君を知るということ

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歩む道

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「凪君は普段何してるの?」

他愛もない質問を投げかけられながら、和やかな雰囲気で進む食事。
不慣れなコース料理に右往左往する俺も、テーブルマナーについて教わったことで、最初よりはスムーズにナイフを動かせるようになった。

「じゃあ私達は向こうに行ってるから、また後でね。」

二つのグループに分かれ、それぞれの方向へと散っていく。
待ち合わせ場所は決めているので、食後は各々の自由行動とするそうだ。

(…気遣って二人にしてくれたのか)

「気張って疲れただろ?俺もこういうのは得意じゃなくてな。飯は美味かったけど。」

俺達が向かったのは、談話や休憩所として使われているラウンジを抜けた先にあるオープンテラスで、クッション性のソファーに座ると、涼やかな夜風が当たり、立派な庭園が見える。
龍一曰く「スーツは苦手」らしく、今はジャケットを脱ぎ、ネクタイも緩めている。
折角似合っているのに勿体ないと言えば、どんな反応をするだろうか。

「…あのさ、今日はありがと。」

ガーデンテーブル超しの距離が近づき、微かに触れる肌。
引っ込めようとすると、俺より固い手に握り返される。

「随分可愛い事をするな。」

以前から感じていたが、龍一の可愛いの基準が分からない。
いつもと違う服を着て、髪の毛も整えてもらって、少しは男らしく見えていると思っていたのに。
結局は何も変わらないのか。

『龍一の弱点知りたくないかい?』

さっきお父さんがこっそり俺に教えてくれた彼の弱点。
そっとなぞるように背中に指を添わせる。

「…ちょっ、それ止めろ!」

「さっきの仕返し。」

想像以上に効いている。
のけぞる反応が面白くて、つい繰り返しやってしまった。
それが、後悔を生むとも知らずに。

「親父の入れ知恵か?」

右手を掴まれ、龍一の胸元へと引きずり込まれる。
程よく吹き付けた爽やかなシトラスの匂いの香水と、耳元で囁かれる落ち着いた低音が、心臓の鼓動を加速させた。
ラグジュアリーなホテルという場がより緊張感を高めていく。

「大人を煽るとどうなるか、思い知らせてやるよ。」

強引に口を塞がれたかと思うと、そのまま力強い両腕が俺を閉じ込めて離さない。
全身に甘い毒が染み渡るような快楽、掻き立てられる熱と欲望。
人気のない外だから良かったが、もし誰かに見られていたら。
息苦しいのに、体が刺激を求めてしまう。

「…苦しいって。」

(…腰抜けそう)

風になびく新緑の葉がふわりと落ちた。
優しい温もりに俺の心が拒むことなく溶かされる。

「なんか余計なこと考えてんかもしれねえけど、凪はもう独りじゃない。
たとえ反対されたとしても俺はずっと傍にいるつもりだ。」

彼はどこまで見透かしているのか。
釣り合わないという焦りも安堵へと変えてしまう。

「…そんなの、分かってる。好きじゃなきゃさせねえよ。」

「お前、意識しない方が素直だな。」

(…そういえば前も)

まだ付き合っていなかった頃、龍一の不安を拭おうとかけた言葉があった。
今だけはあの時みたいに素直な自分になれそうだ。

「今度、買い物にでも行こうぜ。夏服とか必要だろ?」

「…いや、自分で買えるから。」

少々過保護というか、俺ばかり色々してもらっていては悪い。

「俺が選んだのを着てほしいっていうか、親父よりはセンスいいと思う。」

実は今着用しているシャツやベストはご両親から借りた物で、自分の居ない場所で仕立てられたのが不服だったらしい。
対抗心を燃やす大人げない一面、これで許せる俺も大概だ。
自分だけが知っている彼の姿を見れるのは楽しみだった。











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