現実という名の魔法

惰眠

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プロローグ

テレビを見た時

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 すべてが終わった後の一時(ひととき)。

 なんの気なしにテレビの電源を付ける。

 プチッという音を立て、明かりが少し部屋を明るくする。
 たった一人の夜に紛らわせてくれるテレビの音声。
 無機質な空間に漂っている死の香りを和らげる。

 テレビの前では、本心かそれ以外かわからない笑い声が聞こえる。
 チャンネルを変えても変わらない。
 画角には一人以上が映る。

 それでも僕とは目が合わない。

 後ろを振り向くと輪っか状に結ばれたロープが、テレビに照らされ、まるで僕を包み込もうとするかのような大きな影ができていた。

 テレビを見ながら何の気なしに笑顔になってみた。
 目も心も死にながらするこの表情に、何の意味があるのだろうか。
 我に返りながら力なくその画面を見つめる。

 楽しげだ。

 部屋の明かりをつける。

 いくらテレビの明かりに目が慣れていたとしても、急に明るくなれば眩しい。

 ゆっくりと床に座り、パソコンを開いた。

 横からは、未だにテレビの音がほんのりと聞こえる。

 一人暮らしを始めて買った安いノートパソコン。
 そこにはいつも一言の日記をつけていた。

『辛い。』

 十分ほど思案した後に手を動かし文字を書く。

 保存マークをクリックして溜息を吐く。

 少し首を上に向けるだけで縄が僕を誘っている。

 立ち上がって明日のための食材や果物が入った冷蔵庫を開ける。

 バナナを一本手に取り食べる。

 それだけで満たされた気がして、皮をごみ箱に捨てるとテレビの前に立った。
 ニュースが流れる。
 つまらない報道だ。

 今日も一人死んだ。
 今日も一人傷ついた。
 今日も、今日も、今日も…。

 変わらず平和だ。

 誰かが僕を殺すわけでもなく、誰か身内が死ぬわけでもない。

 僕は、本を手に取り、栞の挟まれたページを開く。

 僕も含め、何も変わらない毎日が繰り返されている。

 生憎の雨だ。
 きっと、何が起こっても掻き消してくれるだろう。

 そして、隠れるように、本を読んだ。
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