私は死んだ。

惰眠

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落とした希望

安堵そして殺戮

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 私は、安堵した。
 やっとのことで、私の自室にたどり着いたのだ。

 そこには、先ほど見かけたような血の赤黒いシミもなくいつも通り、適度に散らかされた自室があった。
 休日も満足に休めていないために、あまりきれいとは言えない。しかし、最低限の清潔感くらいならあるのかもしれない。
 それは、独り身である私があまりものに執着せず、物をためていないためだろう。

 ベットの掛布団はいつものように乱雑にまとめられてそこにある。

 私はベットを椅子代わりに腰掛ける。
 恐らく私が来たのは、この部屋に唯一ある目の前の木製のあのドアだろう。

 ここは、もともと父の部屋だった。
 子供のころは大きな憧れのあった部屋だった。

 備え付けのクローゼットには、数着のスーツと、部屋着と外出用の衣服が数着ある程度で物寂しいものとなっている。

 反対の壁には、私を縛り付ける大きなディスプレイ画面のデスクトップパソコンがある。
 足元の円柱状のごみ箱には、相変わらずまとまらない企画書のコピーが捨てられていた。
 机に置かれているデスクランプは私のようにパソコンに向かって俯いている。
 壁紙はクリーム色。床は茶色のカーペットが一面に貼られている。
 部屋に一つだけの窓には、暗い青色のカーテンが開かれることなく飾られている。

 部屋の照明はLEDのはずなのに暗く感じる。

 急に首元に何かが触れる感覚があった。
 縄だ。

 勢いよくそれに引っ張られ、足をばたつかせる。
 縄をちぎろうと、首を掻く。
 精一杯暴れて見せるが、縄は、変わらず私を苦しめる。

 私は力なく、意識を手放した。


 私は座っていた。あのベットだ。

 私は立ち上がった。またあの縄が私の命を奪いに来ると思ったからだ。荒い呼吸を隠さず汗を垂らす。

 焦げ臭い。
 嫌な臭いだ。
 私だった。
 燃えていた。

「あぁぁぁあああああ!!」

 声にならない叫びで悶え苦しむ。
 ぼろ雑巾のように焼け切れた私は意識が遠のく。


 僕は、目を開く。また幻覚を見たようだった。

 全身から噴き出る汗に呼応するように掛布団に体を覆って、私は隠れてみる。

 背を向けているはずなのに、腹に鈍い痛みが走る。
 慌てて掛布団を投げ、見ると私の腹には包丁が刺さっていた。
 部屋には誰もいないはずだ。それに、ベットには一切の傷がなかった。
 この包丁は急に現れたのだ。

 包丁が抜ける。
 勢いよく私の腹を再度刺す。

 あまりの痛みに、床に転がる。
 包丁は恨みを持つかのように何度も持ち上げり、何度も私を刺した。

「うっ」

 そのたびに私は、小さな声を上げる程度のことしかできなかった。


 意識が戻る。私は無事だ。

 私は慌てて、ベットから離れて部屋の中心に向かう。

 目を泳がせる。どこから何が起きるのかわからない。
 異変はない。

 そして、ガンッという鈍い音で私は力なく崩れる。
 落ちてきたのは部屋の真ん中にあるあの照明だった。私の隣にそれはあった。

 ちょろちょろと水の音が聞こえる。私の服が少しずつ濡れる。
 ぼんやりとする頭でこの状況を客観視する。

 私の手が完全に水に浸かりかけた時だった。
 目の前にコンセントが見えた。

 やばいと思い、目を見開いたその刹那。
 全身に電撃が走り、感電した。


 ハッとして深呼吸をする。私は生きている。
 私は、この部屋にいてはいけないのだと察して、走って慌てて扉を開ける。

 その先を見ずに走って行った私が悪かった。

 扉の先の暗闇で私は落ちた。

 グシャ。

 あのビルの時と同じように私は転落した。
 今度の私は、わけのわからないこんな空間で死にたくはなかった。


 風を感じる。私はまた落ちていた。
 恐怖の汗と、諦めの後悔の涙でぐしょぐしょに濡れた私は先ほどよりも遠く長い暗闇の奥底にグッと目を閉じる。

 ふんわりとした感触だった。
 落ちた先は私のベットの上だった。それは、昔、私が子供の時に使っていた、捨てたはずのあのベットだった。

 子供部屋の姿鏡に自身を移す。

 まるで小学生くらいにまで戻ったような私がそこにいた。
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