おいしい毒の食べ方。

惰眠

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ハンバーグ

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 今日は、少しだけ残業をしてしまった。

 一瞬で終わると思って、連絡を怠ってしまった。
 きっと、怒って待ってるはずだ。

 僕は、薄暗い街灯に照らされながら帰路を行く。

 重たい足を近道の公園を突っ切ることで誤魔化す。


 時計を見る。
 夜八時。

 通常だと、一時間前くらいには帰っているはずだった。

 僕は、玄関のカギをガチャリと回す。

 怒られることを覚悟して、戸を開く。

 そこに、彼女の姿はない。

 疲れて寝てしまっているのかと思ったが、肉の焼ける匂いが漂う。

 きっと、料理に熱中しているのだろう。

 胸をなでおろした。

 僕は、静かに扉を閉めて、廊下をそろりそろりと歩く。

 リビングに続く扉が、勢いよく開く。

「おかえりなさい。」

「ただいま。」

 ロボットのようなぎこちない返事を返す。

「遅くなる時は?」

「連絡です。」

 僕は、言い訳もせず、彼女との決まり事を声に出す。

「よろしい。」

 彼女は、強張った表情を緩めて、僕を許してくれた。

 こんな喜怒哀楽のはっきりする姿も好きだと思う。

「荷物、置いてくるね。」

「は~い。」

 彼女は、料理に戻ったようだ。

 僕は、安堵の溜息を一つ漏らして、自室に向かう。

 ネクタイを少し緩めて、まだ彼女に連絡できない携帯を少し見つめる。

 肩の力を緩め、上着をクローゼットに収める。

 手首から時計を外し、文字盤を少しだけ見つめた。
 止まらず時は進んでいる。
 一秒の遅れもない、正確な時計だ。

 僕は、頭を無造作に掻いて、自室の扉を閉めた。
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