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4章 三国鼎立

反乱の兆し

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 呉懿は程なくして、趙筰の手紙に書いてあった行商人と会う。
 呉懿「お前が趙筰殿の手紙に書かれていた陶商殿か」
 陶商「はい。徐州にて商人をしております」
 呉懿「商人か。俺が聞いたのと少し違うな。劉備殿のため張魯殿を助けてくれる者を繋いでいると聞いたが」
 陶商「ハハハ。これは恩返しなんです。私の命を救ってくださった劉備様とその弟君である劉丁様への。商人としてできるのは武器の提供でしょうか?いえいえ、商人だからこそ怪しまれずにこうして溶け込むことができることもあるのです。貴方は、どうして張魯殿の救出に加わる気に?」
 呉懿「すまない。名乗っていなかったな。呉子遠ゴシエンと申す」
 陶商「呉懿殿ですね。それでは先程の質問の答えをお聞きしても?」
 呉懿「劉備殿は、民を慈しむ方だと聞いた。今の益州は、皆が劉璋の顔色を伺い心が休まることはない。俺の妹もそんな益州に嫌気がさして、劉瑁様と何処かに逃げたのかもしれんな。ここまで探して、痕跡1つ見つからないのだ。生きているのか死んでいるのか。それすら俺にはもうわからん。要は、劉備殿に恩を売っておくのも悪くないと思ったからだ」
 陶商「成程。このようなことを軽々しく言うのは気が引けるのですが妹君は生きているのではないかとそう思っています」
 呉懿「何故、そう思う?」
 陶商「劉焉殿が生きていることはご存知ですよね?」
 呉懿「あぁ。気が狂ったとかで、療養施設とかいうところに放り込んだと劉璋が言っていた」
 陶商「はい。心を酷く壊しておられました。全ての女性が張姜子という張魯殿の御母堂に見えるそうです」
 呉懿「どういうことだ?」
 陶商「劉璋が拘っているのは漢中ではなく張姜子と呼ばれる女性なのではないかと。まるで自分を捨てた母に復讐するかのようにそう思えるのですよ。憶測の域を出ることはありませんが」
 呉懿「そうだな(いや、待て。そう言えばあの時、劉範様と劉誕様は劉璋のことをなんと言っていた?ひ、ろ、わ、れ、の、も、ら、い、こ?拾われの貰い児!?そうかそういうことか。今聞いた話と照らし合わせると一つの仮説が生まれる。劉焉様が張姜子に産ませた子供が劉璋だという仮説が。しかし、だとすれば、張魯と劉璋は父違いの兄弟ということになる。馬鹿な!?劉璋、お前は本当に実の母に復讐するためだけに、漢中で虐殺を働かせたというのか!)」
 陶商「何やら長考しておられましたが何やら思い当たることでもあったのでしょうか。いえ、このようなことを聞くのは、ダメですね」
 呉懿「1つ頼みがある」
 陶商「なんでしょう?」
 呉懿「法正と呼ばれる男に会ってもらいたい」
 陶商「法正殿ですか?」
 呉懿「あぁ、劉璋に意見して、蟄居させられた賢人だ」
 陶商「会うのは別に構いませんが」
 呉懿「そうか。では、今から行こう」
 こうして呉懿の案内により法正が蟄居を命じられた村へとやってきた。
 呉懿「法正殿、居られるか?」
 法正「その声は、呉懿ですか。開いている勝手に入れ」
 呉懿「失礼する」
 法正「何の用だ?お前も俺を笑いに来たか?」
 呉懿「いや、あって欲しい男を連れてきた。こちら、徐州にて商人をしている陶商殿だ」
 陶商「陶商と申します」
 法正「商人が何の用だ?いや、待て、徐州の商人と言ったか?」
 陶商「はい」
 法正「では劉備殿と付き合いがあるのだな?」
 陶商「付き合いどころか救われた縁でこうして、劉備様のためになることをしていると言ったほうが良いでしょうか」
 法正「呉懿、劉璋に付き従うだけのお前がどういう風の吹き回しだ。だが、これはようやく運が巡ってきた」
 呉懿「そう見えていたのなら謝ろう。俺とて、妹を探すためには劉璋に逆らうわけにはいかなかったのだ」
 法正「何、ではようやく見つかったのか呉莧殿が」
 呉懿「いや、見つからなかった。後、考えられるところは劉璋しか立ち入りの許されていない所だけだ」
 法正「お前、まさか反乱を起こす気か?」
 呉懿「あぁ、張松が劉璋を連れ出してくれたこの好機しかない。劉璋しか立ち入らない部屋を探す好機は」
 法正「馬鹿者!これは劉璋の罠だ!劉璋は、お前のことを要注意人物として、側に置くことで監視していたのだ。それがどうして今回は側に置かなかったかお前はそれをもう少し考えろ」
 呉懿「だが妹を見捨てることなど俺にはできん」
 法正「それで俺に策を求めに来たということか」
 呉懿「あぁ、その通りだ」
 法正「裏切ったと思われずに劉璋の開かずの部屋を探索する手立てがないわけではないがそのためには陶商殿の協力が必要不可欠となろう」
 陶商「私の協力ですか?」
 法正「あぁ。今、この時なら怪しまれない最も確実な方法だ。劉備軍の服を2万着、準備して欲しい」
 陶商「いやいやいや何をするつもりですか?劉備様に迷惑をかけるようなことには協力できませんよ」
 法正「劉備軍の服を着た孟達に成都周辺のクソ役人共の家から略奪させる。それを聞いた張任はどうすると思う?」
 呉懿「今、成都には守備兵が居ない。実直な張任のことだ。戻って防衛するために漢中の包囲を完全に解く」
 法正「あぁ、そうだ。そして、それは後々劉璋の怒りを買う。劉璋の狙いは漢中の奪取ではない。漢中に住む人間の虐殺なのだ。要は五斗米道の完全壊滅ということだ。俺も密偵から話を聞いて驚いた。漢中各地での凄惨な事件をな。俺でもここまでのことをしようとは思わない。あいつに国を任せ続ければ益州から民草が居なくなろう」
 陶商「成程、劉備様もそのようなことは望まないでしょう。それにクズの役人を懲らしめるってことなら協力しないわけにも行きませんね」
 法正「それに、事が終わった後は劉備軍の振りをして、成都に紛れ込んだどっかの野盗ということにすれば良い。逃げ足の早い孟達ならば捕まる心配は無いからな。その隙に呉懿、お前は顔を隠して、中の様子を探れば良い」
 呉懿「感謝するぞ法正殿」
 こうして、劉璋の漢中での虐殺に対して、納得できない者たちが裏で結束を固めるのである。その裏に、徐州にてかつて救われた陶商という商人が深く関わっていることにこの時は誰も知らない。
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