡は劉備軍により虐殺です生き残りなし。九真郡は5県のうち3県が虐殺に遭い。2県の生き残りが南海に。日南郡は劉備軍による虐殺により生き残りは無し。合浦郡では、抵抗した士祇軍の多くが戦死。民は劉備の傀儡となった。朱崖郡では、猛獣たちの餌に食われて骨だけだったと。恐らく近いうちに合浦郡の民もそうなるでしょうな」
 桓治「そうだな。言われていることが全て真実ならな。俺は信じては居ない。そして、俺は士燮を追いやり士祇の助長を招いた人間の1人だ。責任を取る覚悟がある。だが息子だけは巻き込みたくないのだ」
 桓発「父上、俺の手もすっかり汚れています。あの時、叔父上と共に」
 桓鄰「何を言う。あの男を殺したのはお前ではない。ワシだ」
 桓発「叔父上、それはあまりにも無理が」
 桓治「我々は士燮を排除した後も村の人間を南海に集めたりと士祇に手を貸しすぎた。その結果どうだ?実は南海で亡くなる老人や民も相当数いるそうだ。度重なる、懲罰のせいでな」
 桓発「そんな!そんなの嘘です!懲罰なんて」
 桓鄰「兄上、本当なのですか?」
 桓治「あぁ、恐らく。士祇の作るあの要塞のために死んだ民も相当数居るのだ。交州を守るための男の姿だと言っていたがそのためなら自国の民を死ぬまで働かせていいと思うか?士祇にとって、士頌と士幹以外は掃いて捨てるゴミ同然なのだろう」
 桓鄰「それを知って尚、兄上は劉備と戦う道を選ぶと?」
 桓治「汚れすぎたからな。それに、争わないと勝ち取れないものがある。劉備の信用だ」
 桓鄰「桓発のためなのだな?」
 桓治「そういうことだ。息子に罪はない。我らの屍を超えて、強く生きてもらわねばな」
 桓発「そんな父上と叔父上の屍を超えるだなんて僕にはできない」
 桓治「すまない」
 桓治はそういうと桓発を中に放り込むと外からかんぬきをかけて、開けられないようにした。叫ぶ桓発の声を背に桓治は桓鄰と共に劉備軍が待つ死地へと赴く。
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