君を知るということ

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作戦会議

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「いい景色だな。俺も温泉行きてー。」

「勇利先輩は一人で江ノ島まで行ったんですか?」

「夏休み入ったら遠出は無理だし、ゴールデンウイークは最後のチャンスだったからな。」

「受験とか考えたくねー。」と不満を漏らしながら先輩は暗室から写真の束を持って来る。
フィルムを現像するにはスキャナーという機械で読み込んだり、遮光カーテンで区切った専用の部屋が必要であった。
一眼レフで撮影したコンクールで出品する物とは別に、インスタントカメラ特有の小さな四角形の画像が並ぶ。
現像に時間はかかるが、レトロ感を気に入っているらしくチェキ用のアルバムを満足そうに見せた。

「そろそろ中間試験も近いですけど、大丈夫ですか?」

「凪に教えてもらうから平気。」

「…三年の範囲は無理ですよ。」

他の部員は既に帰宅していて、教室に残っているのは俺と部長の二人だけ。
最初は「部長」と呼んでいたのだが、唯一の男子部員同士仲良くしてほしいということで以降は「勇利先輩」と呼ばせてもらっている。
下校時刻を知らせるチャイムが鳴り、片づけを急ぐ。
職員室に鍵を返して昇降口まで一緒に帰るのが日課になっていた。

「お土産よかったら、貰ってください。」

「ありがとな。俺も明日持って来るわ。」

「お疲れ様でした。」と温泉饅頭を渡してから先輩と別れ、靴を履き替えていると後方から思いっきり人がのしかかってくる。
肩から下げたバスケ部指定のバックが目印だ。

「お疲れー。今帰りか?」

距離感の近さは慣れてきたが、荷物の重量と汗で湿った身体で乗られるのは少々辛い。
背後には「翔也先輩!」これまた元気の良い後輩と思われる生徒が手を振った。
持ち前の明るさで後輩とも打ち解けているようで、笑顔で挨拶を返している。
このコミュ力の高さだけは尊敬したい。

「お前の家、あっちだろ?」

自宅とは逆方向に進む翔也に理由を尋ねる。

「バス停まで送ってくよ。最近不審者が出たって先生も言ってただろ?」

「…別に女子じゃねえし。」

「神崎さんに頼まれてんだよ、凪のことをよろしくって。誘拐とかされそうになったら、俺が守ってやる。」

龍一の名前を出されては断れない。
旅行の帰りも「夜道を一人で帰すのは心配だから」と最寄り駅まで送ってもらった。
自然にこういう事が出来るからこそ、周囲にモテるのだろうか。

「…実は相談があるんだけど。」

珍しく真面目な表情で話を切り出す。
原因は三日前、二人で映画に行った日にあるという。

「俺の行きたい場所ばっかで、湊のこと振り回して迷惑だったかなって。…俺のわがままだけっていうか、…あいつは楽しかったって言ってくれたけど。」

(…ほぼ人助けだったもんな。)

湊は気にしてない様子だったが、翔也は自分に憤りを感じている。
その場では気づけなかったが、振り返ると自分勝手だったと溜息をつく。
どこか恥ずかしがるような仕草に過った節があった。
自覚こそはまだ無いが。

「…それで、ちゃんとお礼をするきっかけが欲しくて、手作りの物がいいってネットで見たんだ。
凪も神崎さんに花束あげただろ?」

「…そうだけど。」

「週末、一緒に菓子作らねえ?」

突然の提案に驚きの声が上がる。
こいつは一体どのネット記事を読んだら、その結論に至るのか。
更に俺を惑わせる回答が続く。

「神崎さんだって手作りのお菓子貰ったら嬉しいかなって。」

「…お前一人じゃ心配だし、それぐらいなら付き合ってやるよ。」

龍一の実家にお邪魔する日に持っていったら喜ばれるだろうか。
それの練習には良いかもしれない。

「やっぱり凪は優しいな。」

馬鹿だけど、無意識に好意を持たせる才能。
湊がこいつに惚れたのも今なら分かる気がした。


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