上 下
245 / 532
4章 三国鼎立

官渡前哨戦 烏巣の戦い(急)

しおりを挟む
 曹純は朝を待ち、商人の扮装をした兵たちを数人、烏巣に送り込む。
 曹純「恐らく帰ってこられない死地へとお前たちを送り出すことを許してくれ」
 虎豹騎隊「何をおっしゃいます。我らにも精鋭騎馬隊としての誇りがあります。必ずこの任務、果たして見せます」
 曹純「お前たちの働きは俺がずっと覚えておこう」
 虎豹騎隊「その言葉だけで十分です」
 数人の虎豹騎隊が商人の格好をして、馬で荷車を引き、烏巣に向かう。
 虎豹騎隊「近くで商いをしているものなのですが物資にお困りではないですかな」
 淳于瓊「これはこれは、これぞ天の助け。どうぞ中へと」
 虎豹騎隊「では失礼致します(うむ、あの大きな藁束が恐らく兵糧だろうな。機を見て焼くとしよう)」
 淳于瓊「どうかされましたか?」
 虎豹騎隊「いえ、なんでもありませんよ」
 淳于瓊「あぁ、あの藁俵ですか。ここは、兵糧だけは山のようにありまして、金銭ではなく兵糧でやり取りしますか?」
 虎豹騎隊「いえいえ、お金で構いませんよ(俺としたことがキョロキョロとしてこれではまるで不審者扱いされてもおかしくはない。機を引き締めねば)」
 事前に仕入れていた情報をもとに不足していた物資を渡しお金を受け取り、帰り際に藁俵に松明を投げ入れることに成功した。
 虎豹騎隊「良い取引ができました。これにて」
 淳于瓊「こちらもです」
 伝令「淳于瓊様、藁俵が兵糧が燃えております」
 淳于瓊「なっなんだと!?あれだけ藁俵の周りで火を使うなと言ったであろう。誰だ!かつ
 伝令「それが、芋を焼いていたらしくて」
 淳于瓊「馬鹿者!すぐに火を消すのだ」
 伝令「火の勢いが凄まじく、最早、諦めるしかないかと」
 淳于瓊「この責任は、後でしっかりと追求するぞ」
 伝令「はい」
 曹純の元に誰1人かけることなく帰ってきた虎豹騎隊に驚きつつもその報告を聞き喜ぶ。
 曹純「よくやった。これで、再起は最早叶わないであろう。我らもこのことを報告しに帰るぞ」
 虎豹騎隊「我らも役目を果たすことができて安堵しております」
 曹休「慌てふためいている袁紹軍の残党が目に浮かびますね」
 役目を果たしたと笑いながら烏巣を後にする面々。その頃、烏巣内部では。
 淳于瓊「まさか、こんなに上手くいくとは、さらに物資まで得られるとは」
 郝昭「相手は完全に撤退しましたね。今こそ、烏巣を放棄し、我らもこの兵糧とさらに手に入れた物資を持って、倉亭へと向かいましょ」
 淳于瓊「安全に撤退まで」
 郝昭「その前にここを完全な平城に戻しておいてと火を放つのを忘れずに」
 全ての物資を運び出し、烏巣を燃やす。それを遠くから見る曹純。
 曹純「よーく燃えてるな。良し、完璧だったってことだ。これでもう完全に殿の勝利は揺るぎない」
 曹休「俺も叔父上のお役に立てて喜ばしい限りです」
 虎豹騎隊「(何かがおかしい?松明だけであんなに色んなところに燃え移るだろうか?いや、疑うのは良くないな。成功を喜ぶとしよう)」
 この虎豹騎隊の申すことはもっともなのだが。そんなこととは露知らず。曹操の待つ白馬へと引き返すのだった。
 同じく遠くからこの火を見ていた袁譚たち。
 袁譚「クソったれ。俺の馬鹿野郎、間に合わなかったってのか」
 文良「そう自分を攻めるな袁譚」
 顔醜「まだ負けたわけじゃねぇ。生き残ってる奴らもいるかも」
 朱霊「あの火では絶望的に思えるが」
 蒋義渠「しかし、簡単に諦めるわけには行かない。生きている人間がいるのなら助けてやらねば」
 そこに荷駄を押す淳于瓊たちが現れる。
 袁譚「淳于瓊、無事だったか?」
 淳于瓊「袁譚様?ということは、貴方が新たな党首に?」
 袁譚「違う、俺たち兄弟は和解した。俺が袁家の武を担い、煕が袁家の智を担い。尚が袁家の顔となる」
 郝昭「それはとてもいいですね。そんな袁家になら僕の友人を推挙したいと思いますね。それは帰ってから後ほど」
 袁譚「馴れ馴れしいガキだな!まぁ。んなことで怒らねぇけどよ。規律を遵守する淳于瓊が何も言わねぇってことは優秀ってことだろ?帰ってからその辺りも詳しく聞くとするか。兎にも角にもお前たちが無事で良かったぜ」
 淳于瓊「袁譚様、申し訳ない」
 呂威璜「袁家の新しい形か。歪みあっていた三兄弟が仲良くなったのだ。俺も過去のことは水に流そう」
 眭元進「この姿を見たら袁紹様もさぞ驚かれるでしょうな」
 韓莒子「全くだ」
 趙叡「これぞ理想の形といえましょうぞ」
 文良「これでまだ建て直せる。皆兵糧を共に運ぶぞ」
 顔醜「おぅよ。こっちにも乗せろ。お前らもしっかり付いてこいよ」
 朱霊「袁家の新しい形か。曹操殿に仕えるのも悪くないと思ったが。中々、袁尚様も居心地は悪くない」
 蒋義渠「袁紹様が死んだと聞いた時には、これで終わりかと思ったがここからが新たな始まりだ。必ず曹操軍を押し返さねばならないな」
 皆で協力して、物資の全てを倉亭へと持ち帰るのだった。
 袁尚「袁譚兄さん、無事で良かった」
 袁譚「おい。抱きつくんじゃねぇ尚」
 袁煕「兵糧だけでなく物資まで得られるとは、朗報だ」
 甄姫「旦那様、先程まで兄上は御無事であろうかとウロウロと落ち着かなかったのは誰かしら」
 袁煕「ばっ馬鹿!何言ってるんだ甄」
 袁譚「そうなのか煕?ほら、お前も飛びついてきても構わないぞ」
 袁煕「そんなことせん」
 袁尚「これで、この倉亭を新たな拠点として、曹操軍を迎え撃つことができるんだね袁煕兄さん」
 袁煕「いや、まだ不十分だ」
 郝昭「そうだね。ここで迎え撃つにはあまりにも脆弱かな。でもだからこそ手の入れようはありそうだけどね」
 袁煕「この子供は?」
 郝昭「子供子供って、みんなして馬鹿にすんなよ。これでも16歳だ」
 袁煕「そうか。すまなかったな」
 これが202年の出来事であった。袁紹の死、袁家三兄弟の和解。兵糧拠点烏巣の消失。そして、舞台は再び劉備軍へと戻る。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

6年生になっても

ryo
大衆娯楽
おもらしが治らない女の子が集団生活に苦戦するお話です。

タイムワープ艦隊2024

山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。 この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!

処理中です...