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3章 群雄割拠

兗州の陥落

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【東緡】

 東緡城では、陳宮が最後の策を張り巡らせていた。ここに呂布軍を追い込み曹操軍により呂布を捕えさせる。そうすれば、曹操の名声も高まり、より多くの人材が集まる。陳宮と郭嘉による計略であった。しかし、今陳宮は、捕らえられ、秦宜禄により棒叩き100発の刑を受けている。
 陳宮「何故、こんな酷いことを。うぐっ」
 秦宜禄「殿が本当に何も知らぬと思っていたのかこの裏切り者め」
 秦宜禄、かつて関羽と妻である杜美艶をかけて、口説き対決をし、勝利した。そんな杜美艶との間に、待望の子供が誕生したのは、兗州争乱が始まって一年経った頃である。まだまだ可愛い盛りの我が子の幼名は、阿蘇アソ。後の秦朗元明シンロウゲンメイである。秦宜禄が呂布に仕えた経緯は、義父殺しと知られる呂布を討ち取り名を上げようと考え勝負を挑み、その信念のある一撃と武勇に惚れ、配下に加わった。そんな秦宜禄が呂布より任されたのは、軍師をしている王允から『陳宮が怪しいから甥の王凌と共に見張って欲しい』と頼まれていたからである。そして、ここまで陳宮を見てきた2人には確信があった。コイツは、曹操を裏切ってなど居ない。全て、曹操のために動いていると。
 陳宮「何か誤解があるようですが。私は何も。うぐっ」
 王凌「まだ言うか。この薄汚い鼠が」
 王凌、司徒王允の甥として、呂布に同行し、多くの戦に出陣した男である。
 陳宮「私が一体何をしたと証拠を出してくだされ。うぐっ」
 秦宜禄「証拠は、お前の胸によく当ててみるんだな」
 陳宮「それはないのと同じですぞ。このようなことをして、許されるはずが。うぐっ」
 秦宜禄「気を失ったか。縄で縛り付けて、牢屋に放り込んでおけ」
 呂布軍兵士「はっ」
 陳宮の牢屋に王允が1人でやってくる。
 王允「ホッホッホ。陳宮殿、気分は如何かな?」
 陳宮「見てわからぬか王允殿。司徒であった貴方は、もっと理路整然としておられた。それが呂布のような野蛮どもと関わるうちに変わってしまわれたようですな」
 王允「何とでも良いなされ。ところで、陳宮殿。我ら臣下の妻子、見つかりましたかな?」
 陳宮「!?」
 王允「その顔は、図星のようですなぁ。今回は、大事を取り、呂布様の身辺警護を担当している魏寧様も避難させましたからなぁ」
 陳宮「何処から知っていたのだ王允。貴様ーーーーーーーー」
 王允「陳宮殿ともあろう方がそれでは、私は曹操の手先ですと名乗っているようなものですぞ」
 陳宮「ぐっ」
 王允「これで言質は、取れましたからなぁ。もう暫くそこで大人しくしていなされ。といってもワシらは、もうここに用は、ありませんのでな。せいぜい餓死しないようにお気をつけくだされ」
 陳宮「王允、それは、どういう意味だ!」
 王允「犠牲も大きかったですが目的は、無事果たしたということでございます」
 陳宮「まさか!劉備か。呂布を裏で操っていたのは、劉備であったか!」
 王允「さぁ、どうでしょうなぁ」
 王允は、そう呟くと不敵な笑みを浮かべて、立ち去るのであった。肯定とも否定とも違う。そう、全て裏で糸を引いている存在は、戦火に見舞われ、許昌から長安へと移送された献帝なのだ。まぁ、献帝本人は、知らずに漢室の威光を取り戻すことを目的とした孫劉呂ソンリュウロ同盟に担がれ巻き込まれているだけではあるが。

【曹操軍】

 郭嘉「おかしい?陳宮殿からの定時連絡が途絶えた。曹操殿、何かあったのかも知れません。至急、東緡城へ進軍を手遅れになる前に」
 曹操「うむ。あいわかった。全軍、東緡城へ進軍せよ」
 曹操軍が辿り着いた時、東緡城では、陳宮が傷だらけで指揮をとり、呂布軍と戦っていた。何故、捕えられていたはずの陳宮が窮地を脱し、今、傷を押して、反乱軍を指揮しているのか?それは少し話が巻き戻る。

【東緡】

 牢屋に捕えられている陳宮の元に1人の男がくる。
 ???「御無事でしたか?」
 陳宮「郝萌カクボウ?」
 郝萌「良かった。無事で何よりです」
 陳宮「イタタタ。まさか裏に劉備が居ようとは、考えが甘かったな」
 郝萌「呂布に反感を持つもの。いえ、呂布軍の中に紛れ込んだ陳宮様の私兵が反乱を起こしている頃合いかと」
 陳宮「ククク。こんなこともあろうかと別の手を仕込んでいて良かった。埋伏の計をなぁ」
 そこに1人の男が現れる。
 陳宮「敵か?」
 郝萌「待て陳宮殿、安心せよ。俺の配下のものだ」
 ???「郝萌殿、お前に付くと決めたことを後悔させてくれるなよ」
 郝萌「曹性ソウセイよ。お前が付いてくれて感謝する」
 曹性「あぁ(王允様は、何処まで読んでおられたのだ。全く、あの歳で、あの策謀。陳宮などと比べ物にならない。後は、頃合いを見て、郝萌と陳宮を処理して、殿に合流する。それまで、裏切り者の汚名は、着てやるよってな)」
 東緡城では、反乱した兵どもと戦う呂布軍兵士に動揺が全くなかった。それもそのはず、これも王允は、看破していたのである。それゆえ秦宜禄が指揮を取り、迅速に事に当たっていた。そこに呂布が帰還した。
 呂布「戦況はどうなっている秦宜禄?」
 秦宜禄「呂布様、お帰りをお待ちしておりましたと言いたいところですが。流石、陳宮と言ったところでしょうか?反乱を知っていた我々の方が少し押し込まれています」
 呂布「やはり陳宮は、曹操の回し者であったか。義父上の申す通りであったな」
 秦宜禄「はっ。貂蝉様の知識量にも脱帽したものですが王允様は、それを軽く超えていますね」
 呂布「うむ。我が軍に欠かせぬ軍師よ。陳宮如きと違ってな」
 秦宜禄「殿、万が一、俺が死ぬようなことがあれば、関羽という男に妻と子を預けてくださいませんか?子が成人した時の名も考えているのです秦朗元明と」
 呂布「まだ2歳になる前であろう。ちと早い気もするが。それにしても関羽殿だと?」
 秦宜禄「やはり、殿は劉備殿と懇意にしておられるのですな」
 呂布「すまぬ。お前のことを信じていなかったわけではないのだが関係を多くのものに知られるのはまずいと思ってな。ここ最近は、1人でやり取りをしていたのだ」
 秦宜禄「いえ、それが良いでしょう。曹操ですらあれだけ多くのものに反乱を起こされたのです。秘密を知るものは最小限に、それが良いかと」
 呂布「うむ。わかった。お前に何かあった時は、引き受けよう。では、俺は一足先に、義父上を御守りして、徐州の劉備の元へ撤退する」
 秦宜禄「殿、ご武運を」
 呂布「お前もな」
 秦宜禄「はっ」
 反乱した兵に動じることなく対応する呂布軍。そんな状況に焦りの色が見える陳宮。
 陳宮「まさか、これすらも読んでいたというのか?王允よ」
 郝萌「陳宮殿、これでは、話が違いますぞ」
 曹性「しからばごめん」
 曹性により後ろから刺される郝萌。
 郝萌「曹性、貴様、謀りおったな。グフッ」
 陳宮「来るな。来るでない」
 曹性「陳宮殿、共に歩めなかったこと残念です」
 陳宮へと刃が当たるのを阻止し曹性の腕を切りつけたのは、呂虔であった。
 呂虔「軍師殿、遅くなって申し訳ありません」
 曹性「クソっ(腕の腱を切られた。陳宮の処理は無理であったか)引かせてもらう」
 呂虔「待て」
 曹性は無事に逃げることに成功。秦宜禄は、呂布軍の中に紛れ込んでいた陳宮の私兵を全て処理し、兵たちを撤退させた。そして、自身も撤退しようとした矢先。あの巨体の大男が目の前に現れたのだ。
 許褚「あれれ。聞いてた話と違うんだなぁ」
 秦宜禄「(何だ、このデカいやつは、身体の全身から逃げろと警告音が聞こえている)」
 許褚「まぁ、良いんだなぁ。ちょっと踏み潰し甲斐が足りなかったと思ってたんだなぁ」
 秦宜禄「(俺たちのことをアリとでも勘違いしているのか?こんな化け物に今呂布様を追わせるわけにはいかない。動け動いてくれ俺の足)」
 どんどん兵士を薙ぎ払い秦宜禄へと近づいてくる巨体の大男こと許褚。
 秦宜禄「俺は、呂布軍の秦宜禄。これ以上、貴様を先に進ませることはできん(足が震えている。こんな状態で相手にできるのか?)」
 許褚「呂布軍ってことはだなぁ。曹操様の敵なんだなぁ。とっとと踏み潰すんだなぁ」
 次の瞬間、秦宜禄の身体はまるで重力を無視するかのように空中へと投げ出されていた。
 秦宜禄「(馬鹿な!きちんと剣で防御して、吹き飛ばされるだと)」
 そして、身動きの取れない空中からの落下と同時に、許褚の持つ大型のハンマーが秦宜禄を綺麗に捉える。まるで、野球選手がホームランを打つかのように、身体のあらゆるところを破壊され秦宜禄は絶命する。
 秦宜禄「(空中では、防御姿勢を取れない。嘘だろ。落ちてくる俺に合わせて大槌を振るうだと)」
 その大槌が秦宜禄に当たる刹那、いろいろな思い出が走馬灯のように駆け巡る。
 関羽「秦宜禄よ。某が女を口説いたのは、杜美艶が初めてじゃ。そして、勝負に勝ったのは、お前だ。幸せにしてやるのだ」
 呂布「何だお前は?義父殺しか。お前も物事の表面しか見えていないのだな。何、配下にして欲しいだと!まぁ、荷物持ちぐらいなら空いてはいるが。何?それでも構わない。面白い男だな。気に入った。士卒として迎え入れよう」
 杜美艶「アナタ、見てください阿蘇が笑っていますよ」
 秦宜禄「(何と、濃密した時であっただろう。同じ女を愛するものとして、あの関羽と肩を並べ。物事の表面しか見えていなかった俺に、本質を教えてくれた生涯の主君である呂布様に出会い。そして、愛するものとの間に子供という形も残せた。悔いがあるとするならば、息子の成長を側で見守ってやれなかったことぐらいか。呂布様、我が愛する妻と子を必ず関羽殿に届けてくだされ。先に逝く不忠をお許しくだされ)」
 こうして、東緡城も陥落し、ここに曹操による4年にも渡る兗州の奪還は、達成されたのである。
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