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純情デート take1
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(…流石に早すぎたか。)
腕時計で時刻を確認しても、予定まではまだ15分程余裕がある。
二つ返事で了承を貰えたデートの約束。
いつになく気持ちが浮き立っているのは明らかだった。
身だしなみを整えていると停留所にバスが着く。
無地の長袖シャツにパーカー、清楚感を漂わせる服装。
首元にはシルバーのチャームがしっかりと光沢を放つ。
入院着姿しか知らないので私服の凪を見るのは新鮮だ。
「待った?」
「そんな焦らなくても、まだ10分前だ。」
バスの人混みで乱れた髪をそっと直してやる。
お互いに「待たせたくない」という考えは同じだったようで、1本前の便に乗って来たという。
「服、自分で選んだのか?」
「先輩にも手伝ってもらって。…途中から遊ばれたけど。」
先輩というのは寮に住んでいる大学生のこと。
最初は組み合わせを何パターンか試していたところを別の女子が嗅ぎ付け、純粋な少年はものの数分で暇を持て余した大学生達のオモチャへと成り下がった。
コーディネートと称した着せ替えバトルに巻き込まれ、優勝したのがこれらしい。
「可愛い後輩で遊びたくなる気持ちは分かるけどな。」
「…龍一まで。」
呆れ半分な溜息に苦笑する。
寮での共同生活も問題なく出来ているようだ。
まごつきながらも、意識して名前で呼んでくれる。
敬語を外せと頼んだのは、自分でも少しわがままを言ってしまった節はあったが、二人の距離が縮まった気がして嬉しかった。
凪は押しに弱い、俗に言う「ツンデレ」なのかもしれない。
「じゃあ、行くか。」
目的地に向かって歩きだす。
八分咲きの桜の花弁が舞い、ピンク色に染まった路面。
春休み終盤なのも相まって、多くの家族連れやグループが行き交っていた。
「チケット二名でお願いします。」
「かしこまりました。楽しんでくださいね。」
係員に誘導され、ゲートをくぐった先には巨大な水槽。
薄暗く灯されたライトが神秘的な空間を演出する。
「どこから回る?」
「クラゲが人気らしいぞ。」
入口で貰ったパンフレットには挿絵付きでおすすめスポットが書いてある。
都内有数の広さを持つ水族館、全部見て回るのは中々大変そうだ。
アシカショーで人は流れてるし、移動するなら今のうちといったところか。
半透明のクラゲがふわふわと揺れ、熱帯魚のビビットカラーが目に眩しい。
凪の横にはさっきから水槽越しにイルカが後を追う。
「よし、撮れた。」
「好かれてんな。俺には寄って来ないのに。」
カメラの画面には躍動感に満ちた生物が織りをなす。
また一つと増える思い出。
凪の表情にも自然な笑みが零れていた。
「ごめん。一人ではしゃいでるみたいで。」
親にこういった場所に連れてってもらった経験がなかったのか「…水族館とか初めてで」としどろもどろだ。
俺としては楽しんでくれた方が、誘った甲斐がある。
「俺も浮かれてんだよ。せっかくのデート、楽しんだもん勝ちだろ?」
「…あんま大声で言うなよ。」
照れ隠しで顔を背けられるが、「デート」を否定しないあたり、本人も意識しているということだろうか。
真相を尋ねたら拗ねてしまいそうだから辞めておく。
代わりに左手を差し出した。
「繋いでもいいか?」
一瞬だけ触れた手が包み込まれる。
歩を進める度、靴の音が揃って響く。
「凪は行きたいとこあるか?」
「…ペンギンとか、見てみたいかも。」
まだ人が少ない水の中、過ごす時間はとても心地良いものだった。
腕時計で時刻を確認しても、予定まではまだ15分程余裕がある。
二つ返事で了承を貰えたデートの約束。
いつになく気持ちが浮き立っているのは明らかだった。
身だしなみを整えていると停留所にバスが着く。
無地の長袖シャツにパーカー、清楚感を漂わせる服装。
首元にはシルバーのチャームがしっかりと光沢を放つ。
入院着姿しか知らないので私服の凪を見るのは新鮮だ。
「待った?」
「そんな焦らなくても、まだ10分前だ。」
バスの人混みで乱れた髪をそっと直してやる。
お互いに「待たせたくない」という考えは同じだったようで、1本前の便に乗って来たという。
「服、自分で選んだのか?」
「先輩にも手伝ってもらって。…途中から遊ばれたけど。」
先輩というのは寮に住んでいる大学生のこと。
最初は組み合わせを何パターンか試していたところを別の女子が嗅ぎ付け、純粋な少年はものの数分で暇を持て余した大学生達のオモチャへと成り下がった。
コーディネートと称した着せ替えバトルに巻き込まれ、優勝したのがこれらしい。
「可愛い後輩で遊びたくなる気持ちは分かるけどな。」
「…龍一まで。」
呆れ半分な溜息に苦笑する。
寮での共同生活も問題なく出来ているようだ。
まごつきながらも、意識して名前で呼んでくれる。
敬語を外せと頼んだのは、自分でも少しわがままを言ってしまった節はあったが、二人の距離が縮まった気がして嬉しかった。
凪は押しに弱い、俗に言う「ツンデレ」なのかもしれない。
「じゃあ、行くか。」
目的地に向かって歩きだす。
八分咲きの桜の花弁が舞い、ピンク色に染まった路面。
春休み終盤なのも相まって、多くの家族連れやグループが行き交っていた。
「チケット二名でお願いします。」
「かしこまりました。楽しんでくださいね。」
係員に誘導され、ゲートをくぐった先には巨大な水槽。
薄暗く灯されたライトが神秘的な空間を演出する。
「どこから回る?」
「クラゲが人気らしいぞ。」
入口で貰ったパンフレットには挿絵付きでおすすめスポットが書いてある。
都内有数の広さを持つ水族館、全部見て回るのは中々大変そうだ。
アシカショーで人は流れてるし、移動するなら今のうちといったところか。
半透明のクラゲがふわふわと揺れ、熱帯魚のビビットカラーが目に眩しい。
凪の横にはさっきから水槽越しにイルカが後を追う。
「よし、撮れた。」
「好かれてんな。俺には寄って来ないのに。」
カメラの画面には躍動感に満ちた生物が織りをなす。
また一つと増える思い出。
凪の表情にも自然な笑みが零れていた。
「ごめん。一人ではしゃいでるみたいで。」
親にこういった場所に連れてってもらった経験がなかったのか「…水族館とか初めてで」としどろもどろだ。
俺としては楽しんでくれた方が、誘った甲斐がある。
「俺も浮かれてんだよ。せっかくのデート、楽しんだもん勝ちだろ?」
「…あんま大声で言うなよ。」
照れ隠しで顔を背けられるが、「デート」を否定しないあたり、本人も意識しているということだろうか。
真相を尋ねたら拗ねてしまいそうだから辞めておく。
代わりに左手を差し出した。
「繋いでもいいか?」
一瞬だけ触れた手が包み込まれる。
歩を進める度、靴の音が揃って響く。
「凪は行きたいとこあるか?」
「…ペンギンとか、見てみたいかも。」
まだ人が少ない水の中、過ごす時間はとても心地良いものだった。
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