君を知るということ

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愛と嫉妬の攻防戦

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「佐川、スタートしたらすぐ行っていいんだよな?」

「うん。後ろは守るから、できるだけ攻めて。」

中庭をカラーコーンやテープで仕切った空間に散らばる。
このサバイバルゲームのルールはチームに分かれ、先に相手を全滅させるか、制限時間まで生き残った人数が多い方が勝ち(水鉄砲が当てられた時点でリタイア)というシンプルなもの。
制服が濡れないようにビニール製のジャケットを羽織り、周囲の景色を見渡した。

(…本当に運がないな)

貧乏くじを引く体質は昔からというか、二分の一を外すなんてことはしょっちゅうだし、それ以下の確率が当たったのは数えるほどしかない。
凪に「…なんか、ごめん」と謝られるぐらいには、落胆が表に出ていたようで。
向こうのチームで指揮をするのは彼だろうし、直接対決といこう。

「それでは、Ready Go!」

係員の笛の合図で開始。
今回チームを組んだのはクラスメイトの久保君と真澄君。
二人にはまず翔也を狙うように頼んだ。

「一人で敵陣に潜るなんて、不用心だよ。」

奇襲を仕掛けるつもりか、茂みの陰に隠れている。
すかさず銃を打つと拳台の弾丸が舞う。

「…っ!」

間一髪のところで避けると飛沫が視界を過った。
破裂した玉の正体は水風船だ。
僕たちの注意を乱すためのはったり。
横から狙う攻撃を武器に付いていた小型のパラソルでガードする。

「東、守りを崩すぞ。」

「了解!」

街路樹を盾に、一度体制を立て直す。

(…凪がいない)

この場には宮村君と翔也しかいない。
どこかに潜伏しているのかと足を止めた矢先だった。

「久保君!」

遠距離射撃を受けた久保君の背中。

「…マジか。」

「千歳を倒すのが先だ。捜すぞ。」


座学の成績は科目によって差はあれど、ほぼ同じぐらい。
ただし、運動神経に限れば僕に武が上がる。
凪の速さなら、そう遠くに行っていないはずだ。

「…宮村!」

真澄君が宮村君を倒し、これで人数は追いついた。

「見つけた。」

観念したのか、凪は大人しく姿を現す。
すると隠し持っていた武器を翔也に投げた。

「凪、ここは俺に任せて行け。」

「わかった。」

その台詞は俗に言うところのフラグ。
真澄君を相手にする翔也を横目に銃口を向ける。
的確に庇いづらい場所を狙ってくる凪の実力。
ガンシューティング(いわゆるFPS)には僕も自信があるのだけど、彼の精度はゲームでは身につかない。
何故、これほどの腕前を有しているのか。

「…水切れだ。出てきてくれ。」

「嘘はいいよ。もう一丁持ってるよね。」

おそらく凪が潜伏した陰が拠点。
そこを軸に水の補充をしていた訳だ。

「もう、逃げられないよ。」

フェンスの端まで着いてしまえば、脱走はできない。
僕の方が先に撃てた。

(これで勝ちだ)

「何で、笑って」

「俺に気を取られて警戒を怠ったからだ。」

振り向くと同時に水飛沫が身体を濡らす。
鳴り響く試合終了を告げる音。
つまり、既に真澄君も倒されていたということ。
頭に浮かぶ疑問は鉄砲の正体が解決してくれた。

「…翔也」

「俺たちの勝ちだな!」

悪戯っぽく笑った顔に、思わず声を上げた。
凪はあくまで囮。
僕は真相には気づけなかった。



「凪って射撃得意だっけ?」

「…実は龍一がサバゲー好きで、ちょっと教えてもらった。」


そういう理由だったのかと納得する。
実は明日、凪には内緒で神崎さんを呼んだ。
意趣返しはそこでさせてもらおう。

「じゃあ、罰ゲームは激辛ジュースな。」

「…あれ飲むの。」

他のクラスで販売されているデスソース入りジュースを飲ませるつもりらしい。
翔也が提案した罰ゲームは中々ハードだ。


「もし湊が勝ってたら何にするんだ?」

「そうだね。…凪に女装ミスコンに参加してもらおうかな。」

「…やっぱり俺のこと恨んでるだろ。」

「まあいいじゃん。勝ったんだから。」

なんだかんだで凪は翔也に甘い。
「しょうがないな」と肩をすくめた。

(…来年は)

高3のこの時期は今のようには遊べない。
青春のページはまた一つと過ぎてゆく。


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