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彼の欲しい物
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「本日予定していたイベントにつきましては、悪天候のため一時中断とさせていただきます。
ご来場の皆様は係員の指示に従って、退場してください。」
「繰り返します。」と続けて、中断の旨を伝える放送が響き渡る。
突発的に起こったゲリラ豪雨、屋外ステージにいた観客が次々と中のフロアへと戻っていく。
窓の外では、滝のような勢いの雫が、水溜りをはね返していた。
「すげー雨だな。」
フードコートのテーブル席に龍一と腰掛ける。
昼を食べたら出ようとは思っていたが、生憎の雨。
念の為、折り畳みの傘は持っているにしろ耐久性に優れた物ではないから、すぐに壊れてしまうだろう。
幸い、一時間以内には止むと天気予報には表示されている。
なら、大人しくここで待っていた方がいい。
「喉乾いただろ?」
龍一が差し出したのは、透明なプラスチックカップ。
ストローで吸い上げるとエスプレッソのほろ苦さに、ふわふわに泡立てられたミルクフォームとキャラメルソースの香ばしさが広がった。
ほどよく氷で冷やされた甘さが、歩き疲れた身体に染みる。
「やっぱり、甘いの好きなんだな。」
下に溜まったキャラメルをストローを回して、マキアートに溶かす。
味覚が女子っぽいという自覚は前々から感じていた。
「…何か、紙ストローって苦手なんだよな。」
「確かに、時間経つとふやけるし。」
涼しい顔でブラックコーヒーを飲んでいるが、龍一は意外と照れやすい。
「イケメン」なんて、彼からすれば耳に胼胝ができるぐらい言われてそうなのに。
本人曰く、俺から言われるのは別らしいのだが。
(…龍一の欲しい物)
来月が誕生日であった事をふと思い出す。
社会人が貰って喜ぶ物と調べると、財布やら腕時計があったが、一端の高校生の財力では手が届かないどころか、龍一には既に間に合ってそうだ。
ここは、直接聞いてみるのもありかもしれない。
「…誕生日、欲しい物あるか?高すぎるのは、ちょっと無理だけど。」
「俺としてはもう十分貰ってるつもりなんだけどな。」
「それが一番困るんだよ。」
曖昧な回答に四苦八苦していると、龍一がくすぐったそうに笑った。
結局わからずじまいだ。
「…じゃあ、一日二人で過ごしてみたい。一緒に飯作ったり、映画見たりってのもいいかもな。」
こういうのでいいのかと首を傾げる。
俺自身、両親に誕生日を祝ってもらった記憶がないので想像が上手くできない。
去年の誕生日は、学校のロッカーに翔也達が用意した大量の菓子が詰め込まれていて、持って帰るのに苦労した憶えがあった。
「律も似たような事やってたなー。」
家族ぐるみで毎年ドッキリを仕掛けられていたのも、今となっては悪くなかったという。
「で、話ずれたけどそれでいいか?」
「…龍一がそう言うなら。」
「じゃあ、決まりな。」
俗に言うところの「家デート」
満足げに表情をほころばせる龍一に目を反らし、残りの飲料に手を伸ばす。
(龍一の好きだった料理とか聞いとかねえと)
厚い曇の隙間から光が漏れている。
ゲリラ豪雨は去ったようだ。
「天候が回復しましたので、イベントは午後2時より再開します。」
再開を告げるアナウンスに歓喜の声が沸く。
覗かせた青空にかかった七色の橋に、そっとシャッターを一枚切った。
ご来場の皆様は係員の指示に従って、退場してください。」
「繰り返します。」と続けて、中断の旨を伝える放送が響き渡る。
突発的に起こったゲリラ豪雨、屋外ステージにいた観客が次々と中のフロアへと戻っていく。
窓の外では、滝のような勢いの雫が、水溜りをはね返していた。
「すげー雨だな。」
フードコートのテーブル席に龍一と腰掛ける。
昼を食べたら出ようとは思っていたが、生憎の雨。
念の為、折り畳みの傘は持っているにしろ耐久性に優れた物ではないから、すぐに壊れてしまうだろう。
幸い、一時間以内には止むと天気予報には表示されている。
なら、大人しくここで待っていた方がいい。
「喉乾いただろ?」
龍一が差し出したのは、透明なプラスチックカップ。
ストローで吸い上げるとエスプレッソのほろ苦さに、ふわふわに泡立てられたミルクフォームとキャラメルソースの香ばしさが広がった。
ほどよく氷で冷やされた甘さが、歩き疲れた身体に染みる。
「やっぱり、甘いの好きなんだな。」
下に溜まったキャラメルをストローを回して、マキアートに溶かす。
味覚が女子っぽいという自覚は前々から感じていた。
「…何か、紙ストローって苦手なんだよな。」
「確かに、時間経つとふやけるし。」
涼しい顔でブラックコーヒーを飲んでいるが、龍一は意外と照れやすい。
「イケメン」なんて、彼からすれば耳に胼胝ができるぐらい言われてそうなのに。
本人曰く、俺から言われるのは別らしいのだが。
(…龍一の欲しい物)
来月が誕生日であった事をふと思い出す。
社会人が貰って喜ぶ物と調べると、財布やら腕時計があったが、一端の高校生の財力では手が届かないどころか、龍一には既に間に合ってそうだ。
ここは、直接聞いてみるのもありかもしれない。
「…誕生日、欲しい物あるか?高すぎるのは、ちょっと無理だけど。」
「俺としてはもう十分貰ってるつもりなんだけどな。」
「それが一番困るんだよ。」
曖昧な回答に四苦八苦していると、龍一がくすぐったそうに笑った。
結局わからずじまいだ。
「…じゃあ、一日二人で過ごしてみたい。一緒に飯作ったり、映画見たりってのもいいかもな。」
こういうのでいいのかと首を傾げる。
俺自身、両親に誕生日を祝ってもらった記憶がないので想像が上手くできない。
去年の誕生日は、学校のロッカーに翔也達が用意した大量の菓子が詰め込まれていて、持って帰るのに苦労した憶えがあった。
「律も似たような事やってたなー。」
家族ぐるみで毎年ドッキリを仕掛けられていたのも、今となっては悪くなかったという。
「で、話ずれたけどそれでいいか?」
「…龍一がそう言うなら。」
「じゃあ、決まりな。」
俗に言うところの「家デート」
満足げに表情をほころばせる龍一に目を反らし、残りの飲料に手を伸ばす。
(龍一の好きだった料理とか聞いとかねえと)
厚い曇の隙間から光が漏れている。
ゲリラ豪雨は去ったようだ。
「天候が回復しましたので、イベントは午後2時より再開します。」
再開を告げるアナウンスに歓喜の声が沸く。
覗かせた青空にかかった七色の橋に、そっとシャッターを一枚切った。
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