上 下
55 / 544
3章 群雄割拠

井戸の中で光るもの

しおりを挟む
 李傕たちが呂布を追い長安へと向かい、それを追いかけて義賢が向かった後の洛陽。
 孫堅「しかし、まさかあんなにお祖父様お祖父様と言ってたお前さんが残るとはな」
 董白「仕方ないじゃない。私が付いていけば李傕に人質にされかねないって言われたもの。そうなればお祖父様がピンチになるってことでしょ。それに義賢様は約束してくださったもの。必ず助けて帰ってくるって」
 華雄「じゃじゃ馬娘が成長したもんだと思わんか徐栄」
 徐栄「あぁ、全くだ」
 劉備「しかし丁は無事であろうか?」
 張飛「そんな心配すんなよ大兄者」
 関羽「うむ。1人の方が侵入しやすいと言われてしまっては任せるしかあるまい。兄者、我々はここにて帰りを待ちましょうぞ」
 劉備「だが不安でどうにかなりそうだ」
 ウロウロと落ち着かない劉備を張飛と関羽が宥める。
 黄蓋「殿、お耳に入れたいことが」
 孫堅「なんだ」
 黄蓋「井戸の中からコレが」
 光り輝くものを取り出し孫堅に見せる黄蓋。
 孫堅「馬鹿な!?これは伝国の玉璽ぎょくじではないか。すぐに献帝様へお返しするのだ」
 程普「しかし、殿。李傕たちが献帝を手中にするのは防げないだろうとカレも申しておりました」
 韓当「殿、そうなったら李傕にいいように使われるんじゃねぇか?」
 孫堅「しかし、かといってどうせよと」
 黄蓋「ここに霊帝様が来るのなら、その時返す事にして、今は殿が預かっておくのはどうか?」
 程普「それが良いでしょう」
 韓当「賛成だな」
 孫堅「仕方ないか」
 孫堅が懐に伝国の玉璽をしまうところを見た者がいた。袁術軍の兵士と袁紹軍の兵士である。2人は遠くにいたため内容は聞き取ることはできなかったので、この事だけを切り取りそれぞれの主君へと報告した。
 袁紹「それは真か?」
 袁紹兵士「この目でしかと見ました」
 逢紀「殿、これが本当なら孫堅が献帝を利用するでしょう」
 袁紹「あの野蛮な族めが劉表に使者を出せ。孫堅が帰ってきたところを襲撃せよと」
 審配「殿、それは良い考えです。劉表は荊州を統治するため孫堅のことを邪魔だと考えているはず。喜んで攻撃することでしょう」
 袁紹「ククク。孫堅よ。天子様を利用しようとした罪をその身で支払うのだな」
 袁紹は孫堅の暗殺を劉表に命じたのであった。その頃袁術は全く違う様相を示した。
 袁術「ほぅ。孫堅が玉璽をな。フフフ。俺にもようやくツキが回ってきたようだ。長沙城に進軍して、孫堅の妻子を捕らえて参れ」
 袁術兵士「はっ」
 紀霊「殿、何故そのようなことを?」
 袁術「何、伝国の玉璽は天子の証。妻子を人質に取り譲渡させようかとな。そうすればワシが次の皇帝じゃ。これでようやく忌々しい袁紹よりも上になれるというものよな」
 紀霊「殿、それは修羅の道ですぞ」
 袁術「それがどうした」
 紀霊「ぐっ」
 袁術兵士と袁紹兵士がそれぞれの主君に報告に向かってから間も無くして、劉義賢が霊帝と王栄、そして霊帝に付き従うものたちを連れて洛陽へと帰ってきた。
 霊帝「李傕の奴め漢の都をこのようにするとは」
 王栄「今は命があることを良しとしましょう」
 従者「皇后様の仰る通りでございます」
 王栄「皇后などともう私はただの人なのです王栄と気軽にお呼びください」
 従者「かしこまりました。王栄様」
 王栄「まぁ良いでしょう」
 義賢「霊帝様、貴方の孫娘がお待ちですよ」
 霊帝「ワシに孫娘なぞおらんが」
 董卓の姿を見た董白が目に涙を溜めながら董卓に飛び付いた。
 董白「お祖父様、無事で無事で良かった。本当に良かった」
 霊帝「董白、ワシはお前のおじいちゃんではないのだ」
 董白「知ってたの。最初は私のおじいちゃんを何処にやったんだって殺そうと思って、孫娘のフリをしていたの。でも可愛がってもらううちに本当のおじいちゃんのように思って、そんな気持ちが無くなった。だって、私のおじいちゃんは、こんなにも優しくて強いんだって」
 霊帝「董白、すまん。ワシが董卓と入れ替わりなぞしなければ、お前に悲しい思いをさせずに済んだのだ」
 董白「確かに悲しかった。私の本当のおじいちゃんはもういないんだって、でも霊帝様は、そんな私に本当のおじいちゃんのように接してくださいました。貴方様は私の第二のおじいちゃんです。これからも」
 王栄「あらあら、モテモテですわね董卓様」
 霊帝「茶化すな王栄」
 王栄「フフフ」
 霊帝「董白よ。今までワシのことをおじいちゃんと慕ってくれてありがたいぞ。だが、これからは己のために生きよ。好きな人が居るのなら遠慮などせんことだ。彼の者は不思議な魅力を持っておるようだからな。ワッハッハ」
 霊帝の言葉に耳を真っ赤にする董白。
 王栄「あらー恋する女の子なのね董白ちゃんも」
 董白「王栄様、茶化さないでくださいまし」
 王栄「フフフ。私にとっても董白ちゃんは孫娘なんだからね。困ったことがあったら相談しに来るのですよ。いえ、お顔を見せに来るのですよ」
 董白「はい。王栄様もお祖父様のことをよろしくお願いします」
 王栄「えぇ」
 孫堅が霊帝の姿を見てこちらに来る。
 孫堅「霊帝様!」
 霊帝「孫堅か。皇甫嵩がお前を連れてきた頃以来か」
 孫堅「はい。井戸でコレを見つけました」
 孫堅は懐から伝国の玉璽を取り出す。
 霊帝「玉璽か。それは預かっておいてもらえぬか?」
 孫堅「しかし!?」
 霊帝「今の献帝には力は無く。当分は誰かに頼らねば漢を守れぬであろう。お前に預かっておいてもらうのが1番安心なのだ。孫堅よ」
 義賢「やめておいた方が良いでしょう。それは騒乱を生みます。天下の覇権のことしか考えていない袁術にくれてやるのが良いでしょう」
 霊帝「何故じゃ?」
 義賢「袁術に渡せばそれは巡り巡って、献帝様の元に戻ることになるからです。それに袁紹と袁術の争いに孫堅殿が巻き込まれるのは良くないでしょう。袁術は妻子を人質に取り孫堅殿に玉璽の受け渡しを要求してくるはずです。それを逆手に取り袁紹と通じるのです。袁紹には妻子を理由に玉璽を袁術に奪われたと」
 孫堅「それでは結局利用されるだけでは?」
 義賢「えぇ、ですが一時です。それに曹操殿なら献帝様を蔑ろにはしないでしょう」
 霊帝「ワシもそう思う。孫堅よ。すまぬが袁術に渡してやれ」
 孫堅「霊帝様の命とあれば」
 義賢「孫堅殿、袁紹と誼を通じるため劉表に長沙城を明け渡すのです」
 孫堅「長沙城を!?」
 義賢「えぇ、そして揚州に向かい来るべき時のため力を付けるのが良いでしょう」
 孫堅「成程、確かに献帝様をお支えするにしても長沙城のみでは厳しいと思っていたところだ。その提案に乗るとしよう」
 孫堅の命運を揺るがす大きなことをしていることにこの時の義賢はまだ知る由もなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

えっ俺が憧れの劉備玄徳の実の弟!兄上に天下を取らせるため尽力します。補足説明と登場人物の設定資料

揚惇命
SF
『えっ俺が憧れの劉備玄徳の実の弟!兄上に天下を取らせるため尽力します。』という作品の世界観の説明補足と各勢力の登場人物の設定資料となります。 本編のネタバレを含むため本編を読んでからお読みください。 ※小説家になろう様・カクヨム様でも掲載しています。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ドレスを着たら…

奈落
SF
TSFの短い話です

性転換タイムマシーン

廣瀬純一
SF
バグで性転換してしまうタイムマシーンの話

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

処理中です...