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願い
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窓から木漏れ日がそっと差し込み、雀のさえずりが聞こえる。
俺が目を覚ますと、隣では龍一が穏やかな寝息を立てていた。
普段は六時より前には起きているらしいから、それだけ疲れているのだろう。
七時にセットしたスマホのアラームを切り、大きく欠神をする。
(…よく寝てる)
前髪が下ろされ、はだけた浴衣からは左肩と鎖骨が見えている。
こういうのを「大人の色気」というのだろうか。
俺には無い男性の香に、思わず惹かれてしまう。
(…起きないよな)
そっと身を乗り出して顔を近づける。
頬に触れるだけのキス、いつもの仕返しとでも言い訳しておく。
「お布団はそのままで大丈夫です。」と昨晩仲居さんから伝言を預かっていたから、特に畳まず寝癖を直そうと、洗面所に移動した。
「…おはよ。」
着替えを終えた頃、龍一が寝室から姿を現す。
ちゃんと拭き取れていないのか、洗いたての顔は若干濡れていた。
「寝れた?」
空いたタオルで残った水分を拭ってやった。
まだ意識がまどろみの中にあるようで、「悪いな。アラーム付けたのに。」と目を擦りながら呟く。
「いいって。疲れてんだろ?」
「寝てて得した事もあったしな。」
軽いリップ音と共に柔らかい感触が肌をなぞる。
さっきと同じ場所、体の血の気が引いていくような嫌な予感。
不敵な笑みを浮かべる龍一がまさに答えだ。
「次は起きてる時に頼むな。」
抗議しようとすると「朝食をお持ちしました。」と女将さんが入ってきた。
このタイミングの悪さはどうにかならないのか。
女将さんは何も悪くないので、とりあえず席につく。
米を中心とした和食の朝餉も非常に美味であった。
「この後のご予定はお決まりですか?」
「神社に行こうかと。」
「では晴れている朝のうちに行っておいた方がいいと思います。
きっと桜が綺麗ですよ。」
午後からは生憎の雨模様。
外を歩くには確かに午前中が良さそうだ。
昨日訪れた湯畑から徒歩五分、急坂の階段を上ると「白根神社」の看板が見えた。
草津有数のパワースポット、日本武尊(ヤマトタケルノミコト)が奉られているらしい。
都心より遅咲きの桜街道を進み、手や口を手水舎で清め、賽銭を投げてから「二礼二拍手一礼」をする。
ちなみにおみくじの結果は二人とも「中吉」
何とも言えない中身に苦笑しながら枝に結ぶ。
「何をお願いしたんだ?」
「…身長が、170超えますようにとか。」
「俺は気に入っているんだけどな、この感じ。」
本当の願いは別にあるが、それは俺の中だけに留めておく。
実際、龍一の背を超えてみたい願望はあったが。
「龍一こそ、何にしたんだ?」
「健康だな。最近肩凝り酷いから。」
「まだ二十代だろ?」と突っ込むと、「後は三十路に向かって老いるだけだ。身体だけでも高校生に戻りてえよ。」と愚痴を零す。
俺が早く大人になりたいように、大人も子供に憧れを抱くのだろうか。
「今度、家に来てくれないか?」
山を下りながら龍一が言う。
「家?」
「実家の方な。お袋がお前に会いたいってうるさくて。」
「…ご両親に紹介したのか?!」
突然の事態に頭が追いつかない。
未成年で男、認めてもらえているのか不安が襲う。
「俺とお袋は好みが似てるんだよ。凪の写真見せたら「こんな綺麗な子が貰ってくれるなんて、大歓迎よ。龍一にはもったないぐらい。」ってすっかり乗り気だから、そんな気負わなくて大丈夫だ。」
「夫婦揃って細かい事は気にしねえし。」とのことで、性別も細かい事として片づけて仕舞えるのは、流石は龍一のご両親だ。
あまりにもあっさりとしていて拍子抜けだった。
図らずしも願いは一つの形で叶っている。
「俺としては凪が取られねえか不安だ。誰にもやるつもりもねえけど。」
(…どっちに似たんだろ?)
きっと両親も端麗な顔立ちをしているはず。
そんな人達に認めてもらえているのは純粋に嬉しかった。
俺が目を覚ますと、隣では龍一が穏やかな寝息を立てていた。
普段は六時より前には起きているらしいから、それだけ疲れているのだろう。
七時にセットしたスマホのアラームを切り、大きく欠神をする。
(…よく寝てる)
前髪が下ろされ、はだけた浴衣からは左肩と鎖骨が見えている。
こういうのを「大人の色気」というのだろうか。
俺には無い男性の香に、思わず惹かれてしまう。
(…起きないよな)
そっと身を乗り出して顔を近づける。
頬に触れるだけのキス、いつもの仕返しとでも言い訳しておく。
「お布団はそのままで大丈夫です。」と昨晩仲居さんから伝言を預かっていたから、特に畳まず寝癖を直そうと、洗面所に移動した。
「…おはよ。」
着替えを終えた頃、龍一が寝室から姿を現す。
ちゃんと拭き取れていないのか、洗いたての顔は若干濡れていた。
「寝れた?」
空いたタオルで残った水分を拭ってやった。
まだ意識がまどろみの中にあるようで、「悪いな。アラーム付けたのに。」と目を擦りながら呟く。
「いいって。疲れてんだろ?」
「寝てて得した事もあったしな。」
軽いリップ音と共に柔らかい感触が肌をなぞる。
さっきと同じ場所、体の血の気が引いていくような嫌な予感。
不敵な笑みを浮かべる龍一がまさに答えだ。
「次は起きてる時に頼むな。」
抗議しようとすると「朝食をお持ちしました。」と女将さんが入ってきた。
このタイミングの悪さはどうにかならないのか。
女将さんは何も悪くないので、とりあえず席につく。
米を中心とした和食の朝餉も非常に美味であった。
「この後のご予定はお決まりですか?」
「神社に行こうかと。」
「では晴れている朝のうちに行っておいた方がいいと思います。
きっと桜が綺麗ですよ。」
午後からは生憎の雨模様。
外を歩くには確かに午前中が良さそうだ。
昨日訪れた湯畑から徒歩五分、急坂の階段を上ると「白根神社」の看板が見えた。
草津有数のパワースポット、日本武尊(ヤマトタケルノミコト)が奉られているらしい。
都心より遅咲きの桜街道を進み、手や口を手水舎で清め、賽銭を投げてから「二礼二拍手一礼」をする。
ちなみにおみくじの結果は二人とも「中吉」
何とも言えない中身に苦笑しながら枝に結ぶ。
「何をお願いしたんだ?」
「…身長が、170超えますようにとか。」
「俺は気に入っているんだけどな、この感じ。」
本当の願いは別にあるが、それは俺の中だけに留めておく。
実際、龍一の背を超えてみたい願望はあったが。
「龍一こそ、何にしたんだ?」
「健康だな。最近肩凝り酷いから。」
「まだ二十代だろ?」と突っ込むと、「後は三十路に向かって老いるだけだ。身体だけでも高校生に戻りてえよ。」と愚痴を零す。
俺が早く大人になりたいように、大人も子供に憧れを抱くのだろうか。
「今度、家に来てくれないか?」
山を下りながら龍一が言う。
「家?」
「実家の方な。お袋がお前に会いたいってうるさくて。」
「…ご両親に紹介したのか?!」
突然の事態に頭が追いつかない。
未成年で男、認めてもらえているのか不安が襲う。
「俺とお袋は好みが似てるんだよ。凪の写真見せたら「こんな綺麗な子が貰ってくれるなんて、大歓迎よ。龍一にはもったないぐらい。」ってすっかり乗り気だから、そんな気負わなくて大丈夫だ。」
「夫婦揃って細かい事は気にしねえし。」とのことで、性別も細かい事として片づけて仕舞えるのは、流石は龍一のご両親だ。
あまりにもあっさりとしていて拍子抜けだった。
図らずしも願いは一つの形で叶っている。
「俺としては凪が取られねえか不安だ。誰にもやるつもりもねえけど。」
(…どっちに似たんだろ?)
きっと両親も端麗な顔立ちをしているはず。
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