61 / 88
番外編 君の隣
しおりを挟む
「遅くなってごめんな。」
迷子センターまで移動して、係の人に探してもらったおかげで無事に母親と再会させることが出来た。
迎えが来るまでは少しでも退屈しないよう、翔也は寄り添い続け、事が片づいた頃にはすっかり日が暮れてしまった。
申し訳なさそうに目尻を下げる彼はきっと、せっかくの時間を奪ってしまったとでも考えているのだろう。
(君が放っておく方がおかしいよ。)
「翔也は何も悪くないよ。見つかってよかったね。」
「…でも」
「じゃあ、一個だけ付き合ってくれる?」と礼代わりに提案してみる。
最後にデートっぽい事をしてみたいと思ったからだ。
「こんな場所あったんだな!」
「最近リニューアルされたんだって。」
ショッピングモールの最上階を超えた先に造られた敷地には、緑豊かな庭園が広がっていて、澄んだ空気が湿気が増えたこの季節に心地良い風をもたらしてくれる。
昔は百貨店やデパートの屋上には遊園地があったらしく、それをアイデアとして踏襲したそうだ。
木製のベンチブランコに揺られながら「ブランコなんて小学生以来だな。」と少し懐かしい気分に浸っていた。
「俺はよく靴飛ばしとかやったな。」
さっきまでは「頼りになるお兄さん」だったのに、すっかりいつも通りの翔也だ。
僕になくなってしまった無邪気さが眩しい。
ずっとそのままでいて欲しいと思うのは傲慢なのだろうか。
「…なんか、二人ってのもいいな。迷子も湊のおかげで見つかったようなもんだし、今日のお前かっこよかった。」
漏れた言葉にドキリと脈を打つ。
普段から大勢に囲まれ、賑やかな雰囲気を好む彼の口から聞けるとは思っていなかった。
「僕は翔也が誘ってくれたのが嬉しかったんだ。」
偶然余ったチケットというきっかけをくれたのは凪で、数ある友人から僕を選んだのもまぐれかもしれない。
だとしても、その機会を活かすのは自分次第。
今日を二人で過ごせただけでも、十分に意味があったと言えるだろう。
いつか、君に気持ちが通じた時に結果が出れば。
「…凪が神崎さんとどっか行く日とかはさ、また一緒に遊んでくれる?」
「ああ!」
声を弾ませ頷く翔也は勢いよく立ち上がり、隣のブランコへと駆け出した。
ベンチの椅子ではない、公園で見かけるような鎖が付いた遊具に人が居ない事を確認し、飛び乗る。
(…あれって)
「湊ばっかいいとこ見せてずるいんだよ。」
前後にブランコを漕ぎ続け、鎖の軋む音が鳴る。
ふわりと宙に舞った身体はやがて重力に引き寄せられて地面へと向かう。
膝のクッションで着地するとピースサインで成功を示す。
昔、落ち込んでいた僕を慰めるために同じ事をして、幼稚園の先生に怒られていた。
次は僕が君を驚かせる番だ。
「見てて。翔也より遠くに飛ぶから。」
「負けた方がアイス奢りな。」
(…舐めないでよ)
翔也の隣に立てるならどこまでも飛んでみせる。
根拠のない自信に満ち溢れた自分に内心「馬鹿だな」と思いつつも、ブランコの勢いは止まらなかった。
迷子センターまで移動して、係の人に探してもらったおかげで無事に母親と再会させることが出来た。
迎えが来るまでは少しでも退屈しないよう、翔也は寄り添い続け、事が片づいた頃にはすっかり日が暮れてしまった。
申し訳なさそうに目尻を下げる彼はきっと、せっかくの時間を奪ってしまったとでも考えているのだろう。
(君が放っておく方がおかしいよ。)
「翔也は何も悪くないよ。見つかってよかったね。」
「…でも」
「じゃあ、一個だけ付き合ってくれる?」と礼代わりに提案してみる。
最後にデートっぽい事をしてみたいと思ったからだ。
「こんな場所あったんだな!」
「最近リニューアルされたんだって。」
ショッピングモールの最上階を超えた先に造られた敷地には、緑豊かな庭園が広がっていて、澄んだ空気が湿気が増えたこの季節に心地良い風をもたらしてくれる。
昔は百貨店やデパートの屋上には遊園地があったらしく、それをアイデアとして踏襲したそうだ。
木製のベンチブランコに揺られながら「ブランコなんて小学生以来だな。」と少し懐かしい気分に浸っていた。
「俺はよく靴飛ばしとかやったな。」
さっきまでは「頼りになるお兄さん」だったのに、すっかりいつも通りの翔也だ。
僕になくなってしまった無邪気さが眩しい。
ずっとそのままでいて欲しいと思うのは傲慢なのだろうか。
「…なんか、二人ってのもいいな。迷子も湊のおかげで見つかったようなもんだし、今日のお前かっこよかった。」
漏れた言葉にドキリと脈を打つ。
普段から大勢に囲まれ、賑やかな雰囲気を好む彼の口から聞けるとは思っていなかった。
「僕は翔也が誘ってくれたのが嬉しかったんだ。」
偶然余ったチケットというきっかけをくれたのは凪で、数ある友人から僕を選んだのもまぐれかもしれない。
だとしても、その機会を活かすのは自分次第。
今日を二人で過ごせただけでも、十分に意味があったと言えるだろう。
いつか、君に気持ちが通じた時に結果が出れば。
「…凪が神崎さんとどっか行く日とかはさ、また一緒に遊んでくれる?」
「ああ!」
声を弾ませ頷く翔也は勢いよく立ち上がり、隣のブランコへと駆け出した。
ベンチの椅子ではない、公園で見かけるような鎖が付いた遊具に人が居ない事を確認し、飛び乗る。
(…あれって)
「湊ばっかいいとこ見せてずるいんだよ。」
前後にブランコを漕ぎ続け、鎖の軋む音が鳴る。
ふわりと宙に舞った身体はやがて重力に引き寄せられて地面へと向かう。
膝のクッションで着地するとピースサインで成功を示す。
昔、落ち込んでいた僕を慰めるために同じ事をして、幼稚園の先生に怒られていた。
次は僕が君を驚かせる番だ。
「見てて。翔也より遠くに飛ぶから。」
「負けた方がアイス奢りな。」
(…舐めないでよ)
翔也の隣に立てるならどこまでも飛んでみせる。
根拠のない自信に満ち溢れた自分に内心「馬鹿だな」と思いつつも、ブランコの勢いは止まらなかった。
0
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

変態高校生♂〜俺、親友やめます!〜
ゆきみまんじゅう
BL
学校中の男子たちから、俺、狙われちゃいます!?
※この小説は『変態村♂〜俺、やられます!〜』の続編です。
いろいろあって、何とか村から脱出できた翔馬。
しかしまだ問題が残っていた。
その問題を解決しようとした結果、学校中の男子たちに身体を狙われてしまう事に。
果たして翔馬は、無事、平穏を取り戻せるのか?
また、恋の行方は如何に。


男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。



寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる