君を知るということ

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番外編 僕の弱さ

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「佐川はまだ、将来やりたいことが決まってないんだな。」

「…はい、文系の大学にはしようと思っているんですけど。」

六月始めの週にある三者面談、授業は午前中で終わり、14時~17時にかけて実施される。
担任の広尾先生が出したのは、先日提出した進路希望調査。
一応欄は全て埋めたが、大学名はなんとなく知っている私立の学校を書いただけだった。

「夏休みはオープンキャンパスも盛んだ。あの二人でも誘って行ってきたらどうだ?」

先生はクリアファイルからいくつかのパンフレットを僕に渡してくれた。
夏からは模試も増えるし、そろそろ将来について向き合わなければいけない。

「湊はどうする?」

「図書室で本返さなきゃだから、お母さんは先帰ってて。」

教室のドアで母親と別れ、廊下を歩いていると凪がこっちに近づいているのが見えた。
三者面談は一人あたり二十分程度。
次の人がやっている間に早めに来たのだろう。

「面談終わったのか?」

「うん。色々な学校のパンフレット貰ったんだ。夏休みにオープンキャンパス一緒に行かない?」

「翔也も誘うだろ?帰りに会うし、伝えとく。」

部活が終わった後、二人は一緒に帰ることが多い。(ほぼ毎日あるバスケ部に対して写真部は週二日だけど)
最初は翔也が遠回りするのを気にしていたが、今ではもう諦めたのか当然のルーティンのようになっている。
クールな優等生と天真爛漫で無邪気な少年、正反対な二人の関係。
まるで、漫画の世界みたいだ。

(…凪は、まだ知らないのかな)

中間試験の成績が返された日、僕はクラスメイトの女子から告白を受けた。
その子なりに好意を伝えてくれたのは嬉しかったけれど、「好きな人がいるんだ」と断った。
凪の態度からするに、告白については聞いてこなさそうだ。
それとも、あえて触れないだけなのか。

「凪君、お待たせ。」

少し立ち話をしていると、見知らぬ三十代ぐらいの男性がやって来る。
首を傾げる僕に凪が彼を紹介した。

「俺がお世話になってる黒田さん。今日は保護者代理で来てもらってる。」

「はじめまして。凪君の友達かな?」

「佐川湊です。」

黒田さんは「児童相談所」の職員で、役所の手続きやあらゆる契約の保証人として、寮で一人暮らしをしている凪のサポートをしているらしい。

「そろそろ時間じゃない?」

「じゃあ、また明日な。」

黒田さんと凪は、談笑しながら教室までの道を進んでいる。
事実上の後見人ということで、仲は良さそうだ。

(あんまり他の男の人と仲良くしてると、神崎さんに嫉妬されちゃうよ)

ちょっとだけ茶化して、図書室へ続く階段を下る。
神崎さんの話題を振ると、凪はいつも「…別に何もねえよ。」と簡単には教えてくれない。
それが照れ隠しなのはわかっていると同時に、羨ましくなる。

(…僕はどうしたいんだろ)

ずっと前から翔也が好きだった。
気持ちを明かすということは、過去を曝け出さなければならない。
小学校に入ってから弱虫な自分を変えたくて、学級委員にも立候補して誰からも好かれる生徒を演じ続けた。

偶然にも高校で果たした運命の再会。
「誰だっけ?」と言われるのが怖くて、結局僕は初対面のフリをした。
「会いたかったよ。」と伝えるべきだったのに。

一階フロアに響くホイッスル。
キュッ、キュッと床をこする音とドリブルの打撃がこだまする。
逃げるように反対方向へと踵を返す。
意気地なしな自分がいたたまれなかった。




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