えっ俺が憧れの劉備玄徳の実の弟！兄上に天下を取らせるため尽力します。

4章 三国鼎立

劉備軍の侵攻を聞いた劉表

　ここは于吉が死んだ直後の襄陽城。
　劉表「うっワシは一体何を？何も思い出せん」
　王儁「劉備軍が襄陽城へと迫っております。劉表様、早く迎撃の準備を」
　劉表「何故、劉備殿が荊州に侵攻している！江夏に章陵に南陽はどうした？」
　王儁「！？(于吉の奴めしくじったな。何が曹操様の力になりましょうだ。この通り解けてまともに戻ってはなんの意味もないではないか。このままではまずいな。劉備に荊州は取られよう。だが人材まで多く流す訳にはいかん。特に水軍を指揮できる蔡瑁に張允・文聘は曹操様に従わないのであれば暗殺するしかない。それかいっそのこと劉琮を劉備軍の仕業に見せかけて殺すか。そうすれば蔡瑁とて劉備を殺そうとするはず)」
　劉表「王儁よ。何を黙っている。どうなったのじゃ？蒯越に蒯良はどこじゃ？」
　王儁「恐れながら、三郡とも劉備軍に寝返りました。それどころか蒯越に蒯良・霍篤に霍峻・呉居に頼恭と寝返るものが続出しております」
　劉表「蒯越と蒯良が寝返った？どうなっている？何がどうなっている？ワシの知らないところで一体何が？」
　王儁「劉表様、覚えていらっしゃらないのですか？劉備を攻めたことを」
　劉表「ワシが劉備殿を攻めた？どういうことじゃ」
　王儁「蘆江と寿春を簒奪した劉備に鉄槌を下すのじゃと攻撃したではありませんか！よもや覚えていないと言って、今までの兵の忠節を裏切るつもりではありますまいな」
　劉表「馬鹿な！？ワシは知らん。ワシが劉備殿を攻めたなど。そんなこと知らん」
　王儁「皆々様、聞きましたか！このような軽薄な男を荊州の統治者として置いておいて良いのですか？こんなことなら曹操殿に荊州を譲り渡すべきだったのです」
　？？？「うむ。確かに王儁殿の言に一理あろう」
　王儁「わかってくださいましたか王粲オウサン殿」
　？？？「なりませぬ。残忍な性格の曹操に荊州を渡すなど劉表様だけでなく劉琮様・劉琦様は殺されるだろう」
　王儁「何をいう王威オウイ。貴様は、簒奪者に荊州を譲り渡すというのか！」
　？？？「やれやれ。劉備殿を簒奪者と申すのは、ちと違うのではありませんかな」
　王儁「向朗ショウロウ、何を言う！三郡を奪い襄陽に迫っていることが何よりの証拠ではないか！」
　向朗「やれやれ、それも元はと言えば、先にこちらが攻めたのが発端。劉備殿をまるで悪者にするような言い方は良しとはできませんな。寧ろ、徐州にて大虐殺を行った曹操殿を信じることの方がおかしいと思いますがな」
　王儁「曹操殿は父を陶謙に殺されたのだ。その怒りを向けることに何の問題があると言うのか！」
　伊籍「何の罪もない民に向けたことに我々はおかしいと言っている」
　王儁「何の罪もない？それこそおかしい、曹操殿の父が殺されるところを見殺しにした連中だ。それだけで、万死に値する。曹操殿は恩には報いる方。荊州を差し出せば、劉表様・劉琮様・劉琦様は、太守として迎え入れられよう。曹操殿に手紙を書き、急ぎ降伏するべきだ」
　劉表「どちらの言い分もわかった。ワシは今頭がすごくいたい。少し考える時間をくれぬか」
　王儁「そのような時間は最早残されていないと申している(クソッ思いの外、親劉備派が多いな)」
　伊籍「いや、殿にも考える時間が必要でしょう」
　劉表「すまぬ」
　屋敷へと戻る王儁の元に蔡勲が訪ねてくる。
　王儁「クソ、クソ、クソ。どいつもこいつも劉備、劉備と。あの田舎者がここまで力を付けようとは、それもこれも荀彧や田豊らが加わってからだ」
　蔡勲「失礼する。王儁殿、我らは曹操殿にこの荊州を譲り渡したいと考えている。劉表を暗殺し劉琦を排除すればこの地は劉琮様のもの。その後ろ盾を曹操殿に頼みたい」
　王儁「最早、そのことに何の意味もない。いや待て(こんな奴らでも使いようではある。蔡瑁と張允だけでも切り崩せられれば、荊州水軍の一端を潰せるか)良いだろう。では条件がある」
　蔡勲「条件とは？」
　王儁「蔡瑁と張允の説得だ。それが成功した暁には、貴殿らを曹操殿に引き合わせると約束しよう」
　蔡勲「そのようなこと造作もない」
　蔡勲がそう言って、屋敷を出ていく。
　王儁「最早、この地でやれることはない。曹操殿の方に傾いていた者たちを率いて、宛へと向かうとしよう」
　早朝、王儁は王粲・鄧展トウテン・鄧義・鄧済・龐季・杜虁・棊毋闓を連れ、曹操軍に亡命を考えていた兵数万を連れ、宛へと向かった。このことは劉表にも知れることとなり、一夜にして兵の大半が曹操軍に亡命したことになる。残された者たちの多くは親劉備派、劉表に劉備への降伏を進言するばかりであった。頭を抱える劉表の元に蔡瑁が訪れる。
　劉表「一体、何故荊州がこんなことに？ワシが劉備殿を攻めた？何故、そんなことを？わからぬ。ここ最近のことが全く思い出せぬ。まるで誰かに操られていたかのようじゃ」
　蔡瑁「義兄上！」
　劉表「蔡瑁ではないか。新野が落ちたと聞きその身を案じておった」
　蔡瑁「昔の義兄上だ。良かった。義兄上、この事態を変えるため義兄上に是非とも会ってもらいたい者がおります」
　劉表「会ってもらいたい人物？この事態を変えることができる？わかった会おう」
　蔡瑁「入ってくるが良い」
　手には、羽扇を持ち・頭には輪巾を被り・その身を白と青を基調とした鶴氅に身を包んだ男が立っていたのだった。