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4章 三国鼎立

睨み合い

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 劉琮はまずは相手よりも数が多く見えるように手を打つ。漁船から何から何まであらゆる船を頭を下げて貸し出してもらい最後尾に鎮座させる。後ろの方の船影は近付かなければよく見えない。ハリボテで構わないのだ。だからこの戦の要は最前線に位置する中央の黄祖、左軍の蔡瑁、右軍の張允と中央やや後ろに控える甘寧・蘇飛の5軍であった。劉琮は最後尾の借りてきた船に、協力してくれる民たちを乗せ、数だけいるように見せた急拵えなのだ。しかし、効果はテキメンだった。兄孫策から大事な水軍を預かる孫権は敵の数が朧気でよく見えないことで、ためらっていた。それに船影はたくさんあると聞き、すぐさま攻撃を仕掛けら決断も降さずにいたのだ。
 蒯越「まさか劉琮様が何をしているのかと思ったら民たちの協力を取り付け、船を借りてくるとは思いませんでしたぞ」
 劉琮「この戦いにおける。こちらの勝利は、劉備様の率いる交州征伐軍の期間まで耐えること。まぁ撃退できれば1番良いんだけどね。相手が仕掛けてきて、甘寧叔父上まで抜かれた場合は民たちには一目散に逃げ出すように伝えて協力してもらったんだ」
 蒯良「ですがすぐに攻撃を仕掛けてくると踏んでいた相手が動かないところを見るに、効果があったようですな」
 劉琮「取り敢えずは、相手の出鼻は挫けたかな」
 蒯越「(あのナヨナヨして頼りにならなかった劉琮がこうも成長していようとは。2年ほどみぬ間に立派になられたな)」
 劉琮「どうかしたかい蒯越?」
 蒯越「いえ、今の姿を亡き劉表様も喜んでおられるかと思いましてな」
 劉琮「父が?どうだろう?父なら迎撃してみせよって笑いながら言うんじゃ無いかな」
 蒯良「(風格も伴っておられる。次期当主としての重荷から解放され、水軍のことを学ばれ、功績が認められて江夏の太守へと任命された。初めは、あの劉琮がなどと思っておったが中々良いでは無いか)」
 劉琮「蒯良まで、どうしたんだい?」
 蒯良「いや。立派になられましたなとしみじみと思いましてな」
 劉琮「全然立派じゃ無いよ。ほら、足見てよ。ブルブルだよ」
 文聘「武者震いというやつですなぁ」
 劉琮「違うよ~怖いんだよ~。でも民や皆んなを守らないとだから」
 民男「安心してくだせぇ。俺たちは例えここまで攻められようとも逃げやせんぜ。もしそうなったら俺たちも花をまた海の男だ。戦ってやりますよ」
 劉琮「ダメだよ~。危険なんだからね。気にせず逃げて良いからね」
 蒯越「(こういう、のほほんとしていて、とっつきやすいところも気に入られているのであろう。民たちが進んで手を貸す国作りか。殿に初めてそう言われた時、そんなことできるわけが無いであろうと思ったが殿に仕え、こうして劉琮をみていると時間はかかろうとも実現できるのでは無いかと思えてくるな)」
 蒯良「(兄上の思案顔を久々に見るな。だが民たちが進んで手を貸す国作りか。実現できればこれほど素晴らしいことはないだろうな)」
 一方、その頃最前線の黄祖。
 黄祖「者共、絶対にこちらから手を出してはならんぞ(あの船影。劉琮様、考えましたな)」
 蔡瑁「左軍もだ。こちらから手を出す事を禁じる(劉琮、まさか空城の計の海戦使用をするとは)」
 張允「右軍は、中央と左軍と足並みを揃える。一時待機とする(蔡瑁も黄祖の旦那もどうして動かない?後ろの方に何かあるのか?なんだあれは?劉琮様、どうやってそんなに大軍をかき集めたんだよ。成程な。数来るまで待機ってことか。了解。了解)」
 この判断が孫権をさらに狂わせていた。
 孫権「どうして、こちらの倍の船団があるにも関わらず全く動いて来ない。こちらの動きに相手は気付いていないのか?遠くてよくわからない」
 周泰「では孫権様。近付くか?」
 孫権「待て、そのようなことをすれば我らの狙いを察知される」
 朱桓「だが動かなきゃ何もわからないと思いますが」
 董襲「何躊躇ってんだよ。数いようが全部壊滅させちまえば良いんだ。早く号令をくれ」
 蒋欽「暴れたくてウズウズしてんだ。これ以上待たせんな」
 周善「誰か孫権様に酒飲ませれば良いんじゃねぇか」
 孫権「全く、酒があるのならとうに飲んでいる」
 周泰「ダメだ」
 孫権「わかっている。流石に俺も戦の最中に酒など飲まん」
 闞沢「ふむぅ。相手の出方がわからぬ以上こちらから手を出すのは得策では無いでしょうな」
 顧雍「かと言って、このままでは血の気の多い奴らが暴れ出しかねませんぞ」
 吾粲「では、様子見で突撃してみるのは如何か?」
 賀斉「そのようなことをして無駄に被害を出して如何する?幸い、相手の巨大な船影は最後尾。相手が揃うのを待っている可能性だって捨てきれない。攻めるのは今かもしれない。悠長にしていられる時間はないがそれと同じぐらいに兵を無駄にできる状況でも無い。これが相手の策ならば、こちらはまんまとその術中に嵌っていると言わざる終えない」
 孫権「そこなのだ。これが策ならばどちらにも取ることができてしまうのだ。1つは、こちらから手を出すのを待っている可能性。劉備軍の利点としては大義名分を得るためだ。それを口実に逆侵攻をしてくる可能性がある。そしてもう1つは、数を多く見せているだけで、その実戦える兵数はこちらの半分程度の可能性だ。こちらの場合だったとしたら向こうの利点は時間稼ぎ。この戦いは時間との勝負。劉備軍が交州を制覇し戻って来る前に荊州を奪取し防備を固めること。これが重要なんだ。だから攻撃することが最善手なんだ。それはわかっている。わかっているのだが。前者だった場合。我々が壊滅され、あの荊州水軍が揚州に上陸してしまったらほぼ全軍をこの荊州侵攻に当てている我が軍に余力はない。やはり様子をみるしか無い」
 そう劉琮はとてつもないことを知らず知らずのうちにやっていた。そう、孫策軍には余力が無いのである。文字通り全軍をかけて荊州奪取に乗り出している。だからこそ、海を制するため気付かれずに港を奪取していくのが孫権軍に与えられた役割だった。それが初めの玄関口である下雉で、膠着させざるおえない程、孫権の精神を追い込んだのである。慎重に慎重を重ねる孫権を散々な扱いである劉琮が押さえ込んでいる。しかし、これは劉琮の計算尽くであることをまだ誰も知らない。
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