君を知るということ

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小さな幸せ

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(…随分集中してるな)

適当に選んだSF物の映画、もっと怖がったり感動したりと色々反応してくれるのを期待していたのだが、じっと画面を見つめている。
楽しみ方は人それぞれだが、凪は考察するタイプなのかもしれない。

「…止めろって、集中できないから。」

「もうエンディング入るし、それまで邪魔しなかっただろ?」

軽く頬をつつくとじれったそうに振り払われる。
すると凪は膝を立て、身を乗り出した。
頑張って目線を合わせようとしているのも可愛らしいと見ていたら、不意に耳元まで顔が近づく。

「…後でなら、してもいいから。」

それが本人にとっては精一杯の譲歩なのだろうが、言葉だけ抜き取るとそういうお誘いにも聞こえかねない。
まず、未成年を自宅に上げている時点で言い訳はできないのだが。

約一時間四十分の上映を終え、邪な考えを排除しようと一度欠神をする。
伸びは身体の血行や収縮した筋肉をほぐし、疲労解消の効果があるらしい。
時計に目をやると、ちょうど昼時だ。
昨日の帰りに買い物は済ませてあるし、食材には困らないだろう。

「座って待っててくれていいのに。」

「いや、俺も何か一品作るわ。」

(…家事能力ない奴とは思われたくないっていうか)

もとはと言えば、お袋が「龍一は不器用だから」と失敗作の菓子の写真を見せたせいでもある。
凪が俺に抱いているイメージをこれ以上壊したくはない。
我ながらプライドの高さに苦笑する。
手際よく包丁を操り、食材を合わせる凪の方は早くも一品が完成しそうだ。
空いたコンロにフライパンを乗せ、そろそろ自分の作業に取り掛かる。

(親父の言うことも案外あてになるな)

「とりあえず、これだけでも作れるようになっとけ」と教えられた通りに、溶いた卵と白米を放り込み、木ベラでフライパンを揺らしながら混ぜ合わせる。
この料理の便利な点は目分量でも味の保証はできるところ。
5分もかからずに作り終えた物を皿に盛りつけ、テーブルに運んだ。
食器棚からグラスを取り出し、片方には氷を入れた烏龍茶を、もう片方にはビールを注ぐ。

「…一緒に住んでたら、こんな感じなのか。」

「いきなり何言い出すんだよ。」

付き合ってからそこそこ経つというのに、相変わらず照れくさいようで。
「…そんなの、大分先の話だろ」と呟いてるのを見るに、嫌ではないのはわかっている。
それを指摘してからかうのも楽しいが、せっかくの料理が冷めてしまう。
構うのはこの後にして、今は席に着く。

「…一日遅れたけど、誕生日おめでとう。」

「ありがとな。」

目の前の幸せを噛みしめるように、手を合わせ「いただきます」と二人同時に挨拶してから、グラスを鳴らす。
窓から漏れた7月の眩しい陽気が、そっとテーブルを囲んでいた。
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