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4章 三国鼎立

就任お披露目

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 江夏では、黄祖から新たにこの男が太守に就任することとなった。今日正史では不遇な運命を辿ったこの男にとって、晴々しい1日となる。かつて父に仕えた配下の者たちが開いてくれた民を交えての就任お披露目会。
 ???「今日は、僕なんかのために集まってくださりありがとうございます。父は為政者でした。晩年は汚してしまったかもしれませんがそれは于吉という男が全て悪かった。いえ、そうではありませんね。過ちを認めることもまた未来へと一歩前進することを意味します。今日をそんな日にしたい。僕は劉備様のように民に愛される為政者を目指します。それが、父を亡くした僕を養子として引き取り可愛がってくれた養父劉備様への恩返しと思っています。こんな頼りない僕を皆んなで支えてください。これで就任挨拶とさせていただきます。新たな江夏の太守劉琮より」
 民女「きゃぁ劉琮様~。ますます可愛くなっちゃって~」
 民男「おっ、黄祖様はようやくお役ごめんってか」
 黄祖「そこ、煩いぞ。そんなに言うなら後で水軍の調練でこき使ってやるわい」
 民男「ゲッ、そりゃ無いですぜ~」
 蔡瑁「この晴々しい姿を本当なら姉上にも見ていただきたかった。しかし、姉上は道を踏み外された。生かされているだけマシだろう。劉備様の恩に報いるためにも劉琮、いや太守を呼び捨てにしてはいかんな。劉琮様を盛り立てねば」
 劉琮「叔父上ぐらいは呼び捨てにしてください」
 蔡瑁「お前がそういうなら公の時以外はな」
 劉琮「相変わらず頑固な人です叔父上は」
 文聘「うおーん。劉琮様がようやく。ようやく。うおーん。立派になられて。この文聘、望外の喜びでする~」
 劉琮「仲業、泣くな。抱き付くな。服がビショビショになるだろう」
 民女「あぁん。尊いわ~。劉琮様と文聘様のあつ~い抱擁~」
 黄祖「お前までここに派遣されているとはな海賊」
 甘寧「うっせぇよ。黄祖のオッサン。仕方ねぇだろ。玄徳から劉琮の子守頼まれてんだからよ。ったく人使いの荒い義弟だぜ」
 黄祖「フン。海賊が殿の側近中の側近なのだから出世したもんだな」
 甘寧「オッサンは相変わらず不器用を貫いてんだな」
 黄祖「フン。仕方なかろう。こういう性分なのだからな。それよりも荀彧殿の話をどこまで信用している?」
 甘寧「孫策が荊州制覇に動くってやつか?」
 黄祖「それ以外なかろうが。軍略面でお前と話すことなど」
 甘寧「まぁ玄徳も警戒はしている。それに荀彧の言が十中八九正しいな。孫策があのまま終わる玉とは思えねぇ。荊州を喰らい。益州を喰らって、曹操と天下を二分しようと考えてるんじゃねぇか」
 黄祖「天下を二分か。成程な。であるならば、今この時が1番危険だということだな」
 甘寧「あぁ、けど玄徳から頼まれてんだ。今日だけは喧騒を忘れて劉琮を楽しませてやってくれってよ」
 黄祖「全く、お気楽な殿だな。蔡瑁の奴が曹操に降ろうなどと考えていた頃が懐かしいわい。だが曹操に降れば劉琮様は消されておったであろうな」
 甘寧「あぁ、それだけは間違いねぇと言い切れるかもな」
 劉琮「甘寧叔父上、そんなところで黄祖と何を?まさか黄祖、まだ甘寧叔父上のことを海賊だと虐めているのですか?僕が太守になったからには虐めは絶対に許さないぞ~」
 黄祖「そんな笑顔で言われても怖くはありませんぞ。確かに海賊のことは未だに嫌いじゃ。じゃが、今は共にこの国を守る仲間じゃ。虐めてなどいませんわい。ガッハッハ」
 甘寧「そういうこった劉琮。お前は今日一日楽しんで来な。黄祖のオッサンにも今日までは太守宜しくって頼んでんだからよ」
 黄祖「海賊、そんな話ワシは」
 劉琮「良いんですか。色々と見てまわりたかったんですよ」
 黄祖「ちょっと、劉琮様。おーい。海賊、謀ったな」
 甘寧「何のことだよ。俺は玄徳から今日一日、劉琮を楽しませてくれって言われてんだよ。その意味はわかるよな」
 黄祖「あーもうわかったわかった。せっかく酒を飲んで気分よく明日から水軍調練にかかりっきりにできると思っておったというに。とんだ厄日じゃ」
 劉琮は水軍という力でこの国を守り、知識人を広く呼び込み国を豊かにした父劉表、病気勝ちでありながら優しく接してくれた兄劉琦に想いを馳せ、2人の眠る墓へと訪れた。2人が亡くなったのは、劉備軍が荊州南部へと向かってすぐ後のことだった。
 劉琮「父上・兄上、見ていますか。僕は江夏郡の太守を命じられました。2人にも僕の晴れ姿を見ていただきたかったです。こうして、この江夏だけをみて回っても父上の偉大さがわかります。海運業と水軍を強化した理由。それは水ですよね。水という生き物にとって大切な資源を守り抜く覚悟。水によって国を豊かにし、水によって国を強くする。それがこの江夏には随所にみられました。本当に素晴らしいところです。ここを誰にも渡さないように天から僕に力をお貸しください」
 劉琮は祈りを捧げるとその場を後にする。その時、背後からふと父と兄の声が聞こえた。
 劉表「そのことに気づくとは流石ワシの息子じゃ。お前ならば大丈夫じゃ。なんたって、わしの自慢の息子じゃからな」
 劉琦「琮、こんな不甲斐ない兄だがいつまでもお前を側で見守っている。そのまま思うがままに羽ばたけ」
 劉琮「父上・兄上、僕は僕なりに劉備様と共にこの国を守り抜きます。どうか安心してみていてください」
 聞こえた言葉に答えるように劉琮は決意するのだった。為政者として、兵や民らの生活を守るため。何人たりともこの江夏より先に行かせないことを。そして、翌日奴らがやってくるのだ。
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