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4章 三国鼎立
荀彧の策
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これは義賢が謹慎を言い渡される前の話で、張繍が宛城の奪還を願い出に来た翌日のこと。
荀攸「叔父上、何故、あのような。それに劉丁殿の奥方まで巻き込めば、曹操側に我らの関与を疑われかねませんぞ!」
荀彧「それで良いのですよ荀攸。それこそが狙いなのですから」
荀攸「どういう意味ですか叔父上?」
荀彧「当初、まさかここまで華北戦線が膠着するとは考えていませんでした。ですが蓋を開けてみたら袁紹が亡くなり仲違いしていた三兄弟の共闘、倉亭から奥に押し込めない曹操。この機に、我が殿の後顧の憂いを完全に断つ必要があったのです。益州の劉璋は配下が曹操派と我が殿の派閥に分かれていて、すぐに行動に移ることはない。涼州の馬騰も妻を亡くしてからは、まるで魂の抜けたように、行動が止まってしまい期待できない。漢中の張魯は、我が殿のこと何故かを高く評価していて、劉璋の目を惹きつけてくれている。今、最もこの状態で怖いのは誰か?」
荀攸「揚州を治める孫策か?しかし、叔父上は当初劉丁殿と共に益州の劉璋を降した後揚州の孫策を降す天下二分を提唱していたはず。何故、心変わりを?」
荀彧「いえ、荀攸。それは違います。私は今でも天下二分を提唱していますよ。ただ、その順を変更しただけです」
荀攸「でも、そうなら。それこそ張繍殿の提案は悪手なのでは?」
荀彧「いえ、奉孝を巻き込んだのですよ」
荀攸「郭嘉殿を?」
荀彧「華北の膠着をなんとしても打開したい奉孝のこと。我が軍には、監視を送り込んでいることでしょう。張繍殿と董白殿に思い至れば、我らを巻き込むための計略を弄するはず」
荀攸「!?。成程。叔父上にはやはり敵いませんな。郭嘉殿のことを知り尽くしているからこそ。それこそ叔父上にしかできない完璧な策ですな」
荀彧「やっと策の本質に思い至ったようですね」
荀彧の考えた通りに物事が進み。張繍と董白のことを知った郭嘉は劉備を対袁尚戦線に巻き込むために訪ねてきた。そこで、さらに一芝居打ったのだ。敢えて、我らしか知らない情報、仮面と頭巾の話をそれとなく話の流れで出すことで、我らの失態を郭嘉が付きやすいように、それらの計略がなった翌日のこと。関羽は荀彧に呼び出されていた。
関羽「失礼致す」
荀彧「関羽殿、よく来てくださいました」
関羽「先日の件、兄者からお聞きしましたぞ。軍師殿にしては珍しく失敗されましたな」
荀彧「ハハハ」
関羽「何故、笑うのだ?」
荀彧「いえ、これは失礼しました。殿のことも無事騙せていたことに安堵したのです」
関羽「兄者を騙した?軍師殿、何を言っておられる。事と次第によっては、兄者に御報告させていただく」
荀彧「我が軍にとって特になる策の成功は、関羽殿にかかっているのです」
関羽「さっきから意味が全くわからないのだが?」
荀彧「私はわざと失言をし、奉孝にそれを突かせたのです」
関羽「それの何処が兄者の得になるというのだ?」
荀彧「膠着している華北戦線に我が軍を動員させる事で、思いのままに制御するためですよ」
関羽「まさか、曹操と袁尚の戦を制御するためだったと?」
荀彧「えぇ、そのためには関羽殿に華北に向かってもらう必要があったのです。ですが、このことは殿に知られてはなりません。秘密を知るものが増えれば増えるほど策の成功確率が著しく低下しますから」
関羽「ふむぅ。それで軍師殿は某にどうせよと?」
荀彧「袁尚と曹操の戦いをできる限り引き延ばしていただきたい」
関羽「それは、某に手加減せよと申しているのですかな?」
荀彧「いえ、奉孝が手を焼くほどの相手、手加減など必要ないでしょう。ですが関羽殿たちが最前線に送られることは確か。そうなった時の手は既に打ってあります」
関羽「?」
荀彧「袁尚殿とは、既に秘密裏に話を進めていたのです」
関羽「!?。それこそ、某に茶番を演じよと言っているのではないか!」
荀彧「えぇ、これも殿のため。このようなことを頼まれるのは、殿の信頼が最も厚くかつ曹操や郭嘉を騙し通せる存在であることが必須。そのような事が可能なのは関羽殿を置いて他にいなかったのです」
関羽「翼徳でも良かろう!」
荀彧「猪突猛進の張飛殿では、策を完全に理解できるとは思えません。この策を成功させるには関羽殿しか居なかったのです」
関羽「むむむむ。約束はできんが善処しよう」
荀彧「今は、それで構いません」
関羽「話がそれだけなら某は帰らせてもらおう」
荀彧「えぇ」
関羽が立ち去り、荀彧は思案していた。
荀彧「関羽殿に手加減して欲しいは禁句でした。しかし、殿の信頼が厚くて、曹操や奉公を騙せる相手など関羽殿を置いて他にいなかったのも事実。ですが関羽殿には納得していただけなかった。最悪のことも考えておく必要がありますね」
???「関羽殿のことは俺に任せてくれないか?」
荀彧「徐庶殿!」
徐庶「劉備殿は今頃、孔明を迎え入れに向かっている途中だろう。俺がここに居れば、説得ができないかもしれない。孔明は、そういうのを嫌うから。なら、俺が関羽殿に付いて、できるだけ袁尚と曹操が膠着するようにやってみるよ」
荀彧「それは、有難い申し出です。徐庶殿、宜しくお願いします」
徐庶「劉備殿のため。誠心誠意、時間を稼がせてもらいますよ」
徐庶の思わぬ申し出により、荀彧の策の成功への可能性が高まるのだった。
荀攸「叔父上、何故、あのような。それに劉丁殿の奥方まで巻き込めば、曹操側に我らの関与を疑われかねませんぞ!」
荀彧「それで良いのですよ荀攸。それこそが狙いなのですから」
荀攸「どういう意味ですか叔父上?」
荀彧「当初、まさかここまで華北戦線が膠着するとは考えていませんでした。ですが蓋を開けてみたら袁紹が亡くなり仲違いしていた三兄弟の共闘、倉亭から奥に押し込めない曹操。この機に、我が殿の後顧の憂いを完全に断つ必要があったのです。益州の劉璋は配下が曹操派と我が殿の派閥に分かれていて、すぐに行動に移ることはない。涼州の馬騰も妻を亡くしてからは、まるで魂の抜けたように、行動が止まってしまい期待できない。漢中の張魯は、我が殿のこと何故かを高く評価していて、劉璋の目を惹きつけてくれている。今、最もこの状態で怖いのは誰か?」
荀攸「揚州を治める孫策か?しかし、叔父上は当初劉丁殿と共に益州の劉璋を降した後揚州の孫策を降す天下二分を提唱していたはず。何故、心変わりを?」
荀彧「いえ、荀攸。それは違います。私は今でも天下二分を提唱していますよ。ただ、その順を変更しただけです」
荀攸「でも、そうなら。それこそ張繍殿の提案は悪手なのでは?」
荀彧「いえ、奉孝を巻き込んだのですよ」
荀攸「郭嘉殿を?」
荀彧「華北の膠着をなんとしても打開したい奉孝のこと。我が軍には、監視を送り込んでいることでしょう。張繍殿と董白殿に思い至れば、我らを巻き込むための計略を弄するはず」
荀攸「!?。成程。叔父上にはやはり敵いませんな。郭嘉殿のことを知り尽くしているからこそ。それこそ叔父上にしかできない完璧な策ですな」
荀彧「やっと策の本質に思い至ったようですね」
荀彧の考えた通りに物事が進み。張繍と董白のことを知った郭嘉は劉備を対袁尚戦線に巻き込むために訪ねてきた。そこで、さらに一芝居打ったのだ。敢えて、我らしか知らない情報、仮面と頭巾の話をそれとなく話の流れで出すことで、我らの失態を郭嘉が付きやすいように、それらの計略がなった翌日のこと。関羽は荀彧に呼び出されていた。
関羽「失礼致す」
荀彧「関羽殿、よく来てくださいました」
関羽「先日の件、兄者からお聞きしましたぞ。軍師殿にしては珍しく失敗されましたな」
荀彧「ハハハ」
関羽「何故、笑うのだ?」
荀彧「いえ、これは失礼しました。殿のことも無事騙せていたことに安堵したのです」
関羽「兄者を騙した?軍師殿、何を言っておられる。事と次第によっては、兄者に御報告させていただく」
荀彧「我が軍にとって特になる策の成功は、関羽殿にかかっているのです」
関羽「さっきから意味が全くわからないのだが?」
荀彧「私はわざと失言をし、奉孝にそれを突かせたのです」
関羽「それの何処が兄者の得になるというのだ?」
荀彧「膠着している華北戦線に我が軍を動員させる事で、思いのままに制御するためですよ」
関羽「まさか、曹操と袁尚の戦を制御するためだったと?」
荀彧「えぇ、そのためには関羽殿に華北に向かってもらう必要があったのです。ですが、このことは殿に知られてはなりません。秘密を知るものが増えれば増えるほど策の成功確率が著しく低下しますから」
関羽「ふむぅ。それで軍師殿は某にどうせよと?」
荀彧「袁尚と曹操の戦いをできる限り引き延ばしていただきたい」
関羽「それは、某に手加減せよと申しているのですかな?」
荀彧「いえ、奉孝が手を焼くほどの相手、手加減など必要ないでしょう。ですが関羽殿たちが最前線に送られることは確か。そうなった時の手は既に打ってあります」
関羽「?」
荀彧「袁尚殿とは、既に秘密裏に話を進めていたのです」
関羽「!?。それこそ、某に茶番を演じよと言っているのではないか!」
荀彧「えぇ、これも殿のため。このようなことを頼まれるのは、殿の信頼が最も厚くかつ曹操や郭嘉を騙し通せる存在であることが必須。そのような事が可能なのは関羽殿を置いて他にいなかったのです」
関羽「翼徳でも良かろう!」
荀彧「猪突猛進の張飛殿では、策を完全に理解できるとは思えません。この策を成功させるには関羽殿しか居なかったのです」
関羽「むむむむ。約束はできんが善処しよう」
荀彧「今は、それで構いません」
関羽「話がそれだけなら某は帰らせてもらおう」
荀彧「えぇ」
関羽が立ち去り、荀彧は思案していた。
荀彧「関羽殿に手加減して欲しいは禁句でした。しかし、殿の信頼が厚くて、曹操や奉公を騙せる相手など関羽殿を置いて他にいなかったのも事実。ですが関羽殿には納得していただけなかった。最悪のことも考えておく必要がありますね」
???「関羽殿のことは俺に任せてくれないか?」
荀彧「徐庶殿!」
徐庶「劉備殿は今頃、孔明を迎え入れに向かっている途中だろう。俺がここに居れば、説得ができないかもしれない。孔明は、そういうのを嫌うから。なら、俺が関羽殿に付いて、できるだけ袁尚と曹操が膠着するようにやってみるよ」
荀彧「それは、有難い申し出です。徐庶殿、宜しくお願いします」
徐庶「劉備殿のため。誠心誠意、時間を稼がせてもらいますよ」
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