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4章 三国鼎立

心を溶かす紅蓮の炎

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 李杏は考え込み、そして口を開く。
 李杏「でも、私怖い。平地の民が怖い。耐えれる自信がない」
 魏延「あぁ、だろうな。でも、それがお前のしでかしたことの大きさだ。耐えるしかない」
 李杏「勿論、狸老ちゃんたちも一緒だよね」
 魏延「それはダメだ。彼らは、ここに残ってもらう。お前が間違っていることを指摘できず従うしかできなかったコイツらを連れて行ってもお前は平地でまた閉じ籠るだけだ。それでは、何の意味もない」
 李杏「嫌だ嫌だよ。私1人だなんて」
 魏延「1人じゃないさ。俺がずっと側に居てやる。こう見えても平地歴は長いんだ。お前に恋心を自覚して直ぐここを去ってからだからざっと10年程だな」
 李杏「魏延、わかった。私、平地に行く。魏延の側で今はわからないけど自分の罪とやらに向き合う」
 狸老「姫様。立派ですぞ。魏延、姫様のことをよろしく頼む」
 魏延「あぁ、狸老の爺様も。もう若くないんだから無理をするな」
 狸老「お気遣い、感謝しよう」
 狸老が去ると狐娘がやってきた。
 狐娘「愛の力は偉大ですね。頑なだった姫様の心を魏延の愛の炎が溶かしたってところかしら」
 魏延「なんか照れるな。遠回りしちまったけど。俺はずっとアイツが好きだった。その気持ちに変わりは無かった。だからだろうなお前らが攻めてきた時、心がすごく抉られた。俺がアイツを狂わせてしまったんじゃねぇかって」
 狐娘「寧ろ、逢えない時間が姫様の魏延への執着心へと繋がっていたのかもしれませんね」
 魏延「アイツ、感情の起伏が激しいんだな」
 狐娘「えぇ、でも魏延も悪いんですよ」
 魏延「ん?」
 狐娘「あれは、姫様が魏延の様子を見たいと駄々を捏ねた時です。魏延が見知らぬ女性と小さな子供を守っていた。それを見て、姫様は魏延に新しい女と子供がいると錯覚したのです」
 魏延「あれか。あれは」
 狐娘「存じています。大恩ある黄忠殿でしたか。その人の奥方様とお子様ですね」
 魏延「お前、そこまでわかっていて、何で教えてやらない」
 狐娘「勿論、何度もお伝えはしましたわ。でも、姫様は思い込んだら誰が何と言おうと自分の目で見るまでは納得しませんから」
 魏延「はぁ。で、それがひょっとして桂陽攻めや零陵攻めに繋がったなんて言わないよな?」
 狐娘「まさか、でもあれがきっかけで姫様が焦っていたのは確かですわね」
 魏延「それ遠回しに俺のせいって言ってるんだが。だがそういうことならアイツの犯した罪は俺の罪でもあるってことになるな。良い機会だ共に蔑まれてやるさ。アイツと2人で罪を償うまで、どこまでもな」
 狐娘「姫様のことを宜しく頼みます。魏延、貴方の言葉、耳が痛かったですよ。全くその通りだとね」
 狐娘が去り、牙狼が来る。
 牙狼「魏延、弓の使い手が必要なら遠慮なく連絡してこい。姫様のため。お前のため、手を貸してやる。後、万が一、弓大会なるものが平地で行われる時が来たら連絡してくれ、あのジジイとあのガキに次は負けねぇ」
 魏延「ジジイなどではない黄忠殿だ。俺に蛮族の血が流れていると聞いても顔色ひとつ変えず接してくれた大恩ある御方なのだ」
 牙狼「へぇ、あの爺さんがな。それにしてもあのガキは凄かったな。5本の矢を連続で放つ妙技まで披露してきやがった。俺も相当弓には自信があったってのに、まだ余裕がありそうだったあのガキはまだ伸び代って事だろう」
 魏延「ガキ?黄忠殿の御子息だろうか?」
 牙狼「いや、見てくれは若いからガキだと思ったんだがよ。精神的なことを考えるともっと歳行ってんじゃねぇかな」
 魏延「そのような方が。牙狼のそれでは、誰のことかわからないが劉備軍の元へ行けばいずれ会えよう」
 牙狼「おぅ。あんな個性の強い奴。中々いねぇよ。お前がちょっと羨ましいぜ」
 魏延「牙狼、何かあったら連絡してやるからそんな寂しそうな顔をするな」
 牙狼「ホントか。絶対だぞ。約束したからな」
 魏延「あぁ」
 牙狼が大喜びで去っていくと兎臥がやってきた。
 兎臥「魏延ー。姫様のことを泣かしたらゆるさないんだからね」
 魏延「わかってるよ。にしてもお前ギャン泣きじゃねぇか」
 兎臥「うっさいなぁ。姫様と離れ離れになるのに」
 魏延「わかったわかった。身の回りの世話が必要なこととかあったら連絡してやるからそう泣くな。いつになるかはわかんないけどな」
 兎臥「ホント、魏延、だーいすき。料理に洗濯にお掃除なんでも得意だから呼んでね。ねー」
 魏延「わかったわかった。圧が強すぎるんだよお前は」
 兎臥「絶対だからね。約束したからね。破ったら魏延のこと殺しにいくからね」
 魏延「それはやめろ!」
 兎臥があっかんべーをしながら去っていくと鯨胡と猿鴎がやってくる。
 鯨胡「よもや、若輩者の魏延がな」
 猿鴎「こうなる運命だったのだ。姫は、昔から魏延のことしか目に入らないようだった」
 魏延「そうなのか?」
 鯨胡「うむ。『初めてのお使いで市場に行った時に困っていた自分を助けてくれた歳上のお兄さん。あぁ好きな匂いだったなぁ』とか要、言っておったわ」
 魏延「それどういう意味だよ」
 猿鴎「姫は匂いに敏感でな。優しい匂いとか逞しい匂いとか匂いで人を判断してたりするが大まかには当たっていたりするから恐ろしいのだ」
 魏延「犬かよ」
 鯨胡「全くじゃ。犬姫じゃ」
 猿鴎「それは失礼であろう鯨胡。ガッハッハ」
 鯨胡と猿鴎が去ると羊潜・牛齕・鶏欒がやってくる。
 羊潜「私たちが婚姻の席に呼ばれることはないのでしょう。魏延、感謝します。最後にこのような機会を与えてくださり」
 魏延「そう畏る必要はない。ここを発ったらアイツは俺と2人きりになる。寂しいだろう。だが耐えなければならない。アイツはお前たち使用人離れをしないといつまでも世間知らずのじゃじゃ馬女で、善悪の区別が付かないお子ちゃまのままだ」
 牛齕「あぁ、俺たちが姫様に物を言えないばかりにお前に押し付けてしまうこととなった」
 鶏欒「俺はまだ納得してねぇよ。劉備軍なんて、ヒック。踏み潰して仕舞えば良いんだい。ひっく」
 魏延「鶏欒、お前は酒に弱いのに酒に逃げるな馬鹿者!羊潜、弟の躾は姉の仕事であろうが」
 羊潜「えぇ、そうですわね。でも、今日ぐらい良いじゃありませんか。もう、私たちが姫様に会えるのはいつになるかわからないのですから」
 魏延「すまない」
 羊潜「良いのです。魏延の言葉は皆の心にも響きました。私たちは姫様に何も教えてあげられなかった。姫様のいうことに従い、姫様のために働くだけでした。それだけではダメだったのに。だから感謝しているのです。魏延、姫様のことを宜しくお願いします」
 魏延「あぁ、わかってるよ」
 この日、夜遅くまで宴を行い。翌日、魏延は李杏だけを連れて、襄陽城へと向かうのであった。
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