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4章 三国鼎立

救出作戦

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 劉璋が張松が持ち帰った提案に乗り劉備を攻める頃、厳顔は張魯を救出するべく行動を開始する。
 厳顔「成都に蔓延る賊を将軍に任命したかと思えば、罪なき民を虐殺し、女を連れ去るとはあのような男が劉焉様の御子息で次期当主なぞワシは認めん」
 趙筰「やれやれ、此度の進軍拒否して正解であった。危機に瀕している張魯殿をお救いできるのだからな。それに張魯軍を取り囲んでいるのは張任だそうだ」
 厳顔「太守様、感謝しますぞ。それにしても張任め。あの大馬鹿者が、何故あそこまであのクズに仕えるのじゃ。利用されていることがわからんのか!」
 趙筰「そう責めてやるな。あやつは実直な男。1度目の張魯攻めを失敗し、降格処分を覚悟していたところをお咎めがなかった。それに深く感謝しているのだろう。裏に利用できるという魂胆があったとしてもだ」
 厳顔「それにしてもあの優しかったお人がまるで人が変わったかのように、漢中郡で容赦なく虐殺した賊徒共を此度の劉備殿の攻めにも先行させたそうじゃ。劉備殿も同じようにやられなければ良いのじゃが」
 趙筰「お前は、随分と劉備殿のことを買っておるようだな」
 厳顔「そうかもしれんの。しかし、この地を攻めてくるのなら戦いますぞ」
 趙筰「うむ。この地を守れるのは劉璋様でも劉備殿でもない。我々、この他に住まう民たち1人1人だ」
 厳顔「趙筰様がここの太守に任命された日のことを思い出しますなぁ」
 趙筰「年端もいかぬガキが任命されたとあって、食ってかかられたな」
 厳顔「そんなこともありましたなぁ。その時にも同じことをもうしておられましたな。この地を守るのは劉焉様でも自分でもない。お前たち1人1人だと」
 趙筰「懐かしいな。あれからもう20年か」
 厳顔「ワシもすっかりおじいちゃんですわい」
 趙筰「まだまだ現役であろう」
 厳顔「勿論ですぞ」
 趙筰「張魯殿をお救いしここで匿うとして、厄介なのは張任だな」
 厳顔「既に手は打っておるのでしょうな?」
 趙筰「わかるか?」
 厳顔「もう20年来の付き合いとなりますからな」
 趙筰「張任には手紙を出しておいた。響くかどうかはあやつ次第だが」
 一方その頃、漢中の郡のほとんどを手中に治め、漢中城のみとなった漢中の包囲を任された張任・呉懿の両名は些細なことで言い合いをしていた。
 張任「呉懿、貴様何を言っているかわかっているのか!」
 呉懿「わかっている。こんなやり方で漢中を取って、民たちの心を得られると本当に思っているのか?」
 張任「だが、あいつらのお陰で漢中を追い込めたのも事実!劉範様と劉誕様が亡くなったのは悲しいことだがあの方たちは益州を捨てたのだ。それだけでなく張姜子の色香にやられて劉璋様を騙し討ちしようとしたのだ。返り討ちにあい殺されても当然であろう!」
 呉懿「本当にそうか?俺には騙し討ちしようとしていたのが劉璋様に見えたが」
 張任「劉璋様を疑うつもりか!お前には妹が居たな。劉瑁様に嫁いだ。お前が劉瑁様を囲んでいるのではないのか!行方不明ではなく貴様が監禁しているのだな!」
 呉懿「馬鹿を言うな!誰よりも妹の身を案じているのはこの俺だ。そもそも病弱であった劉瑁様に嫁がせたことすら後悔している。普通の暮らしをさせてやれば行方不明などにならずに済んだのではないかと自分を責めない日はない。お前に俺の何がわかる!」
 張任「フン。貴様が劉璋様を疑うのと同じように俺は劉瑁様が行方不明の件で貴様を怪しんでいるということだ!」
 呉懿「話にならんな。俺は張魯を殺すことに反対だ!五斗米道の信者たちが何をしたというのだ!あのような虐殺、許されることではないぞ!」
 張任「お前は信者の怖さをわかっていない!信じる者のためなら殺すことも厭わない狂信者の集まりなのだ!」
 呉懿「五斗米道を信じる者が我々に何をした?何もしていない。彼らとてこの益州に住む善良な民なのだ。どうして、五斗米道は駄目と決めつける!自分が信じる宗教が一つでないといけないことなどない!」
 張任「貴様、その言葉は反逆罪だぞ!我々のこの戦は益州の解放なのだ。そのためには穢れ多い五斗米道を浄化せねばならんのだ!」
 呉懿「もう良い。貴様と話すと疲れる!勝手にせよ」
 張任「呉懿、待て。貴様、後悔するぞ」
 外に出た呉懿が手紙を運ぶ男を捕える。
 伝令「何をするんでい」
 呉懿「お前、何処の者だ?」
 伝令「巴郡太守趙筰様より、張任様にこれを届けてくれと頼まれただけでい」
 呉懿「少し検めさせてもらうぞ」
 呉懿が手紙に目を通す。
 呉懿「趙筰殿は、やはり何か怪しいと感じているようだな。伝令よ。帰って伝えてくれぬか。今の張任に言葉は届かない。ここに書かれていることは、この呉懿が請け負うと」
 伝令「呉懿将軍だったとは失礼しやしたでい。必ずお伝えするでい」
 呉懿「張魯殿は、民から集めた米で私腹を肥やしている。劉璋様はそう言って、張魯の討伐に乗り出した。しかし、本当にそうならここまで民の抵抗が激しいことはない。宗教思想で縛っているからなどと張任は言うが、命をかけるほどでは無いだろう。張魯の治世が広く民の羨望を集めているからだ。劉璋は自分より民の評価を集める張魯をどうにかしたいという私怨で動いているのだ。だからこそ、五斗米道を信奉する村々を賊どもを使って、殺し周り、焼いた。あのような虐殺、許されるわけがない。変わってしまわれた。あのお優しかった劉璋様はもう居ない。なら俺がすることは。張魯殿の救出か。張任を漢中から引き剥がすことだな」
 呉懿は決意を固めると行動を起こすのだった。
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