君を知るということ

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復帰

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「しばらく入院してたんですが、今日から復帰になりました。
改めて、よろしくお願いします。」

新学期が始まり、久しぶりに登校した学校での自己紹介。
担任が去年と同じせいか、空気感にあまり変わりはない。

「ちょっと堅苦し過ぎないか?転校生じゃあるまいし。」

広尾先生が野次を飛ばすと、教室からは笑いの渦が起こる。
同時に「おかえり!」や「よろしくな」などクラスメイト達からの歓迎の声が聞こえた。
半年以上の休学で、奇異の目で見られることを危惧していたが、その心配は無用だったようだ。

新学期初日とはいっても、始業式とホームルームぐらいしかやることはない。
プリント類を配り終えれば解散だ。
荷物をまとめてから、一度職員室に寄る。

「俺の方から顧問の先生に渡しておくな。」

「ありがとうございます。」

入部届に担任からの印鑑を貰えば、手続きは完了する。

「足は大丈夫か?」

「はい。体育は見学するかもしれないですけど。」

激しい運動でなければ、特に制限はしないと主治医からも言われた。
先生はそれを聞くと「よかった。」と胸をなでおろす。

「雰囲気変わったよな。」

「…そうですか?」

「前はもっと寄せ付けない感じがあったけど、柔らかくなった。俺は今の千歳の方がずっといいと思う。」

職員室を抜け、昇降口に向かう。
大分話し込んでしまったせいか、辺りの生徒はほとんど帰っている。
ある二人を除けば。

「わざわざ待たなくても。」

「一緒に帰りたいんだよ。」

さっき「門で待ってる」の構文のメッセージが届いていた。
寮住まいになってから、帰る方向も変わったし、待つ必要など無いはずなのだが。

「何か話してたの?」

「部活について聞いてきた。」

「部活入んの?」

意外そうに尋ねる二人に「写真部」と答えた。
週二日程度の活動で、撮影会や展示、コンクールへの出品をしている。
他に、校内新聞の制作もしているらしい。
アルバイトを始めたとしても、勉強との両立が出来そうだと思い入部を顧問に伝えたら、「廃部になりそうだったから助かるよ。」と感謝された。

「クラスの奴から聞いたんだけど、先週凪が背の高いイケメンと水族館に来てたって。
兄貴か親戚の人か?」

どこまで見られてしまったのだろうか。
少しの間とはいえ、手まで繋いでた訳だしばれていないか心配だ。

「翔也の知り合いにいない?背が高くて、かっこよくて凪と仲良しな人。」

湊があからさまにニヤニヤしているのが鼻につく。
翔也が少し考えてからハッとしたように「…神崎さんだ!」と言いかけたところにすかさず、「デカい声を出すな」と遮ってやった。

(…見られてたとは)

出来るなら、その目撃者の記憶を消してしまいたい。
落胆する俺に、湊は「もう知ってるよ。二人が付き合ってることぐらい。」耳打ちでさらに事実を突きつける。

「逆に何で二人とも気づかないのか、不思議でしょうがなかったよ。」

「お前の片思いの相手もな。」

やられっぱなしにはさせまいと、仕返しの意味も込めて言う。
目の前の純真無垢な奴は、クエスチョンマークを浮かべているので「世間話だ」と誤魔化す。

「デートはどうだった?キスぐらいはしたの?」

見事に地雷を踏む発言、こいつはエスパーの類なのか。
これ以上恥を晒したくはなくて、軽く小突いて黙らせる。

「耳まで真っ赤だよ。」

「…もう、黙ってろ。」

湊がくれた恋愛祈願の御守り。
それの効果かは分からないが、龍一との関係に一役買ったのは事実だ。

「この後空いてるか?飯でも食いに行こうぜ。」

「凪も行くよね?」

「ああ。」

(…手、貸してやるか)

変わってしまったとしても、悪いこととは限らない。
少なくとも今の俺は「幸せ」なのだから。
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