君を知るということ

気分転換

お互いが相手に気を遣うことによって、逆に拗れていく人間関係。
それに翻弄される凪は溜息を零しながら、大まかな事情を話した。
本人達には面と向かって伝えないが、友人を大切に思った故の行動だろう。

「頑張ってるな。でも、あんま気負いすぎるなよ。」

相談してくれるようになっただけ、付き合う前より頼りにしてもらえているのか。
頭を撫でるといつもなら抵抗してくるはずのに、今日は一段とおとなしい。

「…こういう事言えるの、龍一ぐらいだし。」

褒められるのに弱く、甘え下手。
手先とは対照的に不器用な性格、健気な姿は内に秘めた庇護欲をくすぐってくる。
少しでも買い物が気分転換になればいいのだが。

「で、どこの店行くんだ？」

お台場にあるアウトレットパーク。
約七万平方メートルの莫大な敷地に建てられた館内は、ファッション関連の店舗だけでも数十件を超える。
フロアマップを見ながら、事前に目星を付けていた場所へと向かう。

「何かお探しですか？」

「この子に似合うのを探してて。」

入った瞬間、飛びつかれるぐらいの勢いで店員が迫ってくる。
いつも行く店は完全に客任せというか、こんな風に接客されることはなかったので驚いた。

「最近だと、落ち着いた緑系が流行っているんですよ。高校生なら、こういうのはどうですか？」

俺も学生の流行には疎いので解説してもらえるのは助かる。
半袖シャツにゆったりとしたカーゴパンツ。
やはり凪には淡い色がよく似合う。

「…とりあえず、試着してみたけど。」

試着室から出ると気恥ずかしそうに鏡を見た。
多分「かっこいい」と褒めるべきなのだが、俺目線だと最終的な感想が全部「可愛い」になるのは何故だろうか。

「デニム系とかも合いそうですね。」

「さっきキャップ見つけたんでそっちも。」

すっかり意気投合した店員とあれこれと話していると、気づけば何パターンもの組み合わせが出来ていた。
今なら小さい頃に同じ事をしていたお袋の気持ちもわかる。
恋人を称賛されるとこっちまで嬉しくなるものだ。

「龍一、俺で遊んでるだろ。」

「試したい物が多くてな。凪はどれがいい？」

籠に入った衣服の山から選んだのはラフなスウェット。
それに合いそうなポーチを足して、会計を済まそうとすると袖を軽く掴まれた。

「…俺だけ不公平だろ。」

どうやら凪も俺用にいくつか選んできたらしい。
4つぐらい渡されたかと思うと、そのまま試着室に直行する。
オフホワイトのボタンダウンにミリタリージャケット。
シンプルながらもカジュアルで動きやすい。
病院だとどうしても決まった服装ばかりになるし、人にコーディネートしてもらう機会も少ないのもあり、思っていたよりも照れが出る。

「まだあるからな。」

さっきの仕返しと言わんばかりの量だ。
凪が楽しければそれで良しということにでもしておこう。