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タロウのひまわり3
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老女はバイオリンを弾きながら、何か懐かしいものにでも浸っているかのような顔で池を見つめています。
タロウが老女の視線の先を見ると、キラキラと太陽の光に輝いた水が見えます。でもそれだけです。
(なんだ? このばあさん池を見るのが楽しいのか?)
タロウは自分が月を見て母親のことを思っていた気持ちをすっかり忘れ、心を思いやる気持ちがなくなっていました。
老女がバイオリンを弾き終わると、タロウに気がつきました。
「お前はひとりぼっちかい? ずいぶんと痩せてしまって……おなかがすいているのかい? これは私のお昼ご飯だけど食べるかい?」
優しい声でタロウへと声をかける老女の手にはおにぎりがありました。
とてもおいしそうなにおいがします。
タロウはとても警戒しましたが、空腹にはかないませんでした。
おにぎりを我慢しようとするほどおなかがなって、よだれが出てきます。
ついに老女のおにぎりを口にしてしまいました。中に鮭が入っていましたがタロウはそれを知りません。だけどそれがますますタロウの食欲をさそいました。
タロウがガツガツとおにぎりを食べている姿を見て老女はほほえみます。
「そうかいそうかい。そんなにおなかがすいていたのかい。もうここにはないけど家にはまだあるよ。来るかい?」
タロウはどうしても深く人間を信用することができませんでした。
タロウは老女の家についていくのはやめようと思いました。
警戒心の取れないタロウは老女をにらみつけたまま動きませんでした。
老女は少しだけ寂しそうな目をしながら言いました。
「お前は、よっぽどひどい目にあってきたんだね。明日も来るからここで待っていなよ」
そう言って老女は家へと帰っていきました。
次の日、タロウは老女を疑いながら同じところで待っていると、老女は大きめのかごと、バイオリンを持ってきました。
老女は椅子に座り、池を見ながらバイオリンを弾き始めます。
タロウはその音を聞いていると、とてもあたたかな気持ちに包まれてきます。
まるで優しい思い出がたくさんつまっているかのような、やわらかで、時折切なさの混じる音色でした。
タロウはその音を聞きながら老女のそばに座るのが大好きになりました。
老女がバイオリンを弾き終わると、大き目のかごから、おにぎりの他にも、卵焼きや、蒸したタラや、皮をむいたりんごが出てきました。
「たんとお食べ。おなかがすいているだろうからね」
そう言って老女はタロウに自分よりもはるかに多い食べ物を分けてくれました。
タロウは驚きながらも、出されたものをバクバクと食べます。
(うめえ! こんなうめえもの食べたことねえ!)
タロウの感激は言うまでもありません。でもタロウには老女がどうしてこんなに優しくしてくれるのかわかりません。
老女はタロウが食べ終わったのを見てとても嬉しそうに微笑んでいます。太陽の光が当たってまぶしいくらいでした。
その時、タロウの記憶にひまわりが浮かびました。老女の自然な微笑みがひまわりの微笑みと重なったのです。
タロウは複雑な気持ちになって、その場にいられなくなりました。
もしかしたら、自分はひまわりにひどいことをしてしまったのかもしれない、ちらりと、そう思ったのです。
しかしタロウは素直に自分が間違っていたと認められませんでした。
(ふんっ!あいつが悪いんだ。俺のことなんにも知らないでよ。不愉快なやつだったぜ)
タロウは心の中になにかつっかかったような気持ちを覚えながら老女のもとから去ろうとすると、声がしました。
「また来るからね。いつでもお前のことを待っているよ」
老女はタロウの背中に向かって、そう言いました。
次の日は雨でした。
タロウはひどい雨にうたれながら、「来るはずないだろ。こんな雨の中」と、雨を見上げながら独り言を言いました。
しかしタロウは待ち合わせの場所になんとなく来てしまいました。
見渡しても、やはり誰もいません。
(来るはずないよな)
タロウはそう思いました。
すると、赤い傘をさして、この雨の中老女はやってきたのです。
手には大きなかごを持っていました。
いつもの椅子のところへ来ると、タロウに言いました。
「今日は雨だし、傘をさしながらバイオリンを弾くことはできないから、バイオリンはお休みだよ。でも、ちゃんとお前のご飯は持ってきたからね。たんとお食べ」
老女はタロウに傘をさしてくれて、食べ物を食べさせてくれました。
タロウが食べているとき、本当に嬉しそうに微笑んでいます。
タロウは思いました。
(あのひまわりも、雨の中こうやって色んなものに微笑んでいるのかな)
老女はそれから、毎日欠かさずやってきました。
タロウはだんだん老女に感謝するようになりました。そして無償の微笑みがなぜ向けられるのか、どこかわかるような気がしました。
それは、ただ相手の幸せを願い、相手の幸せを得て自分の幸せにしているのだと、老女の毎日の行いを見て思うようになりました。
タロウが老女の視線の先を見ると、キラキラと太陽の光に輝いた水が見えます。でもそれだけです。
(なんだ? このばあさん池を見るのが楽しいのか?)
タロウは自分が月を見て母親のことを思っていた気持ちをすっかり忘れ、心を思いやる気持ちがなくなっていました。
老女がバイオリンを弾き終わると、タロウに気がつきました。
「お前はひとりぼっちかい? ずいぶんと痩せてしまって……おなかがすいているのかい? これは私のお昼ご飯だけど食べるかい?」
優しい声でタロウへと声をかける老女の手にはおにぎりがありました。
とてもおいしそうなにおいがします。
タロウはとても警戒しましたが、空腹にはかないませんでした。
おにぎりを我慢しようとするほどおなかがなって、よだれが出てきます。
ついに老女のおにぎりを口にしてしまいました。中に鮭が入っていましたがタロウはそれを知りません。だけどそれがますますタロウの食欲をさそいました。
タロウがガツガツとおにぎりを食べている姿を見て老女はほほえみます。
「そうかいそうかい。そんなにおなかがすいていたのかい。もうここにはないけど家にはまだあるよ。来るかい?」
タロウはどうしても深く人間を信用することができませんでした。
タロウは老女の家についていくのはやめようと思いました。
警戒心の取れないタロウは老女をにらみつけたまま動きませんでした。
老女は少しだけ寂しそうな目をしながら言いました。
「お前は、よっぽどひどい目にあってきたんだね。明日も来るからここで待っていなよ」
そう言って老女は家へと帰っていきました。
次の日、タロウは老女を疑いながら同じところで待っていると、老女は大きめのかごと、バイオリンを持ってきました。
老女は椅子に座り、池を見ながらバイオリンを弾き始めます。
タロウはその音を聞いていると、とてもあたたかな気持ちに包まれてきます。
まるで優しい思い出がたくさんつまっているかのような、やわらかで、時折切なさの混じる音色でした。
タロウはその音を聞きながら老女のそばに座るのが大好きになりました。
老女がバイオリンを弾き終わると、大き目のかごから、おにぎりの他にも、卵焼きや、蒸したタラや、皮をむいたりんごが出てきました。
「たんとお食べ。おなかがすいているだろうからね」
そう言って老女はタロウに自分よりもはるかに多い食べ物を分けてくれました。
タロウは驚きながらも、出されたものをバクバクと食べます。
(うめえ! こんなうめえもの食べたことねえ!)
タロウの感激は言うまでもありません。でもタロウには老女がどうしてこんなに優しくしてくれるのかわかりません。
老女はタロウが食べ終わったのを見てとても嬉しそうに微笑んでいます。太陽の光が当たってまぶしいくらいでした。
その時、タロウの記憶にひまわりが浮かびました。老女の自然な微笑みがひまわりの微笑みと重なったのです。
タロウは複雑な気持ちになって、その場にいられなくなりました。
もしかしたら、自分はひまわりにひどいことをしてしまったのかもしれない、ちらりと、そう思ったのです。
しかしタロウは素直に自分が間違っていたと認められませんでした。
(ふんっ!あいつが悪いんだ。俺のことなんにも知らないでよ。不愉快なやつだったぜ)
タロウは心の中になにかつっかかったような気持ちを覚えながら老女のもとから去ろうとすると、声がしました。
「また来るからね。いつでもお前のことを待っているよ」
老女はタロウの背中に向かって、そう言いました。
次の日は雨でした。
タロウはひどい雨にうたれながら、「来るはずないだろ。こんな雨の中」と、雨を見上げながら独り言を言いました。
しかしタロウは待ち合わせの場所になんとなく来てしまいました。
見渡しても、やはり誰もいません。
(来るはずないよな)
タロウはそう思いました。
すると、赤い傘をさして、この雨の中老女はやってきたのです。
手には大きなかごを持っていました。
いつもの椅子のところへ来ると、タロウに言いました。
「今日は雨だし、傘をさしながらバイオリンを弾くことはできないから、バイオリンはお休みだよ。でも、ちゃんとお前のご飯は持ってきたからね。たんとお食べ」
老女はタロウに傘をさしてくれて、食べ物を食べさせてくれました。
タロウが食べているとき、本当に嬉しそうに微笑んでいます。
タロウは思いました。
(あのひまわりも、雨の中こうやって色んなものに微笑んでいるのかな)
老女はそれから、毎日欠かさずやってきました。
タロウはだんだん老女に感謝するようになりました。そして無償の微笑みがなぜ向けられるのか、どこかわかるような気がしました。
それは、ただ相手の幸せを願い、相手の幸せを得て自分の幸せにしているのだと、老女の毎日の行いを見て思うようになりました。
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