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4章 三国鼎立

一抹の望み

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 郝昭の言葉に口を開く袁煕。
 袁煕「この倉亭新城で惹きつける役が必要ってことだな」
 郝昭「あぁ、流石にあれが撤退ではなく、包囲のために一度引いたってことなら。この人数で外に出たが最後、皆捕えられるだけだ」
 袁譚「そうか(公孫瓚殿、もうすぐ会える気がするぜ。これが家族を守るって踏ん張るところかも知れねぇな。煕、良い嫁を貰ったじゃねぇか。お淑やかな姫様だと思ってたが熱い女だったぜ。ちょっと妬いちまった。俺はガサツだからよ。女に縁がなかったしよ。ちょっと羨ましいってな。尚、お前が当主だからこそ俺ももう一花咲かせられるってもんだ。そもそも、お前らを虐めていた俺だ。最後くらい兄貴らしいことさせてくれよな。でも俺が残るなんて言ってもコイツらが言うことを聞くわけがないよな。どうすっかな?俺、馬鹿だからよ。これしか思いつかねぇわ)」
 甄姫「私が残ります」
 袁煕「何を言っているんだ甄?」
 甄姫「例え曹操の妾になろうとも生きていればもう一度袁煕に会えるでしょ」
 袁煕「何を言っているんだ甄!」
 甄姫「それに私は逃げられそうにないから」
 袁煕「なんて言ったんだ?」
 甄姫「曹操は虐殺をするって聞くわ。私のことを気に入っていると言うのが本当なら私からの嘆願なら女・子供・民たちを守れるかも知れないでしょ。これが私の戦い方よ」
 袁煕「ホント、頑固だな甄は」
 甄姫「えぇ、ごめんなさいね」
 袁煕「いや、良いんだ。俺には勿体無い嫁だったんだ甄は」
 甄姫「そんなことないわ。確かに最初のアンタは流されっぱなしで自分の意思もなくて、大嫌いだった。でも、最近のアンタは割と気に入ってるのよ。だから、私も自分の身を差し出してでも守ってあげたいのよ。アンタたちがいずれ帰ってくるかも知れないこの場所を」
 袁煕「そんな風に思っていてくれたなんてな。もっと早く気づいていれば」
 甄姫「バーカ、今更気づいても遅いのよ」
 袁煕「全くだな」
 淳于瓊「俺も」
 呂威璜「馬鹿野郎、これ以上カッコつけんじゃねえよ。俺が残る。そもそも、俺はお前を貶めようとしたんだしよ。お前は袁尚様のことを守ってくれ」
 眭元進「ハァ、何1人でカッコつけてんだ。俺も監視してた側だ。そんな俺にもお前は良くしてくれた。返させてくれよ」
 韓莒子「俺も残る」
 趙叡「援護できるのは多いに越したことはないだろう」
 淳于瓊「お前たち、すまない」
 袁尚「逃げるなんて判断が本当に正しいんだろうか。いっそのことこの倉亭新城で抗えるだけ抗って」
 郝昭「まぁできなくはないがどんどんしんどくなるのは目に見えてる。あの堅牢な易京城だって最後は兵や民の裏切りで落ちた。そうだろ袁譚殿?」
 袁譚「確かにそうだがそれでも公孫瓚という男は偉大だった」
 郝昭「でも、兵や民にとってずっと攻められ続けて疲弊するってことは、その状態から早く解放されたいってなるんだ」
 袁尚「それがここでも起こり得るってことか」
 郝昭「十中八九。ここが包囲されている間に周りは落ちていき状況が悪化していく分、崩壊も早いと思うよ。そして袁尚様は、連れていく人間を取捨選択しないといけない。みんなを連れて逃げるなんて不可能だからね」
 袁尚「そんなことできるわけがないだろ!」
 郝昭「でもしないといけない。袁尚様が当主なのだから」
 袁尚「袁譚兄上・袁煕兄上・淳于瓊・蒋義渠・高幹コウカン・郝昭・郭淮、こんなところかな」
 袁譚「そうと決まったらさっさと行こうや」
 袁煕「いつか、この雪辱は必ず果たそう」
 袁尚たちが外の門を出た後、バッタリと閉じられる。
 袁尚「袁譚兄上、何してるんだ?」
 袁譚「やっとお前らがいなくなってくれて清々してるぜ。逃げるだ。俺はずっとこの時を待ってたんだ。俺が本当に当主を諦めたと思ってたのか。全く馬鹿な弟のお守りをするのは大変だったぜ。この手で殺せないのが残念だがとっとと行け」
 袁煕「袁譚兄上、本当にそう思ってるならどうしてそんなに泣いてんだよ。一緒に尚を支えるんじゃなかったのかよ」
 袁譚「馬鹿野郎が。だからに決まってんだろ。袁家の全員が逃げ出したなんて、そんな汚名を尚に着せられるかよ。弟嫌いの兄が弟を出し抜くために付き従っていた。そして、この好機に追い出した。そっちのが説得力あるだろ。さっさと行け」
 袁尚「袁譚兄上、袁譚兄上ーーーーーー。ここを開けろ」
 袁煕「尚、止めるんだ。もう」
 袁譚「尚、騒ぐんじゃねぇ!お前は生きて、いつか俺の仇討ちを果たしてくれ。なっ頼むからこれ以上お兄ちゃんを困らせないでくれ。なっ。文良・顔醜、そこにいるか?」
 文良「袁譚、あぁ」
 顔醜「袁尚と袁煕のことは任せてくれ」
 袁譚「どさくさに紛れてお前らも外に放り込んで悪かったな」
 文良「袁譚は立派だった」
 顔醜「流石親父たちが鍛えただけある」
 袁譚「頼んだぜ。煕、すまねぇな。約束は果たせそうにねぇや」
 袁煕「馬鹿野郎が。どんなことをしてでも生き恥を晒せ。生きてさえいれば何れ果たせるだろう」
 袁譚「馬鹿な俺にそんな器用なことできるわけないだろ」
 袁煕「馬鹿者が」
 袁煕はそう呟くと泣いている袁尚を抱えて、走り去った。
 高幹「行ったか?」
 袁譚「あぁって、高幹、お前なんで?」
 高幹「1人でカッコつけよって、従兄弟でお前のことをよく知っているのは俺だ」
 袁譚「その野心が大きすぎるとこ改めねぇと俺みたいになるぞって最後に言葉をかけてやろうと思ったのにな」
 高幹「フン。余計なお世話だ。ここで華々しく散るのもよかろう」
 袁譚は袁煕と袁尚が逃げる時間を稼ぐためそして守るために倉亭新城に残る選択をした。この後、数年はこの倉亭新城で袁譚は孤独な戦いを続けることとなるのだがその話はまた時が来たら語るとしよう。
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