上 下
367 / 533
4章 三国鼎立

正気が無くなっていく

しおりを挟む
 鬱林の行く村行く村、全ての民だけでなく劉備軍の仕業に見せかけるために犠牲となったであろう兵士服姿の者たちまでいた。この頃には、劉備軍の面々の中にも嘔吐する者、泣き出す者、ずっと俯いている者など。身体の不調を訴える者が多く出てきた。
 劉備「ここまでやるとは」
 諸葛亮「士祇は殿のことをだいぶ調べたようです。殿の嫌がることを的確にやってきています。民への虐殺、これはその第一歩でしょう。次は」
 劉備「言うな!孔明!」
 諸葛亮「申し訳ございません。ですが相手のことを知らず策は立てられませんゆえ。どうか御辛抱を。それに彼らのことを真に弔うのであれば、この惨劇を起こした士祇を必ずや捕らえて、晒し者にしなければなりません」
 劉備「わかっている。わかっているのだ。だが、打ち捨てられている民をこのままにしていくなど私にはできぬ」
 張飛「龔都・何曼、運び終わったか?」
 龔都「へい、張飛様。ここに打ち捨てられていた民はこれで最後でさぁ」
 何曼「俺たちも黄巾族として暴れていた時は民のことなんて顧みたことはなかった。だが今は違う。どんな理由があろうと人が人を虐殺して良いわけがねぇんだ」
 劉備「お前たちは更生して、兵として民を守っている。だが償う気持ちを無くしてはならないぞ」
 龔都「劉備様、勿論でさぁ」
 何曼「肝に銘じることにする」
 劉備「これで鬱林の10県の村全てか。嫌になるな。やはり戦などない世にしなければならん」
 張飛「女には服を着せて。いや、男がそれをするのはよくねぇな。被せてやれ。そのまんまだとその向こうに行っても寒いだろ。子供は誰が親かわからねぇよな。クソッ。寂しくねぇように。固まって寝かせてやれ。大兄者、俺は士祇の野郎をぜってぇに許さねぇぞ。こんなことして良いわけがねぇ」
 劉備「あぁ、翼徳。私も同じ気持ちだ。士祇には、この悪業を数倍にして返してやろう」
 張飛「おぅよ」
 劉備は全ての村を周り、打ち捨てられている民たちを1箇所に集め墓地を作り弔っていた。その結果、鬱林で生きている人は誰1人いなかった。それどころか全ての村がとんでもない惨状であった。とても休んだりもできない。劉備たちは野営を何度も繰り返していた。そして、こんな惨状を何度も目の当たりにして、兵たちの疲労が取れるはずもない。だが歩みを止めなかったのは、皆この惨劇に対して静かなる怒りを燃やしていたからだ。交阯に入ると、綺麗な村々が現れるが今度は打って変わって人が誰も居ない。文字通り村全てが神隠しにでもあったかのように人だけが消えている。
 劉備「これは、どういうことだ?」
 諸葛亮「普通に考えれば殿が鬱林で虐殺したと誰かが噂を流し、逃げたと考えるべきでしょう。これは、まるで空城の計!?」
 諸葛亮はこれを空城の計だと考えた。だが、村に入ってからも襲われることはない。
 諸葛亮「!?考えすぎでしょうか。一体村人たちは何処へ?」
 劉備「にしてもここは虐殺が無くて良かった。村人たちは戦を避けるため逃げたのだろう」
 孫堅「兵たちの疲労も頂点に達している。休めるのは良いことだろう」
 皆、ゆっくりと眠った。夜襲もなかった。
 諸葛亮「あの惨状を見て、疲れ切った兵たちを奇襲するのは常道のはず。しかし、空城の計でもなく奇襲でも無いとしたら一体何を?」
 諸葛亮が困惑するのも無理はない。軍師ならあの惨劇が心を折るためなら次は疲れ切った奴らが寝ているところへの奇襲である。しかし、このどちらも士祇は採用しなかった。士祇が採用したのは。
 士祇「そろそろ劉備の奴が律儀に民どもを弔って鬱林を抜けた頃か。交阯は手筈通りか?」
 雁門「はっ。交阯の民には、劉備の起こした惨劇を語り、この南海へと連れてきた。奴隷として、ゴホン。失礼した。労働力として使うのでしたな?」
 士祇「あぁ。貴重な労働力としてな。なら、そろそろ次だな。九真の慄苦リツク日南の臆巣オクスに伝令を。いうことを聞かない民と兵は劉備の仕業に見せかけて殺して残りは南海に送って、お前たちは合浦に移れとな」
 士徽「兄貴、慄苦と臆巣はここには呼ばねぇのか?」
 士祇「はぁ、士徽、お前は馬鹿か?あぁ馬鹿だったな。馬鹿は黙って俺に従っていればいい。何も考えずにな」
 士徽「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿って酷すぎるだろ兄貴。まぁ、何も聞かねぇけどよ」
 士祇「(全てこの南海に呼んだら良いってわけじゃねぇってわからねぇのかこの馬鹿は。まぁこういうやつが真っ先に不利になるとジタバタして降伏するんだ。我が弟ながら残念な性格だぜ。そもそも、鬱林でのことは劉備の中に俺への怒りの炎を灯すことが目的だ。怒りは目を曇らせるからな。そのまま曇らせた目で民を殺しでもしてくれれば御の字よ。奴隷として動員した民兵やお前たちに殺されたと信じる罪なき民をな。合浦の慄苦と臆巣にはその役目に徹してもらって、役割を演じてもらおう。まぁ、合浦ないかずに交阯に行ってさらに混乱している頃か。ククク。それもこの後の策のため。そのまま九真・日南と進んで、ますます混乱するがいい)」
 ゆっくりと休息を取ることができた劉備軍は九真を目指していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

えっ俺が憧れの劉備玄徳の実の弟!兄上に天下を取らせるため尽力します。補足説明と登場人物の設定資料

揚惇命
SF
『えっ俺が憧れの劉備玄徳の実の弟!兄上に天下を取らせるため尽力します。』という作品の世界観の説明補足と各勢力の登場人物の設定資料となります。 本編のネタバレを含むため本編を読んでからお読みください。 ※小説家になろう様・カクヨム様でも掲載しています。

【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部

山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。 これからどうかよろしくお願い致します! ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

野球部の女の子

S.H.L
青春
中学に入り野球部に入ることを決意した美咲、それと同時に坊主になった。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

生意気な女の子久しぶりのお仕置き

恩知らずなわんこ
現代文学
久しくお仕置きを受けていなかった女の子彩花はすっかり調子に乗っていた。そんな彩花はある事から久しぶりに厳しいお仕置きを受けてしまう。

Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜

華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日  この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。  札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。  渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。  この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。  一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。  そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。 この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。 この作品はフィクションです。 実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。

処理中です...