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4章 三国鼎立

村へと攻め寄せる劉璋軍

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 馬漢・冷苞・楊懐・高沛の4人が村の略奪に失敗して、討ち死にしたという報告を聞いても劉璋が進軍を止めることはなかった。村へと到着した劉璋は、とんでもない光景を見る。
 劉璋「なんだ、これは!?おおよそ人間の行動では無い。このような残忍なこと。劉備軍にこのようなことを平然とやる男がいるというのか。オエッ」
 王累「劉璋様、お気を確かに、エップ」
 劉璝「劉備軍を益州に踏み入れさせてはなりませんぞ殿。オップ」
 劉晙「このような悍ましい所業、許してはなりません。仇を打ちましょう。ウプッ」
 劉璋は益州で行っている自分のことなど棚に上げて、この光景に対して人間の所業では無いと言う。劉璋が見た光景は、村の入り口にまるで飾り付けられたかのように野盗の首が並び、磔にした馬漢・冷苞・高沛・楊懐の身体中に槍が突き刺され、耳と鼻を削ぎ落とされ、目はくり抜かれて、口は縫い付けられていた。この村を攻めるならお前たちも同じ目に合わせてやるという警告のようだった。これをやったのは、龔禄の提案だった。
 張嶷「龔皦が荀彧先生から援軍を貰って、戻ってくるまで、なんとかして耐えなければならない。如何したものか?」
 龔禄「この村に攻めてきた野盗共の死体を有効活用するってのはどうだ」
 姚伷「龔禄、何を言っている?」
 龔禄「コイツらの身体は、カカシに見立てんだ。兵を多く見せるためにな。そして、首は入り口で飾り付ける。そして、後からこの村に来た奴らが指揮官だろ?アイツらを磔にして、耳と鼻を削ぎ落として、目をくり抜いて、口を縫い付けて、身体中に槍を刺すんだ。それを見た相手はどう思う?」
 張嶷「龔禄、そのようなこと人の所業ではない!断じて認められない」
 姚伷「いや。龔禄の言ったことは、理に適っているかもしれない。戦において、相手の嫌がることをやるのは常道とされている。ましてや、次に来るのは劉璋軍の本隊、逆に相手の心に怒りを宿す諸刃の剣となるやもしれないが成功すれば、兵士の心を折り、成都へと追い返すことができるかもしれん」
 張嶷「しかし、そのようなことをすれば、呪いが」
 龔禄「怖がりすぎなんだよ。人は死んだら終わりだ。呪うなんてことできるわけがねぇんだよ。それによ、ここで劉璋軍を追い払えたら俺たち一躍有名人だろ。将として取り立ててもらえるかもしれない。やるしかねぇだろ」
 姚伷「張嶷、かといって、他に策はあるか?」
 張嶷「・・・・・・わかった。だが、その前に少し待ってくれ」
 龔禄「時間はそんなにねぇぞ。3時間だ」
 張嶷「十分だ」
 張嶷は、祖父母の墓参りでいつもお世話になっている寺の住職から貰った数珠で、今からする所業から返ってくるであろう呪いを少しでも軽減しようと、一心に霊を弔った。
 龔禄「アイツは勘と行動力は優れてんのに、何が霊だ。呪いだ。んなのあるわけねぇってんだ。人は死んだら終わりだ。そうだろ姚伷」
 姚伷「あながち、そうでもないかもしれん。川の氾濫は神様の仕業などと言うだろう?」
 龔禄「神様ねぇ。んなのがいるんなら人が人を殺し合う世界をなんとかしてくれってんだ」
 姚伷「だからこそ劉備様は人が人を殺さない世界のために頑張って居られるのだろう。そのためなら今回のこの行いも生きると信じたいものだ」
 張嶷「すまない。取り敢えず、できるだけのことはやった。最後に、解体する際、身体の一部分だけでいい。彼らが生きていた形を作ってやりたいのだ」
 龔禄「攻めてきた野盗如きにどんだけだよ!」
 張嶷「彼らの中には、家が裕福なら、普通だったなら野盗に身を落とさなかった者もいるかもしれない。俺は、どんな人間にも生きる権利があり、死は平等にあると考えている。だからこそ、彼らとてその生がどんなに酷い物だとしても、死んだ今となっては、弔ってやりたいのだ」
 姚伷「張嶷の好きなようにさせてやろう。なぁ龔禄」
 龔禄「チッ。わーったよ。どこでもいいんだな?」
 張嶷「できれば、薬指がいい。心臓と繋がっている指なのだそうだ。住職から聞いた受け売りだが」
 龔禄「あーもう。わーったよ。薬指な」
 こうして、劉璋が見た入り口の光景が作られたのである。張嶷は、お世話になっている寺の住職の許可を取り、無縁仏として、まとめて野盗たちの薬指を同じところに埋めたのである。
 張嶷「これで死後もお前たちは共にあることを願う。あのようなこと本当に申し訳ない。だが、呪わずに成仏してくれると有難い」
 その時、背後にゾッとする感覚を覚える張嶷。
 馬漢「攻めてきた野盗に一心に弔うなど馬鹿者だな」
 冷苞「あぁ、けどよ。なんだかすごく心があったかいんだ」
 高沛「今まで俺たちのやってきたことが全て洗われるかのように」
 楊懐「俺たちが殺した女たちや民の呪いが返ってきたのかもしれないな。それもまとめて、あの男が弔ってくれたかのようだ」
 馬漢「ありがとう青年よ。我らは誰も恨まん。こうして皆とまた一緒に居られるのだからな。心より感謝する」
 風のような何かがスッと触れたかと思うと消える。
 張嶷「今のは、明らかに何か違う。何か居た。ごめんなさい。だから恨まないで~」
 とんでもない速さで、村へと戻る張嶷だった。入り口の劉璋軍は、兵たちの士気は完全に打ち砕かれた。とても戦える状態ではない。
 劉璝「おい、立て。この臆病者ども、こんなのを見せられて、黙って帰るってのか。ウプッ」
 劉晙「そうだぞ。コイツらの仇を取りたいと思わないのか。オプッ」
 王累「劉璋様、兵らもこの状態では、とても戦えたものではないでしょう。アプッ」
 劉璋「劉備め。許さん。許さんぞ。この悍ましき所業、必ず返ってこよう。エップ。全軍、撤退だ。オェェェェェェ」
 劉璋は耐えきれず、最後は吐いてしまっただけでなく、あまりの恐ろしさに下も濡らしてしまったそうだ。劉璋はこの恥ずかしさと劉備への恐ろしさを抱えて、帰路に着くのだが、成都が既に反乱軍に落とされていることを劉璋はまだ知らない。
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