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家族
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「城」というのが最初にこの家に抱いた印象だった。
白い外壁に、凝った細工で装飾された鉄製の門。
玄関をくぐると綺麗に清掃された廊下が延びていて、自分の目が肥えているとは思わないが、それでも絨毯や家具が高品質であることは分かる。
龍一の両親が結婚した際に建てたらしく、彼にはずっと当たり前の環境だったのだろう。
今は二階にある来客用の洋室で紅茶をご馳走になっていた。
「…俺は親とほどんど縁は切っていて、龍一には何度も助けてもらいました。」
挨拶は順調に進み、本当に何の文句もなく俺は受け入れられた。
自分の両親とは半絶縁状態で、もし普通の環境で育てられたとしても、こんな風に寛容に接してもらえていたかと聞かれれば即答出来ない。
「なら、私達が凪君の家族になってもいいかしら?」
止まったはずの涙が再びこみ上げそうになる。
熱を持った目頭を押さえつけ、頷きで肯定の意を示す。
背中をさする手とは別に、レースのハンカチが当てられた。
「暗い話はこれでお終い。良い物持ってきてあげるわね。」
母親はそう言うと踵を返して、三階へと行ってしまった。
翻したセミロングの黒髪とくっきりとした顔立ち。
眼差しの暖かさは龍一とそっくりだ。
焦る気持ちは溶けていくように無くなり、俺の知らなかった「家族」の形が目の前にある。
「なんかテンションが面倒で悪い。凪を連れて来るって聞いて、ずっとあんな調子なんだよ。」
「俺の方こそ気遣ってもらって、お母さんも美人だし。」
「そうか?もう今年で五十」
「龍一、何か言ったかしら?」
女性に対して年齢をばらすような行為はしてはいけない。
後方にある闇のオーラを龍一も感じ取ったのか、「…いえ、滅相もございません。」と紡ぎかけた言葉を区切る。
大人な彼も親を前にすると形無しだ。
「アルバム?」
「赤ちゃんの時からね。小さい頃は可愛いかったのよ。」
20枚ほどが収まったアルバムには幼稚園、小中高、大学入学まで時系列できちんと入っていて両親の確かな愛情が感じられた。
学ラン姿の龍一の隣にはピースサインで笑う律さんがいる。
『龍一をよろしくな』
あの夢以来、律さんには会えていない。
託された望みに、俺は応えられているのだろうか。
「凪君の写真も見たいわ。」
「…自分のはあんまりなくて。」
「俺の方にあるぞ。」
龍一がスマホのカメラアプリを起動させ、ファイルを開く。
一緒に撮ったツーショットはともかくとして、俺個人の写真なんていつ撮ったのか。
(…そういえば、前に見せたって)
嫌な予感はつくづく的中する。
「可愛い!」
画面をスライドさせながら母親が歓喜の声を上げた。
そっと覗くと写っていたのは俺の寝顔。
しかも無意識に龍一の肩にもたれかかっている。
「起きてる時もこのぐらい甘えてくれていいんだけどな。」
「…いつ撮ったんだよ。」
俺が抗議すると「黒歴史晒されるよりマシだろ?」とカウンターを打たれた。
失敗作のケーキに吹き出してしまったのは事実だが。
「親父、もうすぐ着くって。」
アルバムとスマホを肴に思い出話を咲かせていると、不意に来たメッセージの知らせが画面に写る。
「準備するか。」
「…準備って何の?」
「それは後でのお楽しみ。」
流されるままに荷物をまとめ、そのまま引っ張られるように部屋の外へと連れ出されるのであった。
白い外壁に、凝った細工で装飾された鉄製の門。
玄関をくぐると綺麗に清掃された廊下が延びていて、自分の目が肥えているとは思わないが、それでも絨毯や家具が高品質であることは分かる。
龍一の両親が結婚した際に建てたらしく、彼にはずっと当たり前の環境だったのだろう。
今は二階にある来客用の洋室で紅茶をご馳走になっていた。
「…俺は親とほどんど縁は切っていて、龍一には何度も助けてもらいました。」
挨拶は順調に進み、本当に何の文句もなく俺は受け入れられた。
自分の両親とは半絶縁状態で、もし普通の環境で育てられたとしても、こんな風に寛容に接してもらえていたかと聞かれれば即答出来ない。
「なら、私達が凪君の家族になってもいいかしら?」
止まったはずの涙が再びこみ上げそうになる。
熱を持った目頭を押さえつけ、頷きで肯定の意を示す。
背中をさする手とは別に、レースのハンカチが当てられた。
「暗い話はこれでお終い。良い物持ってきてあげるわね。」
母親はそう言うと踵を返して、三階へと行ってしまった。
翻したセミロングの黒髪とくっきりとした顔立ち。
眼差しの暖かさは龍一とそっくりだ。
焦る気持ちは溶けていくように無くなり、俺の知らなかった「家族」の形が目の前にある。
「なんかテンションが面倒で悪い。凪を連れて来るって聞いて、ずっとあんな調子なんだよ。」
「俺の方こそ気遣ってもらって、お母さんも美人だし。」
「そうか?もう今年で五十」
「龍一、何か言ったかしら?」
女性に対して年齢をばらすような行為はしてはいけない。
後方にある闇のオーラを龍一も感じ取ったのか、「…いえ、滅相もございません。」と紡ぎかけた言葉を区切る。
大人な彼も親を前にすると形無しだ。
「アルバム?」
「赤ちゃんの時からね。小さい頃は可愛いかったのよ。」
20枚ほどが収まったアルバムには幼稚園、小中高、大学入学まで時系列できちんと入っていて両親の確かな愛情が感じられた。
学ラン姿の龍一の隣にはピースサインで笑う律さんがいる。
『龍一をよろしくな』
あの夢以来、律さんには会えていない。
託された望みに、俺は応えられているのだろうか。
「凪君の写真も見たいわ。」
「…自分のはあんまりなくて。」
「俺の方にあるぞ。」
龍一がスマホのカメラアプリを起動させ、ファイルを開く。
一緒に撮ったツーショットはともかくとして、俺個人の写真なんていつ撮ったのか。
(…そういえば、前に見せたって)
嫌な予感はつくづく的中する。
「可愛い!」
画面をスライドさせながら母親が歓喜の声を上げた。
そっと覗くと写っていたのは俺の寝顔。
しかも無意識に龍一の肩にもたれかかっている。
「起きてる時もこのぐらい甘えてくれていいんだけどな。」
「…いつ撮ったんだよ。」
俺が抗議すると「黒歴史晒されるよりマシだろ?」とカウンターを打たれた。
失敗作のケーキに吹き出してしまったのは事実だが。
「親父、もうすぐ着くって。」
アルバムとスマホを肴に思い出話を咲かせていると、不意に来たメッセージの知らせが画面に写る。
「準備するか。」
「…準備って何の?」
「それは後でのお楽しみ。」
流されるままに荷物をまとめ、そのまま引っ張られるように部屋の外へと連れ出されるのであった。
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