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4章 三国鼎立

双方の思惑

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 江夏の海上にて劉琮が孫権軍を押さえ込んでいる頃、益州の劉璋も動き出そうとしていた。これはその少し前、張松が劉璋と曹操との同盟を延長しに許昌へと参り謁見していた時のこと。
 曹操「劉璋からの使者だったな?」
 張松「はい」
 曹操「して何の用だ。今、我が軍は華北の総仕上げの真っ只中、益州などという辺境仲間っている暇など無い」
 張松「(なんたる無礼な男であろうか。俺の住む土地を辺境と申すか。今までこのような男に益州を託そうなどと考えていたのか。なんたる愚かなことであろう。しかし、この場は丸く収めておくべきだな。劉璋に勘づかれているやもしれぬ。兄の動きも怪しい。まるで俺のことを嗅ぎ回っているかのようで気が抜けない)そのような時に大変申し訳ございません。我が主、劉璋様より同盟の延長をお願いしたいと」
 曹操「同盟の延長とな。まぁ、良いであろう。ようやく華北が手に入りそうで気分が良いのでな」
 張松「ありがとうございます。我が主劉璋様も大変お喜びになりましょう。では、これにて失礼致します」
 曹操「待て、これを知っているか?」
 曹操は自身が書いた兵法書である『孟徳新書』を見せる。
 張松「(成程、どうしてもこの俺をかけにしたいようだな。田舎者のお前にお前が書いた兵法書がわかるわけが無いとそう言いたいのか。周りの奴らもニヤニヤとしやがって、良いだろう)何かと思えば、このような物、益州では子供でも誦じれますぞ。誦じて見せましょう」
 張松は一言一句違えることなく『孟徳新書』を暗唱してみせた。周りのニヤニヤしていた者たちの顔が青白くなっていく。
 張松「如何ですかな?間違いがありましたかな?また、このような同じ書物が益州には山のように溢れております。著者が不詳のためあまり知られていないのでしょうな。そのことを利用して真似て新書などと称し無学の子弟に教えたといったところでしょうか。いやはや、誰が書いたのやら」
 曹操が顔を真っ赤にして怒る。
 曹操「これが益州には山のように溢れているだと!このワシを馬鹿にしよって『孟徳新書』を焼き払え。そして、このワシをここまで侮辱したこの男を百叩きにせよ!」
 張松が棒で100回叩かれ解放される。
 張松「(酷い目にあった。まだ全身が痛い。あんな男に益州を託せることなどできんと確信した。しかし、劉璋にそのことを告げても何も変わらん。何か手を打たねば)」
 ???「曹操様もひどいことをなさる。わざわざ益州から遠路はるばる同盟の更新をしにきてくださった方を小馬鹿にして」
 張松「うぅ。其方は?」
 ???「これはこれは申し遅れました。曹操様の御子息曹丕様に仕えております。司馬仲達と申します。曹操に一矢報いたいと思いませんか?」
 張松「何を言っているのだ?」
 司馬懿「いえいえ、曹操を罠に嵌めるというのは如何かと?」
 張松「!?そのようなことが可能なのか?」
 司馬懿「えぇ。お互い疑い深い君主をお持ちだ。そこでどうでしょう。ここは1つ、私の提案に乗るというのは?」
 張松「その提案とやらは何でしょう?」
 司馬懿「なーに、同盟を破棄することなく劉備を攻めれば良いのです。あー、攻めると言っても振りで構いません。そうすればあなたの主君である劉璋殿も曹操をも騙すことができましょう」
 張松「確かにそうかもしれんが(なんだ、このきな臭い話は、まるで罠に嵌める対象に益州も含まれているかのような物言いに聞こえなくも無い。しかし、益州を託せる者が他にいるのなら仁君と名高き劉備殿を置いて、他にいないだろう。その劉備殿の器を見定めるならこの話は良い話でもある。これを利用して、この男をも嵌める気概を見せよう)しかし、合点が行きません。それで、司馬懿殿の得になるのですか?」
 司馬懿「私に得などありませんよ。私はただ益州から遠路はるばる訪ねてきてくださった貴方に対して、狼藉を働いた曹操を少し懲らしめてやりたいだけですよ」
 張松「成程、曹操軍も一枚岩では無いと。わかりました。その提案をお受けしましょう」
 司馬懿「ありがとうございます(ククク。徐州を我が君に、荊州を劉璋と孫策に挟み撃ち。これではいかに劉備といえど大敗北は必死であろう。後に残った厄介なのは孫策のみとなろう)」
 張松「それでは(今の含み笑いを見逃す俺では無い。明らかな謀だ。狙いは劉備殿か。劉備殿の器を見定め、それが託すに値しないと判断したら、この国はこの男の元に落ちるであろうな)」
 張松は帰ってこのことを劉璋に伝える。
 劉璋「曹操殿を怒らせただと!?何を考えているこの大馬鹿者が!」
 張松「劉璋様、申し訳ありませぬ。何分、この益州では多く広まっていた書物ゆえ、それがまさか曹操殿が書いたものとは思えず。面目次第もございませぬ」
 劉璋「そして、挽回の機会のため劉備を攻めよと司馬懿と名乗る軍師から命じられたと?」
 張松「はい。ですが劉璋様、これは好機でございます。長年続いた漢中も残すは、張魯の籠る漢中城のみとなりました。今、ここで漢中の包囲を少し緩め、荊州の地に目を向けるのも一興かと」
 劉璋「成程な。確かに一理ある。曹操殿に最終的に国を捧げるのなら大きい方が俺の役職も高くなろう。それに曹操殿が3度も煮湯を飲まされた劉備の領土を切り取ったとなれば、大層喜ばれよう。相わかった。これより我が軍は荊州に向け進軍を開始する」
 劉璋の号令により、漢中の包囲が緩くなり、張魯らを助ける動きが巴郡で起こる。代表者は厳顔であった。そんな動きを知らず劉璋は、荊州へと軍を進めるのであった。
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