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3章 群雄割拠

袁煕・袁尚の初陣

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 袁紹の妻である劉彩醜リュウサイシュウとの間に産まれた息子である袁譚・袁煕・袁尚。袁紹と劉彩醜は、粗暴な性格の嫡男袁譚や流されやすい袁煕ではなくおとなしいながらも何かを秘めていると感じる末っ子袁尚を溺愛していた。それゆえ、顔良・文醜を失いながらも誰でも落とせる易京攻めをどうでも良い嫡男袁譚に任せ、袁煕と袁尚には、ただの反乱の鎮圧に過剰な兵力と武に優れる朱霊・蒋義渠・淳于瓊や軍師として審配・逢紀を付け、手柄を取らせようと画策する始末であった。こうして急遽決まった袁煕・袁尚の初陣である。冀州で反乱を扇動していた将は、孫伉・李邵であった。彼らは、袁紹より冀州の一部を預けられていた李雍を担ぎ袁紹に大規模な反乱を起こしたのである。
 孫伉「冀州を袁紹が治めるようになって、どうです?こんなにも荒んでしまった戦に明け暮れ土地や民を慈しまないそんな領主に何の意味がありましょうか」
 李邵「それに引き換え、公孫瓚の時はどうだ?国も民も慈しんでくださった。それにかの仁君と名高い劉備を配下にしていたのだ。今こそ、その時の恩に報いるべきではなかろうか?」
 老人「確かにそうじゃ。このままでは、袁紹にこの地を刈り取られよう」
 男「袁紹に死を」
 女「公孫瓚様に祝福を」
 李雍「ええぃ。静かにせんか。またお前たちか?この地を治めているのは、我が主君である袁紹様だ。それ以上、公孫瓚の名前を出すと全員打首にするぞ」
 孫伉「李雍殿、どうして、あんな野蛮な男に手を貸すのです?」
 李邵「名門である李家の名が泣くぞ」
 李雍「煩い。このご時世家柄だけで生きてなどいけぬのだ」
 孫伉「その家柄を盾にのしあがったのは、誰かお忘れか?」
 李邵「袁紹だぞ。何の力もないくせに代々三公を排出した家だからと威張り散らしているのだ」
 李雍「袁紹様をそれ以上悪くいうと本当に打首にするぞ」
 孫伉「何故、打首にすると言いながらしないのか当ててやろう。お前自身迷っているからだ」
 李雍「!?」
 李邵「それに袁紹は分家の出だ。代々三公を輩出した袁家の嫡流ではなかろう。そもそもそれで威張るのが筋違いと言うものじゃ」
 李雍「確かにそうだが、しかし」
 孫伉「何を迷う必要があるのだ。我らが動けば公孫瓚も動き公孫度も動き、瓦解した黒山賊も動くはずだ」
 李邵「共に冀州を昔の安定した肥沃な土地にしようではないか」
 李雍「そこまで言うのなら協力しよう」
 孫伉「おお、決心してくださったか」
 李邵「これで、袁紹と渡り合えよう」
 こうして冀州で大規模な反袁紹を掲げた反乱が起こったのだ。これの鎮圧を命じられた袁煕・袁尚は、すぐに攻撃できずにいた。
 袁煕「尚、どうしたものであろう?」
 袁尚「袁煕兄さん、家族を人質に取られた朱霊のことだね」
 袁煕「あぁ、何とか交渉を試みてみたのだが冀州の独立を父上に認めさせろってことだ。あの父上がそんな暴挙を許すはずがない」
 袁尚「かといって、朱霊の家族を見殺しにもできないって感じだね」
 袁煕「あぁ、父のように国や民を顧みぬからこのような事態を引き起こしたのだ。あの李雍が裏切ったのだぞ」
 袁尚「名門李家。趙国の守将の達人こと李牧リボクを祖先とする人たちの家だったね」
 袁煕「あぁ、李雍には、その才覚はなかろう。しかし、眠っていただけかも知れん。そもそも、人質のいる中で、どれだけの兵がまともに戦えよう。大軍の兵を付与したのは、仇となっているとしか思えん」
 袁尚「袁煕兄さん、ごめんね。父上が僕を溺愛して、袁譚兄さんよりも手柄を上げさせたいと思ったばかりに」
 袁煕「気にするな尚。弟を守るのは兄の役目だ。お前も辛かろう、袁譚兄上に目の敵にされて」
 袁尚「そんなことないよ。家を継ぐのは嫡男である袁譚兄さんだよ。父上や母上がおかしいんだよ」
 袁煕「その冷静な分析力を父上は買っているのかも知れんな。俺はこの通り流されてるだけ。袁譚兄上は、粗暴ですぐに暴力に出る猪突猛進型だ」
 袁尚「3人で継げれば良いのに。袁譚兄さんの武、袁煕兄さんの智、魅力の僕」
 袁煕「ハハハ、お前は本当に優しいな。しかし、そんなこと袁譚兄上は、許さないであろう。父や母の愛情を受けれず育ったが故にあのように捻くれた不器用な兄上ができたのだ」
 袁尚「何とか僕たちの馬鹿げた争いを止めて、纏まらないと父上が亡くなった後、曹操に河北は喰われることになるということを袁譚兄上に理解してもらわないと。この先の僕たちに未来は無いのに」
 袁煕「あぁ、しかし父は着々と曹操との合戦のために準備をしている。自身は公孫度の討伐に赴き、袁譚兄上に易京攻めを引き継ぎ、俺たちに反乱の鎮圧を命じた。河北の総仕上げと言えよう」
 袁尚「烏桓賊に対しても、先の戦での約束反故を理由に攻めるって言ってたもんね」
 袁煕「あぁ、そもそも劉備の出身地である村に居を構え、それらの輸送にも手を貸していた事から怪しむべきだったのだ劉備との繋がりをな。さらに父の両雄まで劉備の義弟関羽に討ち取られたという。それも逢紀の報告では、相手と一合も打ちあえぬままな」
 袁尚「そんな、顔良おじさんと文醜おじさんが!?」
 袁煕「あぁ、俺たちを実の息子のように可愛がってくれた顔良おじさんと文醜おじさんがだ。特に袁譚兄上の怒りは、凄まじく反劉備連合に引き入れた曹操に対して並々ならぬ憎悪を向けていた」
 袁尚「曹操の被害が微々たるものだったから?」
 袁煕「あぁ、東海と瑯琊を失地したそうだが代わりに小沛と北海を講和で手に入れている。まさしく劉備との間に裏取引があったとみて良いだろう」
 袁尚「そうだね。だとしたらとっとと河北を平定して、曹操に一矢報いないとね」
 袁煕「あぁ」
 2人の陣幕に尋ねてくる男。
 ???「失礼する。我が家族のことで進軍を躊躇っていると聞き、参った。男が一度身を差し出した以上、家族のことを顧みる必要があろうか。すぐに攻撃して、冀州を取り戻すべき事だ」
 袁煕「朱霊よ。確かにそうだろう。だがな俺は、父のように特定の人間を贔屓するような男になってほしくは無い。朱霊よ。家族を助ける策がある。乗るか?」
 朱霊「そのような策が?」
 袁煕「うむ。偽りの降伏だ。李雍は、朱霊の力を買っているのだ。それを利用して内部から崩す。協力してくれるか?」
 朱霊「了解した」
 こうして、朱霊は李雍に偽りの降伏をする。そして、袁煕・袁尚による総攻めが始まろうとしていた。
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