1 / 2
プロローグ
テレビを見た時
しおりを挟む
すべてが終わった後の一時(ひととき)。
なんの気なしにテレビの電源を付ける。
プチッという音を立て、明かりが少し部屋を明るくする。
たった一人の夜に紛らわせてくれるテレビの音声。
無機質な空間に漂っている死の香りを和らげる。
テレビの前では、本心かそれ以外かわからない笑い声が聞こえる。
チャンネルを変えても変わらない。
画角には一人以上が映る。
それでも僕とは目が合わない。
後ろを振り向くと輪っか状に結ばれたロープが、テレビに照らされ、まるで僕を包み込もうとするかのような大きな影ができていた。
テレビを見ながら何の気なしに笑顔になってみた。
目も心も死にながらするこの表情に、何の意味があるのだろうか。
我に返りながら力なくその画面を見つめる。
楽しげだ。
部屋の明かりをつける。
いくらテレビの明かりに目が慣れていたとしても、急に明るくなれば眩しい。
ゆっくりと床に座り、パソコンを開いた。
横からは、未だにテレビの音がほんのりと聞こえる。
一人暮らしを始めて買った安いノートパソコン。
そこにはいつも一言の日記をつけていた。
『辛い。』
十分ほど思案した後に手を動かし文字を書く。
保存マークをクリックして溜息を吐く。
少し首を上に向けるだけで縄が僕を誘っている。
立ち上がって明日のための食材や果物が入った冷蔵庫を開ける。
バナナを一本手に取り食べる。
それだけで満たされた気がして、皮をごみ箱に捨てるとテレビの前に立った。
ニュースが流れる。
つまらない報道だ。
今日も一人死んだ。
今日も一人傷ついた。
今日も、今日も、今日も…。
変わらず平和だ。
誰かが僕を殺すわけでもなく、誰か身内が死ぬわけでもない。
僕は、本を手に取り、栞の挟まれたページを開く。
僕も含め、何も変わらない毎日が繰り返されている。
生憎の雨だ。
きっと、何が起こっても掻き消してくれるだろう。
そして、隠れるように、本を読んだ。
なんの気なしにテレビの電源を付ける。
プチッという音を立て、明かりが少し部屋を明るくする。
たった一人の夜に紛らわせてくれるテレビの音声。
無機質な空間に漂っている死の香りを和らげる。
テレビの前では、本心かそれ以外かわからない笑い声が聞こえる。
チャンネルを変えても変わらない。
画角には一人以上が映る。
それでも僕とは目が合わない。
後ろを振り向くと輪っか状に結ばれたロープが、テレビに照らされ、まるで僕を包み込もうとするかのような大きな影ができていた。
テレビを見ながら何の気なしに笑顔になってみた。
目も心も死にながらするこの表情に、何の意味があるのだろうか。
我に返りながら力なくその画面を見つめる。
楽しげだ。
部屋の明かりをつける。
いくらテレビの明かりに目が慣れていたとしても、急に明るくなれば眩しい。
ゆっくりと床に座り、パソコンを開いた。
横からは、未だにテレビの音がほんのりと聞こえる。
一人暮らしを始めて買った安いノートパソコン。
そこにはいつも一言の日記をつけていた。
『辛い。』
十分ほど思案した後に手を動かし文字を書く。
保存マークをクリックして溜息を吐く。
少し首を上に向けるだけで縄が僕を誘っている。
立ち上がって明日のための食材や果物が入った冷蔵庫を開ける。
バナナを一本手に取り食べる。
それだけで満たされた気がして、皮をごみ箱に捨てるとテレビの前に立った。
ニュースが流れる。
つまらない報道だ。
今日も一人死んだ。
今日も一人傷ついた。
今日も、今日も、今日も…。
変わらず平和だ。
誰かが僕を殺すわけでもなく、誰か身内が死ぬわけでもない。
僕は、本を手に取り、栞の挟まれたページを開く。
僕も含め、何も変わらない毎日が繰り返されている。
生憎の雨だ。
きっと、何が起こっても掻き消してくれるだろう。
そして、隠れるように、本を読んだ。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
僕とメロス
廃墟文藝部
ライト文芸
「昔、僕の友達に、メロスにそっくりの男がいた。本名は、あえて語らないでおこう。この平成の世に生まれた彼は、時代にそぐわない理想論と正義を語り、その言葉に負けない行動力と志を持ち合わせていた。そこからついたあだ名がメロス。しかしその名は、単なるあだ名ではなく、まさしく彼そのものを表す名前であった」
二年前にこの世を去った僕の親友メロス。
死んだはずの彼から手紙が届いたところから物語は始まる。
手紙の差出人をつきとめるために、僕は、二年前……メロスと共にやっていた映像団体の仲間たちと再会する。料理人の麻子。写真家の悠香。作曲家の樹。そして画家で、当時メロスと交際していた少女、絆。
奇数章で現在、偶数章で過去の話が並行して描かれる全九章の長編小説。
さて、どうしてメロスは死んだのか?
流星の徒花
柴野日向
ライト文芸
若葉町に住む中学生の雨宮翔太は、通い詰めている食堂で転校生の榎本凛と出会った。
明るい少女に対し初めは興味を持たない翔太だったが、互いに重い運命を背負っていることを知り、次第に惹かれ合っていく。
残酷な境遇に抗いつつ懸命に咲き続ける徒花が、いつしか流星となるまでの物語。

タイムリープ10YEARS
鳥柄ささみ
ライト文芸
麻衣は何の変哲もない毎日を過ごしていた。
仲良しな家族、大好きな友達、楽しい学校生活。
ありきたりな、誰もが各々に過ごしているはずの日々、日常。
しかし、10歳のときにあった交通事故によって彼女の世界は激変した。
なぜなら、彼女が目覚めたのは10年後だったから。
精神、学力、思考、すべてが10歳と変わらないまま、ただ時だけ過ぎて外見は20歳。
年月に置いてけぼりにされた、少女の不安と葛藤の物語。
※小説家になろうにも掲載してます
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。
星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。
グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。
それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。
しかし。ある日。
シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。
聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。
ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。
──……私は、ただの邪魔者だったの?
衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。
恋と呼べなくても
Cahier
ライト文芸
高校三年の春をむかえた直(ナオ)は、男子学生にキスをされ発作をおこしてしまう。彼女を助けたのは、教育実習生の真(マコト)だった。直は、真に強い恋心を抱いて追いかけるが…… 地味で真面目な彼の本当の姿は、銀髪で冷徹な口調をふるうまるで別人だった。
家政夫くんと、はてなのレシピ
真鳥カノ
ライト文芸
12/13 アルファポリス文庫様より書籍刊行です!
***
第五回ライト文芸大賞「家族愛賞」を頂きました!
皆々様、本当にありがとうございます!
***
大学に入ったばかりの泉竹志は、母の知人から、家政夫のバイトを紹介される。
派遣先で待っていたのは、とてもノッポで、無愛想で、生真面目な初老の男性・野保だった。
妻を亡くして気落ちしている野保を手伝ううち、竹志はとあるノートを発見する。
それは、亡くなった野保の妻が残したレシピノートだった。
野保の好物ばかりが書かれてあるそのノートだが、どれも、何か一つ欠けている。
「さあ、最後の『美味しい』の秘密は、何でしょう?」
これは謎でもミステリーでもない、ほんのちょっとした”はてな”のお話。
「はてなのレシピ」がもたらす、温かい物語。
※こちらの作品はエブリスタの方でも公開しております。

いけないですか
雪乃都鳥
恋愛
男目線で描かれた恋しさと愛しさを描かれる恋愛小説。主人公は可愛い顔してモテていたが、その心の中は悪態をついてばかり。そんな彼にも、好きな人ができました。けどその好きな人には忘れられない人がいて……。
(基本、毎週土曜日に更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる