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4章 三国鼎立
劉備の激怒
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義賢が荊州南部にて大敗を喫した後、その義賢を涙ながらに民へと降格処分とした後のことである。蛮夷の最上位の槃瓠族がぬけぬけと使者としてやってきたのだ。弟の義賢に屈辱を舐めさせた奴らであり、避難してきた民から零陵や桂陽のあらましを聞いた劉備にとって、この場で叩き斬りたい気持ちが勝っていた。だが、堪える。使者としてやってきた者を斬れば、この後劉備の元に使者を送ろうと考える者はいなくなるからである。
狸老「通していただきまして感謝致しますぞ劉備殿。槃瓠族を代表して使者として参った狸老と申す。以後お見知り置きくだされ」
劉備「遠路はるばる、御苦労。して、我が軍と貴殿らは戦争中のはずである。何用であろう?」
狸老「こちらとしては、劉備殿との戦に関しては、長沙攻めの際、手打ちとしたところ。非があるのはそれを承知で攻めてきた貴殿らの方と考えているがどうであろう?」
劉備「攻め寄せた挙句、魏延を連れ去ったお前たちの一方的な言い分であろう。それを棚に上げてこちらが悪いと言い切るとは、随分、舐められたものだな。とっとと帰るが良い」
狸老「そうはいかぬ事情がこちらにもある。魏延と姫様の仲人を劉備殿にお願いしたい」
劉備「ふざけるのも大概にしろ!こちらは、お前たちへの怒りを押し殺しているのだ。優しくしているうちに帰るが良い」
狸老「国を治める人が感情に身を任せるなど愚の骨頂としか言えませんな」
劉備「貴様、もういっぺん言ってみろ」
荀彧「狸老殿でしたね。あまり殿を挑発しないで頂きたい」
諸葛亮「殿、落ち着いてください。後はこの孔明が引き継ぎましょう」
劉備「すまぬ。孔明・荀彧、迷惑をかける」
狸老「やっと話の通じる方が現れて、こちらとしてもありがたい」
諸葛亮「では、先ず。貴方方の申し出ですが正式にお断り致します」
狸老「なんだと?」
諸葛亮「ずっと山に籠っていただけあり、槃瓠族は犬畜生の集まりとお見受けしました。そのような低俗な輩のの提案を受けては、殿の人望を貶めることとなりましょう。それは我が軍において本意ではありません。よって、お断りさせていただきます。お帰りはあちらとなっております」
狸老「やれやれ、揃いも揃って劉備軍とやらは時勢を読めぬ輩の集まりのようじゃ。このまま、戦っては第二・第三の馬鹿を生み出すだけだと何故わからぬ?」
諸葛亮「ハッハッハッハ」
狸老「何がおかしいのじゃ?」
諸葛亮「失礼しました。そちらこそ、全く時勢が読めていないと思いましてね」
狸老「それはどういうことじゃ?」
荀彧「成程、確かに」
狸老「何を2人で納得しているのじゃ。話せ!」
諸葛亮「先ず、そちらは頼む側のはずです。お願いする側としては、あまりにも無礼です。次に、貴方方は撃退した気でいるようですが、それはもう既に我が術中ということです」
狸老「なんじゃと?」
諸葛亮「あの第一陣の役目は、1人でも帰ってくれば我が軍の勝ちだったのです」
狸老「どういうことじゃ?」
諸葛亮「流石、先生から翼虎と称された人です。あの侵攻は武陵山脈の正式な地図を得ることだったんです。そのための犠牲となった者たちの全てが、貴方方の配下を称する山賊どもや零陵蛮に酷い目に遭わされた者たちです。我が軍は民を大事にします。故に、詳細な地図を得た私達が本気でお相手するということです。外交を任される程のお方ならこれが何を意味するかお分かりでしょう?」
狸老「うぐっ。まさか。そのようなことが。喉元に刃を突きつけられている」
荀彧「さて、その上でどうされます狸老殿?」
狸老「降伏する。だが、これだけは訂正させてもらいたい。零陵蛮の行いや山賊どもの行いに対して姫様は承知していない。寧ろ知らないのじゃ。何も知らぬ。姫様は、山奥から出ようとはせんからな」
諸葛亮「そのようなことが罷り通ると思っているのですか?それとも、蛮夷の最上位に位置し、部下の管理もできていなかったから許してくださいと言いたいのですか?」
狸老「ぐっ。責めは我らが負う。だから姫様だけはどうか寛大な御処置をお願いしたい」
諸葛亮「良いでしょう。では、貴方方の要求は魏延と槃瓠族の姫、槃李杏の婚姻でしたね?」
狸老「あぁ、だが喉元に刃を突き付けられた我らにそれはもう願えぬことであろう」
諸葛亮「えぇ。ですが償うことはできます。槃李杏を外に出すというお考えはありませんか?」
狸老「姫を外に?そのようなことができているのならとうの昔にやっておる。人目に出る時は、虎の毛皮で作ったフードを深々と被り、我ら以外とは決して話をせん」
諸葛亮「それはおかしい。では、どのようにして零陵蛮や山賊どもを従えることができるのです?零陵蛮はともかく、山賊どもが槃李杏に仕える道理はないでしょう」
狸老「あの山賊どもは零陵蛮の王、慚戯の子飼いなのじゃ。慚戯と共に、我らが姫に婚姻を迫ってきたのじゃ」
荀彧「成程、それを返り討ちにしたと」
狸老「うむ。姫様の武力はとんでもない。最古参である鯨胡と猿鴎の2人がかりでも叩きのめせるほどにな。しかし、頭は成長できていない無邪気な子供のままなのじゃ。欲しいものは何としても手に入れたい。その執着が魏延なのじゃ」
諸葛亮「お話はだいたい、わかりました。では、魏延を返し、魏延の元に槃李杏を嫁がせるというのであれば、こちらとしても改めて、議論を交わせるでしょう。一度、この話を持ち帰り、相談されるのは如何ですか?」
狸老「心得申した。この度は、劉備殿に不遜な態度を取り誠に申し訳なかった。これにて、帰らせてもらおう」
諸葛亮「えぇ、良い返事をお待ちしております」
狸老が深々と頭を下げて、武陵山脈へと帰っていく。
劉備「孔明、お前は長沙を守り抜いていた魏延殿の嫁に蛮族を招き入れるつもりなのか?」
諸葛亮「えぇ。槃李杏にも償う機会が必要でしょう。配下のしでかした行いの重さを。民からの蔑みを一心に背負って。それに耐えられ無いというのなら(槃瓠族がこれから先も朝廷を助けた英雄と語られることはないでしょう)」
劉備「孔明には、何か考えがあるようだな。また、何れ丁が元気に立ち直った時にでも話を聞かせてもらうとしよう。今日は疲れた。寝かせてもらう」
荀彧「後のことはお任せください。臥竜殿と2人でやっておきます」
諸葛亮「えぇ、殿はゆっくりとおやすみください。色々とお疲れになったでしょうから」
劉備「すまぬ」
諸葛亮によって、槃瓠族の一方的な要求は跳ね除けられ、逆に喉元に刃を突き付けたのである。正確な地図というこの世界における最大の武器を。そう、義賢は、この戦いにおいて、実は最適解をとっていたのである。多くの死を無駄にしない最適解を。しかし、そのことを本人が知ることになるのはもっと後のことである。
狸老「通していただきまして感謝致しますぞ劉備殿。槃瓠族を代表して使者として参った狸老と申す。以後お見知り置きくだされ」
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狸老「こちらとしては、劉備殿との戦に関しては、長沙攻めの際、手打ちとしたところ。非があるのはそれを承知で攻めてきた貴殿らの方と考えているがどうであろう?」
劉備「攻め寄せた挙句、魏延を連れ去ったお前たちの一方的な言い分であろう。それを棚に上げてこちらが悪いと言い切るとは、随分、舐められたものだな。とっとと帰るが良い」
狸老「そうはいかぬ事情がこちらにもある。魏延と姫様の仲人を劉備殿にお願いしたい」
劉備「ふざけるのも大概にしろ!こちらは、お前たちへの怒りを押し殺しているのだ。優しくしているうちに帰るが良い」
狸老「国を治める人が感情に身を任せるなど愚の骨頂としか言えませんな」
劉備「貴様、もういっぺん言ってみろ」
荀彧「狸老殿でしたね。あまり殿を挑発しないで頂きたい」
諸葛亮「殿、落ち着いてください。後はこの孔明が引き継ぎましょう」
劉備「すまぬ。孔明・荀彧、迷惑をかける」
狸老「やっと話の通じる方が現れて、こちらとしてもありがたい」
諸葛亮「では、先ず。貴方方の申し出ですが正式にお断り致します」
狸老「なんだと?」
諸葛亮「ずっと山に籠っていただけあり、槃瓠族は犬畜生の集まりとお見受けしました。そのような低俗な輩のの提案を受けては、殿の人望を貶めることとなりましょう。それは我が軍において本意ではありません。よって、お断りさせていただきます。お帰りはあちらとなっております」
狸老「やれやれ、揃いも揃って劉備軍とやらは時勢を読めぬ輩の集まりのようじゃ。このまま、戦っては第二・第三の馬鹿を生み出すだけだと何故わからぬ?」
諸葛亮「ハッハッハッハ」
狸老「何がおかしいのじゃ?」
諸葛亮「失礼しました。そちらこそ、全く時勢が読めていないと思いましてね」
狸老「それはどういうことじゃ?」
荀彧「成程、確かに」
狸老「何を2人で納得しているのじゃ。話せ!」
諸葛亮「先ず、そちらは頼む側のはずです。お願いする側としては、あまりにも無礼です。次に、貴方方は撃退した気でいるようですが、それはもう既に我が術中ということです」
狸老「なんじゃと?」
諸葛亮「あの第一陣の役目は、1人でも帰ってくれば我が軍の勝ちだったのです」
狸老「どういうことじゃ?」
諸葛亮「流石、先生から翼虎と称された人です。あの侵攻は武陵山脈の正式な地図を得ることだったんです。そのための犠牲となった者たちの全てが、貴方方の配下を称する山賊どもや零陵蛮に酷い目に遭わされた者たちです。我が軍は民を大事にします。故に、詳細な地図を得た私達が本気でお相手するということです。外交を任される程のお方ならこれが何を意味するかお分かりでしょう?」
狸老「うぐっ。まさか。そのようなことが。喉元に刃を突きつけられている」
荀彧「さて、その上でどうされます狸老殿?」
狸老「降伏する。だが、これだけは訂正させてもらいたい。零陵蛮の行いや山賊どもの行いに対して姫様は承知していない。寧ろ知らないのじゃ。何も知らぬ。姫様は、山奥から出ようとはせんからな」
諸葛亮「そのようなことが罷り通ると思っているのですか?それとも、蛮夷の最上位に位置し、部下の管理もできていなかったから許してくださいと言いたいのですか?」
狸老「ぐっ。責めは我らが負う。だから姫様だけはどうか寛大な御処置をお願いしたい」
諸葛亮「良いでしょう。では、貴方方の要求は魏延と槃瓠族の姫、槃李杏の婚姻でしたね?」
狸老「あぁ、だが喉元に刃を突き付けられた我らにそれはもう願えぬことであろう」
諸葛亮「えぇ。ですが償うことはできます。槃李杏を外に出すというお考えはありませんか?」
狸老「姫を外に?そのようなことができているのならとうの昔にやっておる。人目に出る時は、虎の毛皮で作ったフードを深々と被り、我ら以外とは決して話をせん」
諸葛亮「それはおかしい。では、どのようにして零陵蛮や山賊どもを従えることができるのです?零陵蛮はともかく、山賊どもが槃李杏に仕える道理はないでしょう」
狸老「あの山賊どもは零陵蛮の王、慚戯の子飼いなのじゃ。慚戯と共に、我らが姫に婚姻を迫ってきたのじゃ」
荀彧「成程、それを返り討ちにしたと」
狸老「うむ。姫様の武力はとんでもない。最古参である鯨胡と猿鴎の2人がかりでも叩きのめせるほどにな。しかし、頭は成長できていない無邪気な子供のままなのじゃ。欲しいものは何としても手に入れたい。その執着が魏延なのじゃ」
諸葛亮「お話はだいたい、わかりました。では、魏延を返し、魏延の元に槃李杏を嫁がせるというのであれば、こちらとしても改めて、議論を交わせるでしょう。一度、この話を持ち帰り、相談されるのは如何ですか?」
狸老「心得申した。この度は、劉備殿に不遜な態度を取り誠に申し訳なかった。これにて、帰らせてもらおう」
諸葛亮「えぇ、良い返事をお待ちしております」
狸老が深々と頭を下げて、武陵山脈へと帰っていく。
劉備「孔明、お前は長沙を守り抜いていた魏延殿の嫁に蛮族を招き入れるつもりなのか?」
諸葛亮「えぇ。槃李杏にも償う機会が必要でしょう。配下のしでかした行いの重さを。民からの蔑みを一心に背負って。それに耐えられ無いというのなら(槃瓠族がこれから先も朝廷を助けた英雄と語られることはないでしょう)」
劉備「孔明には、何か考えがあるようだな。また、何れ丁が元気に立ち直った時にでも話を聞かせてもらうとしよう。今日は疲れた。寝かせてもらう」
荀彧「後のことはお任せください。臥竜殿と2人でやっておきます」
諸葛亮「えぇ、殿はゆっくりとおやすみください。色々とお疲れになったでしょうから」
劉備「すまぬ」
諸葛亮によって、槃瓠族の一方的な要求は跳ね除けられ、逆に喉元に刃を突き付けたのである。正確な地図というこの世界における最大の武器を。そう、義賢は、この戦いにおいて、実は最適解をとっていたのである。多くの死を無駄にしない最適解を。しかし、そのことを本人が知ることになるのはもっと後のことである。
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