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4章 三国鼎立
倉亭の戦いの前日
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袁尚は袁紹亡き後の袁紹軍を取りまとめた。多くの者が渋々ながらも従っている状態だ。この倉亭に迫る曹操軍との一大決戦が今後の袁尚の行く末を決めることは明確だった。1番の重役を弟である袁尚に担わせてしまった袁譚と袁煕は弟を支えるため奮戦することを誓い合い。その日、2人で酒を酌み交わしていた。
袁譚「まさか、こうしてお前と酒を飲む日が来るとはな」
袁煕「それは、こちらの台詞だ。あんなに俺たちに当たり散らしていた兄上が随分と丸くなったものだ」
袁譚「丸くなったか。体型のことを言ってるんじゃねぇだろうな!ってのは冗談だ。ある人に言われた言葉がずっと引っかかっていてな。今の俺にとっては恩人でもある」
袁煕「兄上にそんな人が?」
袁譚「おぅ。白馬儀従を率いていた公孫瓚って言うんだけどよ」
袁煕「公孫瓚って、父上の幽州制覇に最後まで抵抗していた人だよな?」
袁譚「おぅ。あの人と対峙した俺だからわかる。あの人は強かった。精神的にも肉体的にも、そして父親としてもな」
袁煕「兄上がそこまで褒めるとはね」
袁譚「酒が回ってんのかもしれねぇな。あの人は、俺に言ってくれたんだ『袁紹を出し抜きたいならな』ってよ。まるで俺の心を見透かしていた。戦っている時もよ。俺は何回も死んでんだ。なのによ。まるで、これから先のことを考えているかのように俺を鍛えてくれた。あんな父親を持ちたかったと心底思った。そして、こう思った。俺はただ父上に認めてもらいたかっただけだったんだってな。父上に認めてもらうために戦をするのか?違うだろ。そして、そう考えた時に俺に残っていたのは、家族だった。お前と尚のことだ。家族を守りたいと思った俺は、当主になることに執着していたのが馬鹿馬鹿しくなってな。今に至るってわけだ」
袁煕「今の兄上は、本当に頼りになる。信頼している」
袁譚「なんだよ。お前に言われるとちょっとむず痒くなっちまうだろうが」
袁煕「素直にそう思っただけさ(きっと兄上の推察通りだろう。公孫瓚はこのままではいずれ華北が戦火で蹂躙されると考えていたんだ。自分の命はもうここまで、なら次代のことを考えて、少しでも何かを掴んでくれって思いだったんだろう)公孫瓚殿は、恩人だな」
袁譚「あぁ。あの人に恥じない最期を迎えたいものだ」
袁煕「まるで死ぬみたいに言わないでよ兄さん」
袁譚「兄さんか。やっぱりむず痒いな(こうやって、無垢に笑いかけてくれたお前に俺はなんて酷いことをしていたんだろうな。安心しろ。お前たち。煕と尚のことは俺が死んでも守ってやる)」
袁煕「けっ言ってろ!2度は言わないからな」
その時、襖が開いて甄姫が入ってくる。
甄姫「あら。旦那様、2人でお飲みになるなんて、私も混ぜて下さらないかしら」
袁煕「甄!今日は兄上と2人で語らい合うって言っただろう。勝手に入ってきて、いつからかまって猫ちゃんになったのだ」
甄姫「にゃあ。甄は旦那様に構って欲しいのにゃ」
袁譚「ハッハッハ。煕よ。愛されているではないか。俺はもう酔った。帰るとする。後は若いもの同士、甄姫殿と仲良くな」
袁煕「兄上!茶化さないでくれよ。ずっと、ずっと2人で尚を支えていこう。兄上の武と俺の智で。そのためにも必ずこの戦に勝つんだ」
袁譚「あぁ、勿論だ(その約束が果たされれば1番良いだろう。だが曹操はそんなに簡単な男ではない。お前も辛い目に遭うかもしれん。そうならないように俺が守ってやらねば)」
夜が明けると袁尚の元に袁譚・袁煕をはじめとして、朱霊・淳于瓊・蒋義渠・逢紀・審配・郭図・辛評・郝昭、そして見慣れぬ男が1人。
袁尚「先ずは皆、よく集まってくれた。今日は紹介したい者がいる。皆も不思議そうに見ている者についてだ。挨拶を頼む」
???「お初にお目にかかります。性を郭、名を淮、字を伯済と申します。并州太原郡の生まれで、友人である伯道の推薦を受け、此度の戦に加わることになりました。新参者ですが、皆々様の足を引っ張らぬように尽力致す所存です。よろしくお願いいたします」
袁尚「郭淮、そう畏る必要はない。貴殿の参陣を心より嬉しく思う。郝昭、このような偉丈夫を推薦してくれて感謝する」
郝昭「頭をあげてくださいって、倉亭は落とさせませんよ。完璧に仕上げてやりましたから」
外壁には忍び返しと言われる梯子車を引っ掛けにくい作りをさせ、さらに堀を深くすることでそこに水を流さず落ちた敵が這い上がれない作りにした。さらにそれを段々のようにして3段構造にし、やっとの思いで坂を登り切った敵軍を絶望の穴へと叩き落とす。移動用の通路のあちこちに小さい弓を通せるだけの穴を数多く点在させ、そこに弓隊を置くことで、敵からの攻撃を無効化しつつ、こちら側からは一方的に打ち込めるようにした。城門も堀に合わせて3段構えにして、中は迷路のように入り組ませた。さらに、中のあちこちに弓櫓を設置し、罠に嵌った敵軍を一方的に射殺する。さらに敵軍が入り込めない奥側、ちょうど城のすぐそばを開墾し、畑にすることで食料問題まで解決させた。文字通り籠ることにかけては、最強の要塞の完成だった。
袁尚「郝昭、貴殿が味方に加わってくれたことが最大の喜びだ。淳于瓊よ。感謝する。この新たな城を我が本拠地と定め。名を倉亭新城と改める」
淳于瓊「勿体なき御言葉」
これは、袁尚が自らの城を鄴でもなく平原でもなく易京でもなく、この倉亭。いや新たな倉亭。倉亭新城を本拠地と定める宣言だった。それは、これより先に曹操は一歩も進ませないという袁尚の強い決意でもあった。
袁譚「まさか、こうしてお前と酒を飲む日が来るとはな」
袁煕「それは、こちらの台詞だ。あんなに俺たちに当たり散らしていた兄上が随分と丸くなったものだ」
袁譚「丸くなったか。体型のことを言ってるんじゃねぇだろうな!ってのは冗談だ。ある人に言われた言葉がずっと引っかかっていてな。今の俺にとっては恩人でもある」
袁煕「兄上にそんな人が?」
袁譚「おぅ。白馬儀従を率いていた公孫瓚って言うんだけどよ」
袁煕「公孫瓚って、父上の幽州制覇に最後まで抵抗していた人だよな?」
袁譚「おぅ。あの人と対峙した俺だからわかる。あの人は強かった。精神的にも肉体的にも、そして父親としてもな」
袁煕「兄上がそこまで褒めるとはね」
袁譚「酒が回ってんのかもしれねぇな。あの人は、俺に言ってくれたんだ『袁紹を出し抜きたいならな』ってよ。まるで俺の心を見透かしていた。戦っている時もよ。俺は何回も死んでんだ。なのによ。まるで、これから先のことを考えているかのように俺を鍛えてくれた。あんな父親を持ちたかったと心底思った。そして、こう思った。俺はただ父上に認めてもらいたかっただけだったんだってな。父上に認めてもらうために戦をするのか?違うだろ。そして、そう考えた時に俺に残っていたのは、家族だった。お前と尚のことだ。家族を守りたいと思った俺は、当主になることに執着していたのが馬鹿馬鹿しくなってな。今に至るってわけだ」
袁煕「今の兄上は、本当に頼りになる。信頼している」
袁譚「なんだよ。お前に言われるとちょっとむず痒くなっちまうだろうが」
袁煕「素直にそう思っただけさ(きっと兄上の推察通りだろう。公孫瓚はこのままではいずれ華北が戦火で蹂躙されると考えていたんだ。自分の命はもうここまで、なら次代のことを考えて、少しでも何かを掴んでくれって思いだったんだろう)公孫瓚殿は、恩人だな」
袁譚「あぁ。あの人に恥じない最期を迎えたいものだ」
袁煕「まるで死ぬみたいに言わないでよ兄さん」
袁譚「兄さんか。やっぱりむず痒いな(こうやって、無垢に笑いかけてくれたお前に俺はなんて酷いことをしていたんだろうな。安心しろ。お前たち。煕と尚のことは俺が死んでも守ってやる)」
袁煕「けっ言ってろ!2度は言わないからな」
その時、襖が開いて甄姫が入ってくる。
甄姫「あら。旦那様、2人でお飲みになるなんて、私も混ぜて下さらないかしら」
袁煕「甄!今日は兄上と2人で語らい合うって言っただろう。勝手に入ってきて、いつからかまって猫ちゃんになったのだ」
甄姫「にゃあ。甄は旦那様に構って欲しいのにゃ」
袁譚「ハッハッハ。煕よ。愛されているではないか。俺はもう酔った。帰るとする。後は若いもの同士、甄姫殿と仲良くな」
袁煕「兄上!茶化さないでくれよ。ずっと、ずっと2人で尚を支えていこう。兄上の武と俺の智で。そのためにも必ずこの戦に勝つんだ」
袁譚「あぁ、勿論だ(その約束が果たされれば1番良いだろう。だが曹操はそんなに簡単な男ではない。お前も辛い目に遭うかもしれん。そうならないように俺が守ってやらねば)」
夜が明けると袁尚の元に袁譚・袁煕をはじめとして、朱霊・淳于瓊・蒋義渠・逢紀・審配・郭図・辛評・郝昭、そして見慣れぬ男が1人。
袁尚「先ずは皆、よく集まってくれた。今日は紹介したい者がいる。皆も不思議そうに見ている者についてだ。挨拶を頼む」
???「お初にお目にかかります。性を郭、名を淮、字を伯済と申します。并州太原郡の生まれで、友人である伯道の推薦を受け、此度の戦に加わることになりました。新参者ですが、皆々様の足を引っ張らぬように尽力致す所存です。よろしくお願いいたします」
袁尚「郭淮、そう畏る必要はない。貴殿の参陣を心より嬉しく思う。郝昭、このような偉丈夫を推薦してくれて感謝する」
郝昭「頭をあげてくださいって、倉亭は落とさせませんよ。完璧に仕上げてやりましたから」
外壁には忍び返しと言われる梯子車を引っ掛けにくい作りをさせ、さらに堀を深くすることでそこに水を流さず落ちた敵が這い上がれない作りにした。さらにそれを段々のようにして3段構造にし、やっとの思いで坂を登り切った敵軍を絶望の穴へと叩き落とす。移動用の通路のあちこちに小さい弓を通せるだけの穴を数多く点在させ、そこに弓隊を置くことで、敵からの攻撃を無効化しつつ、こちら側からは一方的に打ち込めるようにした。城門も堀に合わせて3段構えにして、中は迷路のように入り組ませた。さらに、中のあちこちに弓櫓を設置し、罠に嵌った敵軍を一方的に射殺する。さらに敵軍が入り込めない奥側、ちょうど城のすぐそばを開墾し、畑にすることで食料問題まで解決させた。文字通り籠ることにかけては、最強の要塞の完成だった。
袁尚「郝昭、貴殿が味方に加わってくれたことが最大の喜びだ。淳于瓊よ。感謝する。この新たな城を我が本拠地と定め。名を倉亭新城と改める」
淳于瓊「勿体なき御言葉」
これは、袁尚が自らの城を鄴でもなく平原でもなく易京でもなく、この倉亭。いや新たな倉亭。倉亭新城を本拠地と定める宣言だった。それは、これより先に曹操は一歩も進ませないという袁尚の強い決意でもあった。
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