君を知るということ

レコード

文字の大きさ
上 下
59 / 88

番外編 二度目の初恋 ※湊視点です

しおりを挟む
「面白かったな。特に、最後の必殺技!」

凪に貰った映画館の限定チケット、約二時間の上映を終えて感想を語る翔也は、未だ興奮冷めやらぬと言わんばかりの状態だ。
男同士で行くにはやっぱり泣ける恋愛ストーリーより、アクションファンタジーの方がいい。
人気アニメの劇場版グッズを買ってから、シアターを後にする。

「この後どうする?」

「買い物でもしようか。翔也は行きたいお店ある?」

ショッピングモールには時間を潰せそうな所が沢山ある。
地下からエスカレーターで三階まで上がり、向かったのはスポーツ用品店。
ウェアやシューズはもちろんのこと、アウトドア用のバックなども取り揃えていた。

「新しいバッシュ探しててさ。」

そう言いながらお目当てのサイズを手に取り、靴を履き替える。
バッシュというのは「バスケットシューズ」の略称で、毎日使っていると数ヶ月で寿命が尽きてしまうらしい。
黒のラインが入った鮮やかな色が眩しく反射した。

(…変わらないね、君は)

太陽のような輝き、昔から彼は赤色がよく似合う。
物語の主人公に憧れるのは今も同じなのだろうか。

「…通知?」

「凪から写真が届いてたよ。」

スマホをタップしてメールアプリを開くと温泉街の画像が出てきた。
二人は草津に旅行に行っているから、その風景だろう。
写真部に所属しているだけあって撮り慣れている。
一つ文句があるとすれば、絶対撮ってるであろう神崎さんとのツーショットの存在。
まあ、あのツンデレ君が送ってくれることは多分ないだろうけど。

「凪って神崎さんの話になるとムキになっちゃってさ、結構可愛いところあるんだよな。
前より笑ってくれるようになったし。」

いつも元気が取り柄の翔也でも、凪が急に入院したと知った時には落ち込んでいた。
僕に振り向いてほしい、君の一番でありたい。
そんな嫉妬が心の奥で邪魔をする。

(…あれ?)

バッシュを箱にしまったのは覚えている。
考え事をしている間に見失ったようだ。
翔也を探そうと辺りを一瞥すると、店の外の子供に話しかけていた。

「急にいなくなったから心配したよ。」

「ごめん。この子が泣いてたから。」

「迷子かな?」

四歳ぐらいと思われる幼児に話を聞くと、店を移動する道中で母親とはぐれたという。
ショッピングモールは広いし、むやみに動いてしまえば小さい子は来た道が分からなくても仕方ないだろう。

「まずは迷子センターに行こう。確か、一階にあったと思うから。」

「分かった。」

「本当に一人にしておけないよ。もう少しで迷子が二人になるところだったんだからね。」

「そこが君の良さだけど。」付け足して窘める。
面倒だと思わず、手を差し伸べる姿にかつての僕も助けられた。
子供を泣き止ませ、「ママはすぐ見つかるよ。あの兄ちゃんと一緒に探そうな。」と僅かな間に心を掴む。

(…憶えてないよね、僕は変わっちゃったから。)

今よりもひ弱で、女の子っぽい見た目をしていた僕は幼稚園の頃、いじめっ子達にとってまさしく「ターゲット」だった。
言い返せなくて縮こまっていると、「ヒーロー参上!」と大きな声で駆けつけてくれた少年がいた。
当時流行っていた特撮番組の真似だったけれど、その時の僕にはとても頼もしくて、初めての恋心を知った瞬間でもあった。

あれから、十年以上の時を経て

「よし、行こうか。」

僕は二度目の恋を君にしたんだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

どうして、こうなった?

yoyo
BL
新社会として入社した会社の上司に嫌がらせをされて、久しぶりに会った友達の家で、おねしょしてしまう話です。

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

処理中です...