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3章 群雄割拠

間話休題⑨ 于吉という男

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 呉郡に怪しき道術を扱う男がいた。名を于吉という。怪しき道術により、病が治ったと錯覚させたり、民衆を狂信者に仕立て上げたりとやりたい放題する男。そんな男の次なる野望は、南華仙人の持つどんな病でも治せる太平清領書を狙うというものであった。彼は、医術を志す若者を熱演し、南華仙人の弟子となることに成功する。
 于吉「なっジジイの元で学ばせてくれよ。病で苦しむ人々を救いたいんだよ。なっ頼むよ」
 南華仙人「わかったからそう服の裾を掴むでない」
 于吉「わかったって言ったよな」
 南華仙人「それは言いたいことはわかったって意味じゃ」
 于吉「わかったって言ったよな」
 南華仙人「うむ。そうじゃったな。ヨシ、ワシの弟子にしてやろう」
 于吉「やったぜ(ちょろいぜ~。暗示にかかるとはねぇ。言葉は縛る鎖と同じってな。この調子でちょちょいと太平清領書とやらを奪うとしますかね)」
 この于吉の完璧な策略を狂わした男がいた。名を張角という。南華仙人が広宗に太平清領書を取りに行った帰り道に出会った青年である。その張角に怪しいと思われた于吉は常に張角の目にさらされることとなった。
 于吉「(この男、油断ならない男だ。これはしたくなかったのだがやむおえん。ジジイが広宗に太平清領書を取りに行ったことは知ってる。それを懐に隠していることもな。ったく、ジジイ、悪く思うなよお前がこの男を拾ってこなければ死ぬことはなかったんだからな)」
 于吉は南華仙人に強力な呪いをかけ、死に至らしめると太平清領書を拝借し、張角に軽い呪いをかける。軽いと言っても呪いだ。いずれは死ぬことになる。
 于吉「(ククク。張角よ。一方的に殺してはつまらぬ。俺の掌の上で踊る駒になってもらうぞ。ヒャーッヒャヒャヒャヒャヒャ)」
 于吉は、張角の黄色の頭巾に目を付け、各地の賊にこう吹き込んだのだ。
 于吉「好き勝手に略奪した責任を1人の男に被せることができるって言ったらどうする?」
 黒山賊「そんなことが可能なのか?」
 于吉「あぁ。ワシのいう通りにするのならな」
 黒山賊「やるぜ」
 于吉「こういうことだ」
 黒山賊「頭に黄色の頭巾を巻くだけで良いのか。簡単じゃねぇか」
 于吉「(暗示にかけるまでもない馬鹿な奴らで助かるねぇ。さてさて、次は朝廷に行って、この大規模な反乱の首謀者が張角だと吹き込んでやるだけだ。楽しいねぇ扇動するのは楽しいねぇ。ヒャッヒャッヒャッヒャ)」
 各地の賊どもが黄色の頭巾を巻いて、朝廷も放置することができなくなった頃、大将軍を務める何進に于吉が吹き込む。
 何進「お前は誰だ?あっ于吉道士に失礼な態度を申し訳ありませぬ」
 于吉「(会ったことなどないがな。実に楽だ。暗示にかけて、ワシが高名な道士で、漢王室とも関わりがあることにしてやれば、この通り。ヒョヒョヒョ)この反乱の首謀者ヲ突き止めましたので御報告に」
 何進「何と!?流石は于吉道士。聞かせてもらえますかな」
 于吉「広宗にいる張角という者です。自らを大賢老師などと言い民衆の支持を集め、暴れ回っているのです」
 何進「すぐに討伐軍を派遣しよう」
 于吉「これで民草も心が休まりましょう(さて、張角よ。どうするかの。せいぜい楽しませてくれたまえ。ヒャッヒャッヒャッヒャ)」
 何進による大規模な交換討伐軍と黄巾党による衝突。それは、各地にいる群雄の牙を目覚めさせることになる。そして呉郡にて、討伐軍により張角・張宝・張梁が死んだと耳にする于吉。
 于吉「カーッカッカッカッ、愉快愉快実に愉快。我が扇動で、踊り狂う様は楽しいな。張角よ。呪いではなく首を打たれるとは、愉快愉快実に愉快よ」
 目の前に現れる懐かしい男の姿に驚く于吉。
 張角「久しいな兄弟子よ。ゴホゴホ。冥土から舞い戻り師の仇を討ちに参ったぞ。ゴホゴホ」
 于吉「!?貴様は張角、死んだのでは無かったのか!」
 張宝「コイツが兄上に呪いを」
 張梁「覚悟してくれや」
 于吉「ヒャヒャヒャヒャヒャ、ここが何処だかわかってるのかな。我がお膝元の呉城だぞ」
 民衆「于吉様に手を出させない」
 張角「宝・梁、操られている民じゃ殺すでないぞ。ゴホゴホ」
 張宝「兄上、そんなこと言ってもこの数では」
 張梁「姉貴、やるしかねぇ。片っ端から気絶させんだ。兄貴が于吉を討つまでの間だ」
 于吉「そう上手く行くかのぅ。我が闇の波動を喰らって死ぬが良い張角」
 張角「最早ここまでか。ゴホゴホ」
 張角の前に立ち塞がり、闇の波動を受ける張宝。
 張宝「させない。絶対に兄上を殺させない」
 張角「宝、退くのじゃ。お前まで呪われてしまう」
 張宝「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 于吉「師を殺した強力な呪いじゃ。持って、数分じゃ」
 張角「宝、宝、そんな嘘じゃ。宝ーーーーーーーー」
 突然斬られる于吉。
 于吉「グハッ。貴様ら何処から」
 波才「よくも張宝様を許さぬ」
 張曼成「置いてくなんて酷いぜ張梁」
 馬元義「張角様の呪いを解きたいのは、我らも同じ」
 于吉「グワァーーーー力が力が抜けてゆく。我が呪術がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 張梁「全く、お前ら。よくやった。最後は俺に任せとけ。トドメだ于吉」
 于吉「あの女は絶対に道連れにしてくれるわ」
 張梁「姉貴が呪いなんかに負けるかよ。お前に殺せるかよ。年貢の納め時だぜ于吉」
 于吉「グワァーーーーーーーー。このようなところで道半ばで果てることになろうとは」
 于吉の死により、民衆も目覚めて、武器を落とす。張角にかけられていた呪いも解けた。だが張宝は目を覚さない。
 張角「そんな宝。嘘であろう。目を覚ますのじゃ」
 張宝「(ここは何処。真っ暗な暗闇。そう、私死んだのね)」
 波才が張宝に駆け寄る。
 波才「張宝様、死んではなりません。大好きなんです。俺を俺を1人にしないでください」
 波才はそう言って、張宝に口付けする。
 張宝「(急に光が、それにあれは波才の声?どうして泣いてるの?そっちに行けば良いの?)」
 目を覚ます張宝は、自分の唇を塞ぐ波才に驚く。
 張宝「この馬鹿!何すんのよ!私の初めてをよくも!」
 張宝による強烈な平手打ちが波才に当たり、吹き飛ばされる。
 波才「ふぐっ」
 張角「奇跡じゃ。確かに心臓の鼓動は止まっておった。宝、戻ってきてくれてワシはワシは」
 張宝「兄上、若返ったのにワシ呼びは可笑しいのではクスクス」
 張梁「なっ言っただろ姉貴が呪いなんかに負けるわけないって」
 張曼成「全くよく言うぜ。さっきまで逝かないで姉貴ーとか泣いてた人が」
 張梁「ウルセェ」
 馬元義「まぁまぁ、波才の愛が呪いよりも勝ったということでしょう。その波才はあそこで幸せそうな表情で伸びてますが」
 波才「ヘヘッ張宝様」
 張宝「(驚いて、恥ずかしくて思わず殴っちゃったけど。ちゃんと聞いたよ波才。私も大好きだよ。でもそれは、貴方がきちんと起きてから言うね。でもこれだけは言わせて、本当にありがとう波才)」
 仕留めたと思った于吉の身体が忽然と姿を消していたことに誰も気付いて居なかった。
 于吉「(ワシの呪力の全てが流れ出てしまった。太平清領書も奪われた。張角め。この借りはいずれ返してやる。今は少し休ませてもらうとしよう)」
 于吉とは、強力な呪力を持ち、間一髪致命傷から逸らしていた。だが斬られたことにより、溜め込んだ呪力は全て抜け出て、傷を癒すために残りの呪力も使うこととなり、呉郡にて潜伏するのがやっとであった。呉郡にて小覇王と一波乱あるのはこの後のことである。
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