77 / 88
26回目の誕生日
しおりを挟む
(仲直り、出来たんだな)
資料の作成が終わったのを確認し、タイムカードを押す。
友人関係が修復したことを知らせる凪のメールに安堵しながら、週末の予定についての返信を送った。
午後七時を過ぎた事務室から湧き出す疲労を訴える同僚達の声。
デスクの脇から荷物を外し、帰ろうと立ち上がる。
「シフト、これで大丈夫ですか?」
「サンキュー。やっぱ神崎に任せて正解だったわ。」
「…もとはと言えば、先輩が責任者だったはずなんですけど。」
基本的に出勤日は固定だが、昼間のカウンセリングをメインにするか、夜勤をメインにするかは個人に委ねられる。
本来ならその管理は部署の中での年長者がやるのが暗黙の了解になっていたところ、小泉先輩が俺を推薦したことで現在に至る訳だ。
「実際、新人からも評判良いからさ。俺がやった時、揉めただろ?」
連休前を思い出すと胃が痛い。
ゴールデンウイークであれなら、お盆期間はこれの比ではないだろう。
信頼されていると受け取っておくべきなのだろうか。
「…何だよ、その量は。」
森塚が呆然とした表情で見つめる視線の先には、誕生日ということでカウンセリング先の小児科の子供や後輩、ひいては別の看護部署の人から貰ったプレゼント。
余っていた紙袋を貰い、形が崩れないように詰めなおす。
まさかこの歳になって、ここまで祝われるのは想定外だった。
「…どうせ週末は本命とディナーか。世の中理不尽すぎんだろ。」
デスクに上半身を伏せ、不満を漏らす。
彼のノートパソコンの画面に映るデータの表は、ほとんど完成していた。
(…彼’女’ではないけどな)
そんな屁理屈をついてみる。
まあ、あながち間違いでもないが。
「…前に彼女できたとか、言ってなかったか?」
確か、2ヶ月前ぐらいだったはず。
「別れたよ。しかも、浮気された挙句に「つまらない男はもういいわ」って。」
ただの逆恨みかと思ったが、意外にもちゃんとした理由があった。
どうやら最初から金目当てだったらしい。
つまらない男云々は置いておくとして、一方的な浮気は流石に同情したくなる。
「そんな自己中女、こっちから願い下げだよ。大丈夫、お前は悪くねえ。」
側で話を聞いていた小泉先輩が慰めるように、森塚の髪をわしゃわしゃと撫でる。
こういう時のフォローは上手いし、先輩に任せておけば大丈夫だろう。
「今日は俺の奢りだ。飲んで全部忘れろ。」
「…先輩、一生付いていきます!」
和気藹々と店を決める二人を横目に、事務室のドアを開ける。
「贅沢に焼肉行くか?」
「いいっすね。」
(…俺も帰るか)
明日の予定を思い返すと口元が緩む。
周りに見られると、「惚気か」と突っ込まれそうだ。
変に絡まれる前に、退散してしまおう。
『誕生日おめでとう。今年は期待してる?』
(…何を想像してるんだ、うちの母親は)
お袋からのメールに苦笑しつつ、駅舎を目指す。
26回目の記念日は、きっと特別なものになる。
資料の作成が終わったのを確認し、タイムカードを押す。
友人関係が修復したことを知らせる凪のメールに安堵しながら、週末の予定についての返信を送った。
午後七時を過ぎた事務室から湧き出す疲労を訴える同僚達の声。
デスクの脇から荷物を外し、帰ろうと立ち上がる。
「シフト、これで大丈夫ですか?」
「サンキュー。やっぱ神崎に任せて正解だったわ。」
「…もとはと言えば、先輩が責任者だったはずなんですけど。」
基本的に出勤日は固定だが、昼間のカウンセリングをメインにするか、夜勤をメインにするかは個人に委ねられる。
本来ならその管理は部署の中での年長者がやるのが暗黙の了解になっていたところ、小泉先輩が俺を推薦したことで現在に至る訳だ。
「実際、新人からも評判良いからさ。俺がやった時、揉めただろ?」
連休前を思い出すと胃が痛い。
ゴールデンウイークであれなら、お盆期間はこれの比ではないだろう。
信頼されていると受け取っておくべきなのだろうか。
「…何だよ、その量は。」
森塚が呆然とした表情で見つめる視線の先には、誕生日ということでカウンセリング先の小児科の子供や後輩、ひいては別の看護部署の人から貰ったプレゼント。
余っていた紙袋を貰い、形が崩れないように詰めなおす。
まさかこの歳になって、ここまで祝われるのは想定外だった。
「…どうせ週末は本命とディナーか。世の中理不尽すぎんだろ。」
デスクに上半身を伏せ、不満を漏らす。
彼のノートパソコンの画面に映るデータの表は、ほとんど完成していた。
(…彼’女’ではないけどな)
そんな屁理屈をついてみる。
まあ、あながち間違いでもないが。
「…前に彼女できたとか、言ってなかったか?」
確か、2ヶ月前ぐらいだったはず。
「別れたよ。しかも、浮気された挙句に「つまらない男はもういいわ」って。」
ただの逆恨みかと思ったが、意外にもちゃんとした理由があった。
どうやら最初から金目当てだったらしい。
つまらない男云々は置いておくとして、一方的な浮気は流石に同情したくなる。
「そんな自己中女、こっちから願い下げだよ。大丈夫、お前は悪くねえ。」
側で話を聞いていた小泉先輩が慰めるように、森塚の髪をわしゃわしゃと撫でる。
こういう時のフォローは上手いし、先輩に任せておけば大丈夫だろう。
「今日は俺の奢りだ。飲んで全部忘れろ。」
「…先輩、一生付いていきます!」
和気藹々と店を決める二人を横目に、事務室のドアを開ける。
「贅沢に焼肉行くか?」
「いいっすね。」
(…俺も帰るか)
明日の予定を思い返すと口元が緩む。
周りに見られると、「惚気か」と突っ込まれそうだ。
変に絡まれる前に、退散してしまおう。
『誕生日おめでとう。今年は期待してる?』
(…何を想像してるんだ、うちの母親は)
お袋からのメールに苦笑しつつ、駅舎を目指す。
26回目の記念日は、きっと特別なものになる。
0
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

変態高校生♂〜俺、親友やめます!〜
ゆきみまんじゅう
BL
学校中の男子たちから、俺、狙われちゃいます!?
※この小説は『変態村♂〜俺、やられます!〜』の続編です。
いろいろあって、何とか村から脱出できた翔馬。
しかしまだ問題が残っていた。
その問題を解決しようとした結果、学校中の男子たちに身体を狙われてしまう事に。
果たして翔馬は、無事、平穏を取り戻せるのか?
また、恋の行方は如何に。


男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。



寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる